カキン、という金属がぶつかり合う音が響いている。それも一回や二回なんていう少ない数ではない。あちこちから幾つも聞こえるその音が、ここが戦いの場であることを示しているようだ。
この森の中、敵の数がどれくらいかなど知れたものではない。分かっていることといえば、こちら側の人間が一人しか居ないということだけ。
共闘
(一体、何人居るんだってばよ……!?)
飛んでくる忍具をかわし、持っているクナイで弾く。見えない敵の数に下手に動くことも出来ず、ナルトは防御をするばかりだ。
どうしてこんな状況になっているかなどナルトの分かったことではない。任務の帰り道の途中で、今のような状況になってしまったのだから。場所は木ノ葉よりも幾らかはなれた森の中。幸い、忍具が不足しているわけでも体力が減っている状態でもなかった。
(とはいっても、このままじゃキリがないってばよ)
体力もありチャクラもあっても、こうして防御ばかりでは仕方がない。攻撃に移らなければナルト自身の体力が尽きるまで戦闘は続くだろう。そんなことはしたいとも思わない。敵の攻撃のタイミングを見ながら、いつ動こうかと考える。考えている際にも、容赦なくやってくる攻撃には対処する。
相手の攻撃が少なくなったところでナルトは動き出す。ナルトに向かってくる忍具は手に持っているクナイや手裏剣を使って弾く。敵の数が分からないところで、無暗に攻撃をするのはあまりよくない。だから、少しでも広い所へと向かって走る。
(よし、あとちょっとだな)
行く時に通った地形を思い出しながら真っ直ぐ走る。確かもう少し行ったところに此処よりも広くなっている場所があったはず。そこは、此処とは違って木も多くなかった。森の一角にある草原のような場所だ。そこまで行けば、敵も隠れて攻撃がし辛くなる。ナルトからしても攻撃がしやすいことになるので、一秒でも早くそこに抜けるように足を速める。
木々を抜け、光の下に出る。そこまで来れば、ナルトの予想通り。敵も身を隠してばかりというわけにはいかなくなった。
「やっと出てきたな。コソコソ隠れて、オレに何の用だってばよ」
姿を現した敵の数は、予想通りに少ないと言える数ではなかった。何の用かと尋ねた所で答えは返ってこない。忍具だけでなく、体術や忍術をも使って攻めてくる敵に“影分身の術”を使う。一気に増えたナルトは、次々と敵に攻撃を当てていく。何発かの攻撃で倒せる相手もいれば、そう簡単に倒せない相手もいるようだ。どうやら、全てが同じレベルの忍ということではないらしい。そんな事実を発見しながらも、ただ攻撃を続ける。
十数人は倒しただろうか、という辺りで新たな気配を感じる。ナルトは、その気配に集中する。
(コイツ等の仲間か……? いや、でも一つは比べモンになんねぇってばよ)
近づいてくる気配に疑問を持つ。殆どは此処に居る奴等の仲間だと思われるもの。けれど、一つだけはどうも違う感じがする。気配の大きさも、他の奴等とは違う。
はっきりいえば、ナルトと同じくらいかそれよりも上かもしれないということ。もし、その気配の主が敵であれば厄介だと考える。そんな相手と戦いながら、他の奴の相手もしなければならないからだ。どうなのだろうかと試行錯誤するものの、今は目の前の敵を相手にする。
段々近づく気配に気を取られながらも戦いを続ける。一歩ずつ、結構速さだということも分かる。そして、ついにその気配の人物がこの場に辿り付いたことを感じた。反射でその方を見れば、信じがたい現実があった。
「サスケ……!?」
驚きながらもその名を呼ぶ。目の前に居るのは、間違いなくサスケだった。だけれど、里を抜けたサスケがこんな場所にどうしているのかと新たな疑問が生まれてくる。考えたところで結論も出なければ、ここが里ではないことからこの場にいるのもおかしいこととはいえない。
名前を呼ばれたサスケも、この状況に驚かざるえなかった。この場に近づくにつれて、慣れた気配を感じるとは思いつつもまさか本当にその人物がいるとは思わなかったのだ。つられてその名前を口にする。
互いの存在に驚きつつも、敵と戦う手を止めることはない。ナルトはクナイを使い、サスケは草薙の剣を使って相手に攻撃を与えると背中合わせになる。
「何でこんなトコにお前が居るんだってばよ」
「それはコッチの台詞だ」
