春野サクラ、十二歳。忍者学校を卒業してから第七班として任務をこなす日々。立派な忍になれるように、それからこの恋が叶うようにそれぞれの道を歩いています。
 忍としては任務を重ねることで少しは成長しているのかな……? でも、恋の道は全然進歩がない気がする。好きな人はすぐ近くにいるんだけど、彼は近くて遠い存在。






「今日の任務はこの薬草を見付けることだ」


 相変わらず毎日のように遅刻をしてくる私達の担当上忍。お決まりのやり取りを終えた後に、カカシ先生は何事もなかったかのように本日の任務の説明を始めた。
 この薬草、と言われながら見せられた写真。それを見るなりナルトは「草なんてどれも同じだってばよ」なんて言っていたけど、薬草とそこら中に生えている雑草を一緒にされるのは困る。間違って変なものを見つけなければ良いんだけど。


「うーん……これがそうかな? それともこっちか?」


 さっき写真を見たばかりだというのにナルトはさっぱり分からないようで早速迷っている。ちなみにナルトが依頼の品かどうか考えているそれらはどちらも外れ。
 この様子だとナルトに薬草を見付けるのは難しいんじゃないのかしら。カカシ先生は今日も私達を手伝ってくれる気はないみたい。せめてナルトのことくらい見てくれたらと思ってしまうのは、このままでは毒草も採りかねないからだ。


「ナルト、アンタちゃんとやりなさいよ」

「分かってるってばよ」


 一応声は掛けてみたけれど大丈夫なのかしら。本人は真剣なのかもしれないけれど、見ている方からすると危なっかしいというか。


「あ! サクラちゃんこれは!?」

「それは違うわよ。もっとよく写真を見なさい」


 同じだと思うけどななんて零しているけれど、私にはどうやって見ても同じには見えないわよ。写真を片手に見比べても間違えるのはどうしたら良いのか。私の手におえるレベルじゃない気がする。
 下忍の私達にはDランクの任務が回ってくることも多い。けれど、こういう任務の時はちょっと大変だ。探すのが大変なのは当たり前だけど、薬草と見分けがつかないからってむやみやたらに聞かれるのは困りもの。これなら草取りの方が単純で良いけれど、任務だからそうも言っていられない。


「ウスラトンカチが。そのくらい分かるだろうが」

「ウッセーってばよ! これだって写真と同じだろ!」

「全然違うだろ。ったく、ドベがいるとこっちが困る」

「んだと!?」


 そしてまた喧嘩。でもサスケ君の言う通りよ。どこをどうみたらその写真と目の前にある草が同じになるのかしら。サスケ君が文句を言いたくなるのも無理ないと思うわ。私だって同じように思ってるし。


「ちょっとナルト、騒いでないで早く探しなさいよ!」

「サクラちゃん、だってサスケが……」

「文句言わない!!」


 はあ、と溜め息を吐きながら薬草探しを続ける。ナルトがずっとこんな調子でカカシ先生も手伝ってくれないとなれば、実質私とサスケ君の二人でやっているようなものじゃないかしら。しかもカカシ先生の話では、この薬草はあまり生息していない珍しいものらしい。そんな数少ない薬草をこんな感じで探していくなんて……先が思いやられるわね。


「ナルト、最初に言っておくけどこの辺には毒草もあるから」

「毒草? じゃあ気を付けねぇと……」

「ついでに言うと、お前の足元のそれも毒草ね」

「えー!?」


 カカシ先生の指摘でナルトがすぐに一歩分後ろに下がる。やっぱり、毒草も知らなかったのね……。今のナルトを見ていると中忍試験の二次試験、死の森でのサバイバルも危なかったんじゃないかと思ってくる。あの時も私やサスケ君が一緒にいたから間違って毒草を食べることになんてならなかったけれど。
 そういうことは早く言って欲しいと主張するナルトに対して、カカシ先生は普通は分かるでしょと返している。そう、普通ならこれくらい分かること。万年ドベだったナルトが分からないというのもある意味当然かもしれないけれど。


「普通ってことはないと思うってばよ。どれも似てるしさ」

「……お前、よく忍者学校卒業出来たな」


 これでも忍者学校には、そういう類の授業もある。忍者学校という場所だから難しいことまでは教わらないけれど、簡単な薬草や毒草については本来授業で習っているはずなのだ。それが忍には必要な知識だから。ナルトのことだし、どうせ寝てたんだろうけど。


