いつものように過ごしていた。別に特に変わった事があったわけじゃない。相変わらずどこかの馬鹿は五月蝿くて、担当上忍は遅刻をしてくる。行う任務だってDランクという忍の任務の中で一番ランクの低いもの。とても簡単な任務で何事もなく終了した。任務が終わってからは、家に帰って忍術書を広げている。




の自分の自分





 家に帰ってからは、ずっと忍術書を広げて読んでいる。体を動かして修行をするのもいいが、こういったものもたまには良い。
 忍術書にはさまざまな術が載っている。それを見てどういうものかを覚えたり印を結んでみたり。これだけで十分勉強が出来る。巻物を一つ広げれば、書いてあることはたくさんだ。読むだけでも面白い。うちはの家の倉庫に行けば、色々な巻物や忍術書があるから便利だ。


「これは…………」


 一つの忍術書を読み終えて、次の忍術書を読もうとした時だった。目の前にある忍術書は、見たことのないようなものだ。そうはいっても、ここの倉庫にあるのは殆どが始めてみるものばかり。何度も入っているとはいえ、全部の忍術書を読んだことは一度もない。だから見た事があったり知っているものなど数少ない。今まで読んだのはこの中の何分の一、ほんの一部だけ。全部読むにはどれだけの時間がかかるか分かったものじゃない。
 目の前にあるこの忍術書だが、これは見たことがないものだ。他のもそうかと聞かれれば大体がそうだけど、これは少し違う。何か、他の物とは違う気がする。何が、と聞かれて答えられるものじゃないがそう感じるんだ。


「一応、忍術書みたいだが……」


 見た感じでは他の忍術書とさほど変わりは無い。ただ、何かは分からないが、この忍術書は他の忍術書と違う感じがする。見た感じではなくて、忍術書自体の雰囲気というのだろうか。
 今までのが普通の一般的な忍術書というなら、これは術がかけてあるような変わった忍術書だろう。巻物などに術が記されているものもある。その記されているのは、術の印などではなく直接発動できるようになっているもののことだ。けど、そんな巻物がここにあるとは思えない。これも、忍術書といっても書物ではなく巻物だ。術が記されている可能性がないとは言い切れない。
 何だか分からないのでは話にならない。そう考えて、とりあえず開いてみる事にする。すると、そこにはたくさんの文字、術式が書かれていた。


「これは、術を発動させる為の巻物。こんな物がなんでここに……。それに、この術式。見た事もない形だ」


 此処にどうして術が記された巻物があるのかがまず疑問だ。だが、それ以上にこの術式が気になる。口寄せの術式とは違う。何かを封印している物でもないようだ。火遁や水遁といった術を発動をするものでもない。この細かな術式は何の術式なのか。こればかりは全くと言っていいほど分からない。ただ、これだけ細かく術式が書かれているんだ。それほど大きな術という事だけは分かるといったところか。
 巻物を広げながら思考を巡らせていると、急に巻物に異変が起きた。すぐに巻物から距離をとるが、様子を見る限り術が発動しかかっているようだ。けど、この術がどんな効果をもっているかは分からない。それの加えて、印もチャクラも何もなしに術が発動する事はないはずだ。だとすれば、どういうことなのだろうか。


「っ! 何に反応しやがった!」


 考えてみるが心当たりはない。だが何かに反応したのは間違いない。
 ぐるりと辺りを見回してみると、そこにやはり答えはあった。それに気付いて「あの時か」と呟く。それは数分前の記憶だ。だが、それが分かったところでどうしようもない。術が発動してしまったのだ。どんな術かは分からないにしても術を止める事は出来ない。それに、無理に止めようとして逆に何かしてしまっても困る。そのまま術は発動していったのか、突然巻物から光が出て辺りは光で満ちた。



□ □ □



「ここは…………」


 何が起きたのか、はっきりは分からない。けど、此処がどこなのかは分かる。良く見知った場所だ。この場所を見知っているのも当然。此処はオレの家――うちは一族本家の家だ。けど、さっきとは違う。今は夜になっている。
 あの後、術が発動しなかったとしてもこれはどう考えてもおかしい。つまりは、術は発動したということ。だけど、術が発動したとするならこれはどういう術なのか。幻術……ではないだろう。幻術だったら解く事だって出来るがこれは違う。幻術でなければ忍術。こんな事が起こる忍術……。


