今一番欲しいモノ? 何だろう。急に聞かれると考えてしまうけれど、今一番欲しいモノはちゃんとあるよ。それは…………。



笑顔




「今何が欲しいか?」


 言われたことをそのまま問い返してみれば、サスケは首を縦に振った。何かないのか、というような目でカカシの方を見ている。
 視線を向けられてカカシはうーんと考える。急に何が欲しいと言われてもすぐに答えるのは難しい。いつも必要なものがなくなればすぐに買いに行くからそういった物はない。目の前の子供はそんなことを聞きたいわけではないのだろうけれど。


「一つくらいあるだろ?」

「一つくらいってね…………」


 そう言われてもなかなか思いつかないものだ。何か欲しいモノがあるならすぐに思いつくのだろうが今のカカシにとってはそれがないということだろう。何かないかと頭を回転させるが上手く探し当てられない。

 今朝、サスケが珍しく自分からカカシの家に着たかと思ったら最初の言葉はコレだった。
 何か欲しいモノはないか、と聞かれたときは驚いたが今日が自分の誕生日だったことを思い出したカカシは自然と嬉しくなった。そんなことを気にしなさそうな彼が誕生日を覚えていてくれたことが素直に嬉しい。


「うーん……何かあるかな……」


 せっかく誕生日を祝ってくれるというのだ。その気持ちだけでも凄く嬉しいけど、何か欲しいモノがあるかとまで聞いてくる。今は何もない、なんて言うのもどうかと思う。彼は祝ってくれると言っているし、カカシ自信もその気持ちが嬉しいから受け取りたいと思う。何か欲しいものがないかと必死で探す。
 何かないかと考えていると、答えになるようなことが見つかった。それは、すぐに見つかりそうで見つからなかった答え。


「あ、サスケの笑顔が見たい」


 言えば、サスケは驚いたようにカカシを見た。何言ってるんだとでも思ったのだろう。何か欲しいモノはないかと聞いたのはサスケなのだが、まさかそんな答えが返ってくるとは思っていなかった。


「アンタ、本気で言ってるのか……?」

「勿論本気だよ。オレはサスケの笑顔が見たいな」


 確認する問いに肯定を返せば「馬鹿じゃねぇの」なんて言われた。確かに他人からすれば馬鹿なことかもしれない。だけど、カカシにとってはこれは一つの欲しいモノ、見たいものなのだ。
 サスケは今、十三歳の子供だ。だけどあの事件があったからかあまり子供らしいところを見せない。たまに年相応の表情や行動を見るが本当にたまだ。だから、サスケの笑った顔が見たいと思った。


「オレはそれだけで十分だから」

「アンタ、やっぱり馬鹿だろ。大体、笑顔が見たいなんて言われても……」


 急に笑顔が見たいと言われてもすぐに出来るものではない。すぐに、というより簡単に出来るものではないといった方が良いだろうか。いくらカカシに言われたからといっても、サスケにとっては難しいことだ。どうすればいいかと考えても答えなんて出ない。


「分かってるよ。そんなこと言われても無理なんでしょ?」


 それは、欲しいモノというよりサスケに笑っていて欲しいという願いのようなもの。
 子供らしくしない彼のたまにみせる子供のような姿。それは歳相応のもので、それが本来の彼なのではないかと思う。あの事件がなければこんな風にしていられたのかもしれない、と余計なことまで考えたことがある。無理だと分かっていても言ったのは、たまに見せるその子供らしいモノを彼にあげたかったから。


「分かってるなら言うな」

「欲しいモノって言われたから、それを答えただけだよ」

「それは“モノ”とは言わないだろ」


 モノ、という形のある物ではなくてもカカシが欲しいモノだということに変わりはない。それはサスケも分かっているが、そんなものが欲しいなんて変わっていると思ってしまう。もっと他に欲しいものはないのか。
 けれど、カカシは冗談で言っている風にも見えない。疑問に思う部分はあるけど、それでもこれがカカシの欲しいものだと分かる。


「ま、無理って言ってもたまには……ね? オレはお前が祝ってくれることが嬉しいからそれだけで十分だよ」


 本当の気持ちを伝えるとサスケはほんのりと頬を朱に染めた。こんな風に誕生日を祝ってもらえるなんて思っていなかったからそれだけで十分嬉しい。彼が祝ってくれるだけでこんなにも嬉しいのだ。


「……それじゃあ、やるものはねぇけど今日はアンタと一緒に過ごしてやる」


 その一言がまた嬉しくなる。祝ってくれるという彼の気持ちや一緒に過ごしてくれるという彼の行動。それが本当に嬉しくて、今日は今までで一番の誕生日なんじゃないかなんて思ってしまうほど。実際に、今日が今までで一番の誕生日なのかもしれない。大好きな彼にこんなにも祝ってもらえる。そんなに嬉しいことはこれが始めてだから。


「有難う、サスケ」


 これといったやることがあったわけではない。だけど今日一日。二人は一緒に過ごした。一日は長いようで短い時間。その時間を二人で一緒に過ごし一日の時を刻んだ。
 今日が九月十五日――カカシの誕生日だから。祝いたい気持ちと、それを嬉しいと思う気持ち。二人はいつだって一つに繋がっている。

 今一番欲しいモノ? それは君の笑顔。子供らしさを見せる君の笑顔が見たいんだ。たったそれだけのこと、って思うかもしれないけど僕にとっては今一番欲しいものなんだ。
 君の笑顔が見たい。君に笑顔を届けたい。











fin