今日もまた任務はDランク。もっとランクの高い任務がやりたいと言えば怒られるというお決まりの流れが終わり、その内容を聞いてこれは少し大変そうだと全員が思った。
 Dランク任務、内容は四つ葉のクローバー探し。






 クローバーが沢山見られると言われた場所にやってきて、七班はそれぞれ依頼品探しを始めた。三人が草原の上にしゃがんで小さなクローバーを探している。その姿を遠くで木に凭れ掛かりながら、担当上忍のカカシは微笑ましそうに眺めていた。
 一方、本人達はといえば四つ葉のクローバー探しに必死になっている。どこを見てもあるのは三つ葉ばかり。これは四つ葉じゃないか、と思ったものも大抵は茎が絡まっていて二つが一緒になって見えただけ。


「あーもう! どこにあるんだってばよ!!」


 数時間が経った頃。ついにナルトが根を上げた。その声で一時作業を中断したサクラとサスケも、口には出さないものの心境は同じだろう。流石は珍しいからこそ幸せになれるといわれるだけの代物だ。そう簡単には見つからない。


「カカシ先生、そんな所で見てるなら手伝って欲しいってばよ」

「んー? オレは忙しいから。お前等で頑張ってね」


 どこが忙しいんだ、と三人が一斉に心の中で突っ込む。それを気にもせずに、手にはいつの間にか例のイチャイチャパラダイスが広げられている。
 カカシには頼んだところで無駄だというのは分かっている。三人は顔を見合わせて潔く諦める。


「それにしてもさ、四つ葉なんてオレ見たことねぇってばよ」

「探しても滅多に見られるものじゃないわよね。私も見たことないわ」


 幸せになれるという言葉を聞いて過去に探したことはあれど、二人共見つけたことはないらしい。その流れからサスケはどうなんだという視線が同時に向けられる。サスケはそもそもそんな物に興味はなく、二人と同じで見つけたことはないようだ。
 このメンバーの誰一人として見たことがないというクローバーを探そうとしているのだ。サスケに至っては探したことすらもないが。最初から分かっていたとはいえ、なかなか難しい任務だ。これなら同じDランクでもゴミ拾いを任された方がマシなんじゃないかとさえ考えてしまう。


「さっきから四つ葉かと思ったら三つ葉ばっかりだしさ」

「そうなのよね。重なっているだけで四つ葉じゃないことばっかり」

「沢山見つかるなら幸せにもなれないだろ」


 それはそうかもしれないけれどとは思うものの、三人で探し続けて既に三時間は経過している。このクローバー畑を端から探しているというのに全然見つからない。ここまでくると、本当に四つ葉のクローバーはあるのかという疑念さえ抱く。四つ葉の写真が存在している時点で、四つ葉のクローバーそのものも確実にあるのだが、こんなに見つからないものなのかと溜め息が零れる。
 何はともあれ、探さないことにはあるものも見つからない。雑談をしながら一つ一つのクローバーをチェックしていく。


「四つ葉は見付けたことないけど、忍者学校の頃にはこのシロツメクサで冠とか作ったのよね」


 シロツメクサの花を撫でながらサクラがそんな昔話をすると、ナルトがこれで冠を作れるのかと率直な質問をした。その問いに答えたのは意外なことにサスケで、編みこんでいけば出来るだろと簡潔に説明した。それにはサクラも「サスケ君が知ってるなんて意外ね」と口にした。ナルトも同感らしく隣で頷いている。
 そんなことを言われたサスケは、余計なことを言わなければ良かったとでも言いたげに舌打ちをした。予想通り、ナルトは何でそんなことを知っているのかと尋ねる。勿論、お前には関係ないだろと切り捨てられたが。


「そういえばさ、クローバーって三つ葉や四つ葉以外にもあるって本当かってばよ?」

「聞いたことはあるけど、四つ葉でさえこれなんだから滅多に見られないわよ」


 サクラの言葉にナルトも確かにと思う。四つ葉でさえこれだけ苦労しながら探しているというのに、更に上の五つ葉や六つ葉なんて相当探さないと見付けられないだろう。当然、この場に居る三人はその二つも見たことはない。


「これでさ、もし四つ葉じゃなくて五つ葉とか見つかったらどうする?」

「どうするもなにも、珍しいは珍しいが四つ葉が見付かるまでは任務続行だろう」

「やっぱりそうよね。どうせ見つからないだろうけど」


 そう言いながらも着々と四つ葉のクローバー探しを続けている。それからもなかなか見つからず、気が付けば太陽は西の空に傾いている。


「もう日が暮れるってばよ……」

「カカシ先生、この任務。今日中に終わらせるんですか?」

「そうだね。どうしても見つからなかったら明日も続けるけどね」


 本当なら今日中に終わらせる予定だったが、あまりにも見付からないらしい様子に今日中は無理なのかもしれないとカカシはそう言った。夜になれば明かりも少なくなり探すのも厳しい。そうなれば明日に持ち越しをするしかないだろう。
 駄目元でここまできたならカカシにも協力を頼んでみるが、答えは相変わらずだった。三人はクローバーを掻き分けて、四つで一つの珍しいクローバーをひたすら探す。