「こんなの覚える必要なんてねぇじゃん」

「あのな、ナルト。それじゃあ長期任務で食料を確保する時とかどうするのよ」

「それは勿論、食べれるものを確保だってばよ!」


 だから大丈夫だと言いたげにしているけれど、大丈夫なわけがない。絶対に食べれないものまで採るでしょと言ったカカシ先生に私も同意。そのカカシ先生は面倒になったのか「ま、頑張れ」とだけ言って読書を再開してしまう。
 さて、私も薬草探しをしなくちゃいけないけど、さっきからずっと探しているこの辺りにはないのかもしれない。カカシ先生によれば、薬草はここら一帯に生息しているのであって今目に見えている範囲が全てではない。ここにはサスケ君もいることだし、少し別の場所を探した方が良さそうだ。
 そう思って私は捜索場所を変えることにした。



□ □ □



「この辺にもないのかしら……」


 本当に依頼の薬草はどこにあるのよ。簡単に見つかるものではないと初めから分かっていたとはいえ、任務を開始した地点からどれくらい離れただろうか。といっても、カカシ先生に言われた範囲内であるのは確かだからそう遠くはない。
 一度元の場所に戻って、それからまた別の場所を探しに行った方が良いのか。そう思った時、目の前にある崖が目に入った。そこまで高くはないけれど落ちたらそれなりに怪我をするような高さ。ここはこのまま離れた方が良さそう――だと思ったんだけど。


「あっ! あれって依頼にあった薬草じゃない!?」


 眼下にある崖の一角にあったそれこそが、私達が探している薬草だった。まさかこんな場所にあるなんて予想外だ。でも、希少な薬草ならこういう危険な場所にあっても不思議ではないかもしれない。偶然とはいえ、数少ない薬草を見落とさなくて良かった。
 ただ、問題はやっぱりこの高さだ。この薬草を持ち帰ることが任務とはいえ、これは手を伸ばしても届く距離ではない。


「やっぱりあそこまで降りるしかないわよね……」


 私だって下忍とはいえ一人の忍。チャクラコントロールは得意な方だ。上手くやれば大丈夫なはず。ちょっと怖いけど、ここでこの薬草を見逃すなんて出来ない。
 よし、と覚悟を決めてゆっくりと崖を降りる。チャクラコントロールに気を付けながらゆっくり。そうして無事に薬草のあるところまで辿り着いた。


「うん、これで間違いないわね」


 写真と薬草を比べても相違はない。あとはこれを持ち帰るだけ。
 摘んだ薬草はポーチにしまって私は崖を見上げた。高さはそれなりにあるけれど、降りられたんだから注意をして登ればいけるはずだ。さっきと同じ要領でチャクラをコントロールして……。
 そう思いながら集中するが、不意に耳に僅かな音が届いた。それが聞こえたのとチャクラで吸着していたこの場所が崩れたのはほぼ同時だった。


「きゃぁぁあ!!」


 土の層にも崩れやすい場所はある。今の場所がたまたまその場所だったらしい。
 どうしよう、このままだと……落ちる!!


「サクラッ!!」


 え……? 落ちていくはずなのに落ちていない。それに今の声は……。
 状況がさっぱり飲み込めず、私は反射的につぶってしまった目を恐る恐る開いた。


「サ……サスケ君!?」


 私の目の前にはサスケ君が。どうしてサスケ君がこんなところにいるのか。だって、私はこの場所で一人で来たはずなのに。
 疑問がぐるぐると頭の中を駆け巡るが「上がれるか?」と聞かれてなんとか首を縦に振った。どうやらワイヤーを使って崖から降りて私を助けてくれたみたい。私はもう一度チャクラを集中して、今度はそのまま上まで登りきることが出来た。


「サスケ君、ありがとう」


 崖を登り終えて落ち着いたところでまだ伝えていなかったお礼を告げる。それに対してサスケ君は「別に」とぶっきらぼうに返すと、それよりと言葉を続けた。


「何で一人でこんなことをした」


 その声は明らかに怒っていた。任務だから、というのは答えとして正しくないんだろう。そうでなければこんな崖を降りたりしないことくらい、サスケ君だって分かってる。危険なことをする前に誰かに声を掛けるべきだと、サスケ君はそう言いたいんだろう。
 それは分かる。でも、私だっていつもみんなに頼ってばかりはいられない。チームワークとかそういう話ではなく、いつも助けられるばかりは嫌だった。


「……私も、私だって。みんなの役に立ちたかったから」


 サスケ君もナルトも、私の前に立って進んでくれる。危なくなればいつだって助けてくれて、私はいつも二人に守られてばかり。同じところからスタートしたはずなのに、二人はどんどん先に進んでしまう。