「まさか……!」


 見知った場所だが、さっきと違うというのは明白だ。それでもって、これは巻物の術式から何かの術が発動して起こったもの。その術は幻術ではない。幻術でなければ忍術ということになる。忍術の中でもこんなことが出来るものなどない。いや、一つだけある。『時空間忍術』という忍術が。
 かつて、四代目火影が使ったといわれている忍術だ。時空間忍術を駆使した戦いはあっという間のもの。その術を使った四代目火影は『木ノ葉の黄色い閃光』と謳われた。


「あの術式は、時空間忍術を発動させるもの……」


 『時空間忍術』が発動して、今オレが此処に居るというのなら辻褄が合う。さっき居た場所や時間からこの場所のこの時間に移動したというわけか。それだけが分かっても何になるわけでもないが。結局、ここは“いつ”なのかが分からないんだ。場所が分かってもそれでは仕方がない。
 けど、さっきから何かを感じている。此処に来た時からずっと。昔の記憶にあるような感じだ。昔の記憶……。思い出したいものではないが、しっかりと覚えているものばかり。もしかしたら、この場所は……。


「人の気配があまりにも感じられない」


 それ以前に、人が住んでいる気配は殆どない。いや、実際に人は居ないんだ。アイツが殺したから。一族の皆は生きていないんだ。周りに出てみればすぐに分かる。アイツが一族を滅ぼした後はしっかりと残っているはずだから。
 多分、此処はアイツが一族を滅ぼしてから数日がたった場所。おそらくそれで間違いはないだろう。


「場所と時間も大体分かった。けど、どうすれば良いんだよ……」


 当然だが、戻る方法なんて知らない。勝手に術が発動したのだから術自体だって最初は分からなかったんだ。同じように『時空間忍術』を使わなければ戻る事は出来ないのか。または、この術は一定の時間しかいることが出来なくて、時間が経てば自然と効果が切れるのか。この二つくらいしか戻る方法というのは思いつかない。
 前者だとすれば、オレが『時空間忍術』を使えるわけもないのだからそれが記されている物など何かを探す事しか出来ないだろう。後者ならばいつになるかは分からないがただ待つしかない。どっちにしろ、今すぐに戻るという事は出来なさそうだ。その事から、少しの間はここで過ごさなければいけないことは確定だろう。


「厄介な事になったな」


 この先の事を考えるに考えづらいものがある。これが現実なのだから認めるしかないが……。
 ここで過ごす事は確定事項だがそれはそれでどうするかを考えなければいけない。忍としての任務をしたも出来なければ下手に動く事も出来ない。
 だったらどうすれば良いのかと考えなければいけないわけだが、この時代はうちは一族が滅ぼされた頃。そんな時代でどうするも何もあるだろうか。うちはの土地は里の人が調べたり管理はどうするなど話しているに違いない。ただでさえ厄介なのにそれに加えて色々あるようだ。


「誰……?」

「!?」


 声がした途端、振り向いた同時に「しまった」と思った。気配を消していたとはいえ、見つからないとは言い切れない場所だ。ある意味では、簡単に見つかるような場所。人はもう居ないに近い状態なのだから、気配を消しながらも警戒はしていた。だけど気付かなかったという事は、それほどまでに考え事をしていたのだろう。
 目の前に居るのは一人の少年。どこか寂しそうで怯えているような感じがする。その理由は知っている。ついこの間起こった事件のせいだ。アイツ――兄であるうちはイタチが一族を滅ぼしたあの事件があったから。それから誰も居ない孤独というものの辛さを知る。そして、いつまでも消える事のない傷跡が出来た。
 全てを奪われたことがどれだけ辛い事なのかは良く知っている。大切な物を失う苦しみ、孤独という辛さ。アイツがオレに残した物はとても大きく一生消える事のないもの。それをこの少年も少し前から知り始めている。コイツは、オレ自身だから。


「木ノ葉の、忍者……? 何で、こんな所に居るの……?」


 額当てでオレが木ノ葉の忍者だと気付いたようだ。木ノ葉の忍だから同じ里に居ることには何も疑問はないだろう。疑問はそこではなく、どうしてこんな時間にこんな場所に居るのかということだ。
 いくら同じ里の忍とはいえ、今此処は立ち入り禁止になっていたりと簡単に忍が入っていい場所ではない。任務で来る忍もいるかもしれないが、その場合は暗部が殆どだろう。その場合は、敵が侵入するのを防ぐ為の監視などではなく、コイツの監視という事になるが。うちは一族の生き残りで精神が安定していない存在だから、といった理由になるだろう。けど、気付いたのはそれだけじゃないはずだ。


