つい数日前まではクリスマス一色だった里の中。どこを見てもクリスマスのものばかり。賑やかだったそれも、クリスマスが過ぎた今となっては何も残っていない。クリスマスが終わればすぐに年末。そして年越しを迎える。
そう。木ノ葉隠れの里も今はお正月色に染まっていた。
買い物
「ったく、買い物とかめんどくせーな……」
すっかりお正月色の里の中をシカマルは一人文句を言いながら歩いていた。間違ってもそれを母に直接言ったりはしないけれど、正直なところ家でごろごろ過ごしていたかったというのが本音だ。それでも結局こうして買い物に来たのは、文句を言って怒られる方が面倒だと判断したからである。
「にしても本当、今はお正月ムードだな」
少し前まではクリスマス一色で、あちこちがイルミネーションで華やかに彩られていた。それがたった数日でここまで変われるのだから凄いなと思う。もっとも、そこに下忍である彼等も駆り出されたわけだが。
「けど、また数日もすれば片付けるんだよな……」
お正月だってそう長いわけではない。この数日が過ぎればこれらの飾りもまた片付けることになる。その内の幾つかは、Dランク任務として依頼されるのではないだろうか。それを面倒だなと思ってしまうが、これも立派な行事の一つなのだから仕方がないだろう。
「さてと、買うものも買ったし帰るか」
あまり寄り道をしていると、家に帰った時に何をしていたんだと怒られるだろう。それは避けたいところだ。もう用事もないのだからここは早く帰ろうと歩き始めたところで。
「シカマル?」
後ろから名前を呼ぶ声がした。
「サスケ!」
振り返れば、そこには同期のサスケの姿があった。忍者学校に通っていた頃は毎日のように顔を合わせていたけれど、下忍になってからはお互い班が違うためになかなか会う機会もなくなった。それぞれ任務があるのだから当然といえば当然だ。
「久し振りだな。お前も買い物か?」
「ああ」
サスケの手には、スーパーの袋が握られていた。同じく袋を手にしているシカマルにサスケも同じ問いを掛ければ、母ちゃんに頼まれちまってとこちらも肯定で返す。
「お前とこんなところで会うとは思わなかったぜ」
「それはこっちの台詞だ」
一人暮らしをしているサスケは、それなりに買い出しに商店街までやってくる。一方、シカマルは母に頼まれなければ商店街まで出向くことも多くはない。今だって母に頼まれたからここに居るのだ。
けれど、ここのところ全く会えていなかったサスケと出会えたから今日は来て良かった。単純かもしれないが、シカマルは心の中でそんなことを思った。
「買い物はもう終わったのか?」
「オレはこれで全部だ」
「なら一緒に帰ろうぜ。オレももう終わったとこだしよ」
シカマルの提案を断る理由はない。サスケが頷けば、二人はどちらともなく並んで歩き始めた。僅かに緩んだ表情に、シカマルも口元に笑みが浮かぶ。
こうして二人で歩くのもどれくらい振りだろうか。最近は任務が忙しくて全然会えていなかったから、こんな些細なことでも胸が高鳴る。
「十二月は忙しかったよな。任務っつっても、掃除ばっかりだったけど」
「年末だからな。そういう任務が増えるのも仕方がないだろ」
もっと高ランクの任務をしたいというのがサスケの本音ではあるが、まだ下忍である自分達にはDランク任務ばかりが回ってくる。それも誰かがやらなければいけないのだから、仕方がないといえばその通りだ。
そして、そのDランク任務というのが十二月は掃除関係のものばかりだったのだ。年末といえば片付けをする時期であり、そういった依頼が増えるのも必然だ。書物庫の整理から、とある家に出向いての掃除。他にも庭掃除やら何やら、Dランクらしい任務を多くこなした十二月だった。
「それに加えて、家でもやたらと手伝わされるしよ。めんどくせーことばかりだったな」
「そうだな。だが、これからは雪で大変だろうぜ」
これからの季節は雪が降ることもあるだろう。そういう時に駆り出されるのは、やはり下忍である彼等だ。除雪作業が依頼として入ってくることはほぼ間違いない。天気のことは誰にも分からないから絶対にやることになるとはいえないが、一回くらいは任務としてやることになるだろう。
それを考えて「めんどくせーけどな」と思わずいつもの口癖が零れる。口には出さないがサスケもこれについては同意見だ。出来るなら降らないで欲しいと思うが、今年の冬はどうなるのやら。
「そういや、七班は今日まだ任務とかあんのか?」
「今日は休みだ。明日はあるけどな」
きっと今も任務でどこかに赴いている忍は沢山居るのだろう。世間では正月だが忍には関係ない。それは正月に限らず、何かあればどんな時でも任務に就くことになるのだ。
とはいえ、二人はまだ下忍だ。何かあれば任務に就くことになるのは当然だが、他の同期の連中も今日は休みなのではないだろうか。かくいうシカマルも今日は休みである。
「じゃあ、一度家に戻ってからお前の家に行っても良いか?」
せっかくこうして会えたのだ。もっと一緒に居たいと思ってしまうのは、恋人としては当然の心理だろう。班が違うこともあって休みが重なるということもそうあることではない。このまま一緒に帰るだけでさようなら、というのは寂しい気がした。
「……ああ」
一瞬きょとんとしたサスケだったが、優しく微笑んで肯定を返した。一緒に居たいと思うのはシカマルだけではない。サスケだって、出来るのならまだ一緒に居たいと思っていたところだ。勿論、それは彼のことが好きだから。
「ならすぐに置いてくるから――」
「別に急ぐ必要はないだろ。お前の家に寄ってから行けば良いだけだ」
少し遠回りになるけれど、何か用事があるわけでもない。シカマルが一人で荷物を置いてサスケの家まで来ても構わないけれど、どうせならこのまま一緒に行っても良いのではないかと思うのだ。
その方が一緒に居られる時間も増えるから、とは言わないけれど。ほんのりと朱に染まった頬でなんとなくシカマルにもサスケの言おうとしていることが分かった。
「……それもそうだな。んじゃ、行くか」
「ああ」
本来なら別々に進む分かれ道。そこを同じ方向へ二人で進む。
買い物に行った先でばったり会った偶然。その偶然に感謝して、今日は時間の許す限り共に過ごそう。
fin