「お前だって、いつもオレ達と一緒に任務をやってるだろ」

「けど! 何かあればいつもサスケ君とナルトがやってくれるじゃない!」


 一人で無茶をするつもりなんてなかった。ただ、いつも二人が先に行ってしまうから、私だって二人の力になりたかった。
 だって、二人が守ってくれると私の出番なんて殆どない。二人がいてくれることは心強いけれど、その反面で私だけが全然役に立てていないんじゃないかって。そんな風に思うことがある。


「だから、私も何かしたいって思ったの。私だけ、いつも何の役にも立てないから……」


 自分で言っているのに何だか落ち込む。思い返せば思い返すだけ、私は本当に二人の役に立てる場面なんてなくて。戦闘になれば二人が前で戦ってくれるから私は守られるだけ。私も二人と強くなっていると思いたいけれど、目の前にあるのはいつだって二人の後ろ姿。二人と並んで歩きたいのに、私は数歩後ろから彼等を見つめている。
 確かに一人で危険なことをする必要はなかった。一言でも声を掛けておけば、こんな危ないことも起こらなかったかもしれない。サスケ君が来ていなければ今頃……。みんなの役に立ちたいって言っておきながら、私は結局迷惑を掛けただけ。


「…………そう思ってるのは、お前だけだ」


 その言葉に、思わず「え」と聞き返してしまった。サスケ君が何を言いたいのか分からなくて。そうしたら彼は「お前だって、いつも色々やってくれてるだろ」と続けた。


「七班にサクラがいかったら、オレ達はこんな風にやってはいけなかった」


 そんなことはないと思った。二人がいれば、もしかすると私がいなくたって……。でも、私のその考えをサスケ君は否定する。私がいなければ、七班はやっていけないんだと。


「当たり前だが、オレ達は三人共それぞれ違う。一人でもいなくなったら七班は成り立たない」


 そういえば、私達が三人一組を組んで初めての任務。カカシ先生から言い渡された任務――サバイバル演習では、チームワークが大事だって言われた。その時チームワークの大切さを教えられた私達は、数々の任務をこなしながらそれを深めていった。中忍試験だって三人で力を合わせて戦った。
 そもそも三人一組が発表された時。イルカ先生は私達をチームのバランスが均等になるように分けたと言っていた。私達はみんなそれぞれ違っていて、得意不得意も当然違う。だからこそ助け合うんだ。一人でも欠けたらチームとして成り立たないんだ。


「……そうよね。ごめん、サスケ君。私、何か勘違いしてたみたい」


 私は一人で勝手に悩んでいたみたい。戦闘面で二人に追いつけなくても、私には私にしか出来ないことがある。二人と同じである必要はないんだ。チャクラコントロールなら二人にも負けない自信はあるし、記憶力だって良い方だ。
 サスケ君の言葉がすとんと胸に落ちた。私達は三人揃ってこそ、第七班。変に悩む必要なんてなかった。私は私で、二人と一緒に進んでいけば良い。


「そろそろ戻るぞ。あのウスラトンカチが何してるか分からないからな」

「そうね。また薬草と毒草を間違えても大変だし」


 言って私達は笑い合う。
 大丈夫、もう迷ったりはしない。私はもう気付けたから。三人一組っていう大切なものを。


「ありがとう、サスケ君」


 本日二度目のお礼。さっきのは助けてくれたことに対して、今度のは私にそれを思い出させてくれたことに対して。本当に、ありがとう。


「別に礼を言われることはしていない」


 言うなり「行くぞ」と地面を蹴った彼の背中を私も追い掛ける。最初の場所に戻ったら、案の定ナルトが毒草と薬草を間違えているのを笑ったりして。いつも通りの任務の光景が広がっていた。

 こうして話をしている思うんだ。私も忍として、少しずつだけどちゃんと進んでいけているということ。それと、恋の方も僅かかもしれないけれど進んでいるんじゃないかって。
 そういえば、あの時どうしてサスケ君は私を助けてくれたんだろう。一人離れた私を探しに来てくれたことを都合の良いように解釈したくなってしまう。それはやっぱり、彼のことが好きだから。忍者学校の頃を思えば、こんな風に話を出来るようになっただけでもかなりの進歩だ。

 忍としてもっと成長していきたい。彼等の隣をずっと並んで歩けるように。
 そして、いつの日か。この恋が叶う日が来ますように。

 それが恋するくノ一、春野サクラの願い。










fin