「それに……オレに似てる…………」


 やはり、気付いているようだ。木ノ葉の忍だという事は額当てで分かる。それに、うちはの家紋を背負っているこの服装がうちは一族だという事を示している。そんな事は関係なかったとしても、コイツはオレであるのだから気付くだろう。あれから六年が経っていたとしてもそれほど変わったりはしないのだから。変わっていても自分自身のことくらい分かるだろう。
 コイツもオレの事に気付いている。それに、もう見つかっているのでは隠したって意味はない。だったら、しっかり説明しなければいけない。


「急に悪かったな。オレはお前が気付いた通り、木ノ葉の忍でうちは一族の末裔……うちはサスケだ。『時空間忍術』でお前からすれば六年後から着たことになる」


 それを聞いた少年は驚いた様子だ。だけど、どこか納得しているようにも感じる。同一人物であることに感づいていたのだから、その疑問が解けて逆に納得したというところだろう。『時空間忍術』というので六年後から来たという事は信じがたいかもしれないが、忍術の一種なのだからと考えれば納得できるものだ。信じられないという気持ちもあるだろうが、認めるしかないだろう。


「じゃぁ、お兄さんは、六年後のオレって事……?」

「そういう事になるな」


 六年という歳月が長いと感じるかは分からないが、少なくとも身長などは変わっている。一族が滅ぼされる前だったら性格も少しは違ったかもしれないが今はもう一族は滅ぼされた。復習者という存在としてオレを生き残らせた。
 精神が安定しない状態かもしれないが、人間そう変わらないだろう。六年もあれば変わろうとすれば変われるだろうが、そんな努力はしていないしするつもりもない。あの事件以来、自分は今までと違う世界を生きなければいけない。そう実感して世界が変わったのはあの事件が境目だ。あれからは殆どと言っていいほど変わっていないと思う。
 今違うのは、精神が安定していない事から。アイツが一族を滅ぼし、一人だけとなり孤独を知る。今まであったものが急になくなってしまったこと。色々な思いが複雑に絡み合っているからこそ精神が安定しない。


「六年後には、オレはもう忍者になってるって事なんだよね……?」

「あぁ。そうだな」

「それじゃぁ、兄さんはどうなったの!? 兄さんは、あんなことをしてどうしてるの!? オレは兄さんを殺す事が出来るの!?」

「ちょっ……! 落ち着けっ!!」


 そう言うと我に返ったのかそれ以上言葉は続かなかった。先ほどとは違う弱々しい声で「何で兄さんは……」と言いながらその場にしゃがみこんだ。

 どうして兄貴がそんな事をしたのか。オレも未だに分からない。兄貴は「己の器を量る為」と言っていたのは覚えている。けど、本当にそれだけで殺したのかというのはオレには分からない。兄貴の本当の目的が何なのかを知らない。
 あの時のオレは、ただその答えが欲しかった。兄貴がこんな事をするはずがないと思っていたからだ。だけど今は違う。兄貴に対して持っている感情といえば復讐する為のものだけ。それを己の存在理由としてあの事件からの日々を過ごしてきたんだ。これ以外の感情はもう必要ない。

 その場にしゃがみこんでしまった小さなオレを見ながらあの頃のオレを思い出し、同時に精神が安定していないことが見て取れた。


「とりあえず、部屋に戻るぞ。こんな所でいつまで話してても仕方がないだろ」


 いくら家の敷地内といっても此処は廊下。外と隣り合わせの場所だ。近所に誰か居るわけでもないが、此処にいて話していても仕方がない。それに、少しでも気持ちを安定させてやらないといけないだろう。元々、オレがこんな所に来たことから始まった事だ。オレも来たくてきたわけではないが結果的にそうなっている。
 それに、こうなっている奴を放っておくわけにもいかない。オレ自身だからか、コイツの気持ちは分かる。オレだって昔体験している事が起こっている。その時の気持ちと多分一緒なのだろう。多少違っても、コイツの気持ちはなんとなく分かる。

 とりあえず、部屋に入るとベットに向かう。近くの時計を見れば、夜中の時間を指していた。夜といっても本当に夜という時間だったようだ。ベットに昔の小さなオレを寝かせる。


