お正月といえば初詣、おせち料理、角松。他にもお正月から連想されるものは幾つもあるだろう。子供なら凧揚げ、かるた、福笑いといったお正月の遊びが上がってくるかもしれない。
 そんなお正月にここ、うちは本家で暮らす兄弟達もそのお正月らしい遊びをしていた。



こま




 ――クルッ。
 紐を素早く引くと、手から離れたこまが綺麗な模様を描きながら回る。ぐるぐると、バランスを崩すことなく回ること数十秒。段々と動きが鈍くなってきたかと思うと、コトッという音を立てて止まった。


「兄さんは、やっぱり凄いや!」


 こまが回る様子をじっと見つめていたサスケは、キラキラと目を輝かせて兄を見る。こんなに綺麗にこまが回せるなんて、と尊敬するような眼差しだ。
 というのも、サスケはこま回しが上手く出来ないのだ。先程も何度かチャレンジしてみたのだが、どうもこまは回らずに終わってしまう。


「オレも兄さんみたいに回せられたらな……」


 同じようにやっているはずなのに出来ないということは、どこか兄と違っているということなんだろう。そうでなければサスケのこまも回るはずだ。だがそうならないということは、何か原因があるということになる。
 一体、兄のやり方とどこが違うのだろうか。兄ほど上手くは出来なくてもいいから、一度くらいきちんと回してみたいと思うのだ。サスケが何度も失敗している横で、イタチは今のところ一度も失敗していない。どこをどうすれば、こまは回ってくれるのだろうか。


「サスケ、もう一度こまを回してみろ」


 こまを上手く回す方法を考えていたところでイタチにそう言われ、サスケは不思議そうな顔をした。


「どうして?」

「良いからやってみろ」


 疑問の答えを得ることは出来なかったが、とりあえず兄の言うようにサスケはこまを回してみることにした。
 左手にはこまを持ち、右手で紐を持つ。その紐をぐるぐるとこまの下から順に巻いていく。最後まで巻ききったら、勢いをつけて紐をシュッと引く。

 ――コロン。
 だが、やはりこまは回ることなく倒れてしまった。既に何度目かの光景である。


「……やっぱり兄さんみたいには回らないや」


 何が悪いのか。どこに原因があるのか。回る気配すら見せないこまにサスケは肩を落とす。


「そうだな。紐の巻き方と、引き方も少し変えた方が良いかもしれない」


 そんなサスケに、イタチはさっき見て気になった点を挙げた。サスケがずっと考えても分からなかったことをイタチは一度見ただけで分かったようだ。それを純粋に凄いと思いながらも、サスケは急かすようにイタチに問う。


「じゃあ、どうすれば良いの?」


 それらをどうすれば、兄のようにこまを回すことが出来るのか。早く知りたいというように見上げてくる弟にイタチは小さく笑みを浮かべる。


「今度は一緒にやってみよう。急がず、丁寧に巻くんだぞ」


 こまを片手にそう言われてサスケは頷いた。それからサスケもこまを手に持って、イタチと同じようにゆっくり紐を巻いていく。
 見やすいようにこまを持ちながらイタチが巻いてくれるから、サスケは何度も確認しながら一周ずつ丁寧に紐を回す。綺麗に巻けなかった時は一度戻してからもう一度。それを繰り返しながら二周、三周と巻いていく。


「サスケ、これだとここが少し浮いているだろ?」


 一旦手を止めてイタチが指摘すれば、確かにそこは他と比べて紐が浮いてしまっているようだった。初めにそこを巻いた時はきちんと巻けていたはずだが、ぐるぐると巻いていくうちにいつの間にかそうなってしまったらしい。


「あ、本当だ」

「一度巻いたところは気付きにくいかもしれないが、こういうところがあると上手く回らないんだ」


 ちゃんと押さえていなければ紐はどんどんずれてしまう。下手をすると最初のところまでほどけてしまうほどだ。だからこまに紐を巻く時は丁寧に、気を付けながらやらなければいけない。


「こうなってしまったらそこまで戻るしかないからな。今度は気を付けるんだぞ」

「うん!」


 イタチに言われたように一度そこまで紐を戻し、そこからもう一度巻き始める。よく見てみれば、イタチのこまに巻いてある紐はずれたり浮いたりもしていない。こまを持つ手でちゃんと押さえられているからなのだろう。
 サスケも自分では押さえているつもりだったが、今度はもっと気を付けようと思いながら巻いていく。そうして巻いていくと、今度こそ綺麗に全部巻き終えることが出来た。


「これで良いんだよね……?」


 兄の方を見ながら尋ねると「ああ」と肯定が返ってきて思わず笑みが零れる。さっきのが原因だったんだなと漸く理解出来た。おそらくこれまではずっと先程のような形になってしまっていたのだろう。


「あとは回すだけだよね」

「回す時は、素早く紐を引くことが一番だ。こまのバランスも考えながら回すと良いだろう」


 そう言った後、イタチは自分で言ったように素早く紐を引いてこまを回して見せた。くるくると綺麗に回り始めたこまを見て、サスケもこまを構える。
 大事なのは素早く紐を引くこと。
 それを心掛けながら、思い切ってこまを投げる。同時に紐を引いたそれは、クルッと勢いよく地面を回り始めた。


「回った!」


 本日何度目かの挑戦になるこまは、イタチのこまと同じように綺麗に回っていた。近くを回る二つのこまを見るサスケはとても嬉しそうだ。そんなサスケを見て、イタチもまた嬉しくなる。


「良かったな、サスケ」


 サスケが嬉しいことは、イタチにとっても嬉しいこと。それはきっと、サスケにとっても同じことがいえるのだろう。イタチが嬉しいならサスケも嬉しい。二人はそんな兄弟なのだ。


「うん!!」


 どんなに小さなことでも、二人にとっては大きな喜び。
 それは一人だけの喜びではなく、二人で分かち合える幸せ。










fin