「あー!!!」


 もう日が沈み切りそうになった時、突然ナルトの大声がここら一体に響き渡る。何事かと全員がナルトを振り返れば、当の本人は嬉しそうに満面の笑みを浮かべている。


「これ! 四つ葉のクローバーだよな!?」


 そう言ったナルトの手に握られていたのは、間違いなく四つ葉。二つの三つ葉が合わさっている物ではない。正真正銘の四つ葉のクローバーだ。
 それを確認するなり三人は喜ぶと同時に見つかってよかったと安堵した。そんな三人を見ながら、カカシは「やーお疲れ」なんて声を掛けるが、何かを言い返す気力は残っていなかった。


「本当に四つになってるのね」

「なんか凄いってばよ!」


 一つの四つ葉のクローバに集まって、初めて目にするそれに興味を示す。カカシは見たことがあったのかと質問してみたところ、こちらも初めてらしい。これだけ苦労して探したけれど、依頼品であるのだからこれは依頼主の元へ届けられることになる。それがなんだか勿体ないが、任務である以上は仕方がないだろう。その為にこうして必死になって探していたのだから。


「どっかにもう一つくらいねぇかな」

「それで見つかるなら苦労しないだろ、ウスラトンカチ」

「誰がウスラトンカチだってばよ!!」


 ナルトの気持ちも分からなくないが、サスケの言うことは正論である。そんな二人のやり取りを見ながら「あ、でも」と声を上げたのはサクラだ。


「一つ見つけると、その辺りには四つ葉のクローバーが見つかり易いとも言うわよね」

「マジで!? それじゃぁ、もうちょっと探してみるってばよ」


 サクラの言葉を聞くなり、先程四つ葉のクローバーのあった場所を探し出すナルト。もしかしたらという思いを込めて、サクラもナルトと一緒になって探す。任務は終わったのだからこれ以上探す必要はないのだが、たまにはこういうのも良いだろうとカカシはその様子を眺めているだけ。サスケも溜め息を吐きながら、なんだかんだで二人の元へ歩いて行く。


「やっぱ見付からないってばよ」


 暫く辺りを探していたが四つ葉が見付かる気配はない。やはりそう簡単に見付かる物ではないということだろう。逆に、ここで見付かったならこれまでの苦労が何だったのだろうかとなる。そう考えれば、見付からないのも良かったのかもしれない。


「でも、カカシ先生。四つ葉のクローバーって見付けた人が幸せになるんじゃなかった?」

「そう言われてるけどお前等も苦労した通りだからね。どんな形であれ手に入れたかったんじゃないかな」


 こんな依頼をしてきた主は大名の娘だ。どうしても見付からないからと、カカシのいうようにどんな形であれ手に入れたいと依頼をしてきたのだろう。珍しい物であり持っているだけでも幸せの一部が訪れそうな気さえする。それが四つ葉のクローバーという物だ。
 だからこそ沢山ある三つ葉の中から、数少ない四つ葉を探すのだ。それが本当に幸せを運んでくれるかはともかく、そうなれるといわれている物に皆興味があるのだろう。


「四つ葉は幸せになれるって探されるけどさ、三つ葉にも良いところはあるよな」


 今度こそ四つ葉のクローバー探しを終わりにしたところで、ナルトがそんなことを呟いた。どういう意味なのかといえば、珍しい四つ葉だけではなくて三つ葉にも良いところはあるという話のようだ。具体的に挙げろといわれれば難しいけれど、ナルトの言うことも間違ってはいないだろう。
 沢山のクローバーの中から三つ葉の一つを手に取る。それにさと言いながらその三つ葉をサスケとサクラの前に出す。


「三つの葉っぱで一つっていうと、なんかオレ達みたいだってばよ」


 ナルトの言葉を聞いて一瞬きょとんとした表情を見せた二人だったが、すぐに笑みを浮かべた。そんな二人を見てナルトもニコッと笑う。
 任務は基本三人一組。彼等は三人で一つなのだ。それは最初のサバイバル演習でもカカシに言われたことでもあり、この三人一組は彼等にとっては特別な存在なのだ。確かにナルトの言う通り、三つ葉のクローバーも三つで一つ、忍の三人一組と似ているところがあるかもしれない。


「ナルト、それならオレも入れてくれたって良いでしょ?」

「えー! カカシ先生ってば見てるだけだったじゃん!」

「四つ葉は探すのも大変だしな」

「そうよ! 私達がどれだけ苦労してたか先生も見てたじゃない」


 三人に言われてカカシは「そこまで言わなくてもいいでしょ」と口にするが、ナルト達からすれば自業自得という奴だ。それでも、彼等にとっては立派な師であることには変わりはない。
 こんなことを言っていても、ちゃんとカカシも含めて第七班なのだということは三人全員が理解していることだ。三つ葉のようにすぐには見付かる物ではない為に手にして話すことは出来ないが、こればかりは簡単に見付かる物でもないのだから仕方がない。

 幸せになれるといわれている四つ葉のクローバー。それは特別でなかなか見付けることが出来ない。見付けただけでも幸せな気分になれる珍しい植物だ。
 それに対して沢山並んでいる三つ葉のクローバー。珍しくもなんともないけれど、三つで一つというのは彼等の三人一組と同じ。そう考えると、彼等にとってはちょっと特別な物なのかもしれない。










fin