背中越しに聞く久し振りの声。以前に会った時と変わらない、聞き慣れた、探し続けた声。それが今、こんなにも近くにある。
話したいこと、聞きたいことはたくさんある。けれど、それよりも先にやらなければいけないことがある。
「とりあえず、コイツ等をやるぞ」
「分かってるってばよ」
目の前の敵を倒すと決めた二人は一斉に動き出す。敵を倒していくその動きは、昔から変わっていない。何も相談していないのに、上手くコンビネーションが取れているあたりがこの二人らしい。忍術や体術、どれも合わせながら戦っている。
敵は見事な連携プレイに次々と倒されていく。そして、あまり時間がかからないうちにこの場に居る敵全員を倒し終えたのだった。
敵も倒し終わり、この場はナルトとサスケの二人だけとなった。静かになったこの場所に残っているのは、なんとも言いがたいような雰囲気だけ。どちらも話さないまま、サスケはこの場を去るように歩いていく。その姿に、ナルトは引きとめようと声を発する。
「待てよ、サスケ!」
呼び止めるかつての仲間の声にサスケは立ち止まる。必死の声を上げているナルトは、しっかりとサスケの姿を捉えている。
「行くなってばよ!!」
行かせたくない。一緒に居たい。木ノ葉に戻ってきて欲しい。
そんな思いを込めて叫ぶように話す。ナルトの強い言葉に、サスケは振り返りナルトの姿を見る。真っ直ぐと互いの姿を見ながら話す。
「オレには、まだやることがある」
それこそが里を抜けた理由であり、あの事件からずっと心に決めていること。兄であるイタチへの復讐。一族を滅ぼしたイタチに復讐しなければいけないのだ。それを終わらせなければ、何の為に里を抜けてまで大蛇丸の元へ力を求めて行ったのかも分からない。
どういう理由でサスケが里を抜けたのかはナルトも知っている。だから、サスケの言っているやることというのも何のことか分かっている。分かっていても、そのままそうですかと言って終われるわけがない。
「お前の言いたいことは分かる。けど、それでもオレはお前に帰ってきて欲しいんだってばよ!」
「…………いくらお前がそう言おうと、オレの意思は変わらない」
揺るぎない決意がこの一言から、その瞳から伝わってくる。下忍の班を組んだあの時から変わっていない強い意志だからこそ、これほどまでに強く感じる。だからといって、復讐がいいものだなんて思わない。サスケがどんな思いでこれまで生きてきたのかも分かっているつもりでも本当のところは分かっていないのかもしれない。
止めたい、帰ってきて欲しい。そう強く思っても、ナルトよりもサスケの方が長い間思いを抱き続けている。同じように強い意志でもやりきることが出来ないのだろうか。
「木ノ葉には、お前の居場所がある。お前が居るべき場所は、木ノ葉なんだ!!」
いくら強く話しても届かない叫び。
ナルトの声を背にサスケは歩き出す。必死で呼び止めようするその名を呼ぶ声も、虚しく消えてしまうだけ。とうとう、この場にはナルト一人だけとなってしまった。
何も出来ない無力さに膝をつく。何もしてやれない悔しさに、涙が浮かぶ。
「チクショー……!」
涙が頬を伝う。また、止めることが出来なかった。大切な仲間を救ってやることが出来ない。サスケは、かつてナルトのことを命がけで助けてくれたというのに。どうして何もすることが出来ないのだろうか。三年間も修行をして、結果がこれではどうしたらいいのか分からなくなってしまう。
「サスケェ……!!」
瞳から流れ落ちる雫は、止まることを知らないかのように流れ続ける。サスケを連れ戻す、それが一生の約束だと七班のもう一人である彼女に告げたのはいつのことだっただろうか。未だに果たせていない約束となっている。
でも、まだ果たせないと決まっているわけではない。それは、一生かけてでも果たすと決めた約束だからだ。これから先、またどこかでナルトはサスケに会うことが出来るはずだ。その時こそ、サスケを木ノ葉に連れ戻す。そう、心に決める。
いつまでも落ち込んでいるわけにはいかない。涙を拭き、立ち上がって広い空を見上げる。
「待ってろよ、サスケ」
誰にも聞こえないだろう言葉を届いて欲しいと思いながら空に向ける。今回、連れ戻すことが出来なかったのなら次こそは必ず連れ戻す。その為にも、またたくさん修行をして強くなる。
改めて心に決め直すと、里に向かって歩き出す。新しい、明るい明日のある道を。
fin