「兄貴が……イタチがどうしてるかはオレにも分からない。アイツがどうして一族を滅ぼしたのかも“己の器を量る為”としか聞いていない」


 あの時、どうしてなのかと兄貴に問いただしたかったが返ってきた言葉はそれだけ。他には“オレが望むような兄を演じてきていた”ということや“オレを生かすのは兄貴の為”だということ。
 それが、復讐者という存在だ。それは、あの時兄貴がオレに教えた事だ。あと一つ、“万華鏡写輪眼”を開眼する方法。この事は、コイツも兄貴から直接聞いているはずだ。
 今はただ復讐する為の存在としか兄貴のことは考えていない。それがオレの存在理由でもある。けど、どうして兄貴があんなことをしたのか。今更聞こうなどという気持ちはない。だが、もし知る機会があるのであればその答えが知りたい自分がいる。


「今の力でアイツに勝てるかも分からない。ただ、オレはアイツを殺す為に生きている」


 小さな、今を生きるので必死のコイツにこんな事を言うのはどうかというのはオレ自身分かっている。けど、いずれコイツも同じようにアイツを殺す為に生きていかなければいけない。今は無理でも、精神が安定してくれば必然的にそうなってしまう。
 それは宿命というよりも一生残る傷跡と共にある呪いのようなもの。幼くても、これがオレにかせられたものだ。決して変える出来ない運命といえば簡単だろうか。
 運命は変えられる、とどこかの馬鹿は言っていた。それも確かだと思っている。だから、やはり運命などという言葉では言い表せない。復讐というものが夢という言葉では言い表せないように。それは野望であって、これも呪いのようなものなんだ。


「兄さんを……殺す為…………」

「それが、オレの存在理由だ」


 最初はオレも信じたくなかった。兄貴がこんなことをするわけない。そう思っていたしそう思いたかった。けど、片腕に残された傷跡はそれが嘘でないと語っていた。一族の集落に行ってみても、昨日の夜の事は現実だったということが表されていた。
 どうすれば良いのか分からなかった。いつも近くに居た人が急に居なくなった。大切な人が居なくなった。何もかもなくなってしまった。たった一人だけ。一族でこの世界に残されたのはオレだけ。
 色々な思いが複雑に絡み合う。これが夢であればいいとどれだけ思っただろうか。これは嘘だとどれだけ言って欲しかったか。信じたくない現実だった。

 誰も居ない孤独というものを知る。全てを奪われることがどれだけ辛い事なのか、大切な物を失う苦しみ、孤独という辛さを知る。その全てがアイツがオレに残した物であり一生消えることのない傷跡。
 あの事件からどれだけ経った頃だったか。数週間か一ヶ月くらいか。よくは覚えていない。父さんに術を教えてもらったあの場所にオレはいつも居た。ある時、父さんと母さんのことを考えているとふと兄貴の言葉が頭を過った。
 そこでオレは決意した。兄貴を殺すこと。復讐者という存在になること。この先がどんな闇だろうと、どんな事があっても力を手に入れる。そして必ず兄貴を殺す、と。


「お前にとって、今が辛いという事は良く分かってる。信じたくないがこれが現実で、色んな思いがあってどうすれば良いのか分からないんだろ?」


 そっと聞いてやればコクンと首を縦に振る。
 オレ自身だからこそ分かるこの気持ち。他人からすれば、この頃のオレはただの“可哀想なガキ”でしかない。一族は滅ぼされ唯一生き残った存在としてしかみない。火影だって、うちはの生き残りという事と、唯一の生き残りという存在として見ているわけでオレのことを分かってはいない。分かっているとすれば、精神が不安定だということくらいだろう。
 他人にこの気持ちは理解できない。理解できるはずがないんだ。理解できるのはオレ自身。だからこそコイツの気持ちを分かることが出来る。


「あまり深く考える必要はない。今を大切に生きればいい」

「今を大切にって言っても、もう誰も居ないんだ。たった一人なんだよ」

「そんなこと気にするな。今は一人でも、いずれ一人じゃなくなる」


 オレは兄に復讐することを決めた。それからあの事件以来休んでいた忍者学校にもまた行き始めた。全ては兄貴を倒す為の力を手に入れるため。
 だけど、温かいものが急になくなった寂しさのような孤独というものを感じていた。いつも何もなければあの場所に行った。そこで水を眺めている。誰かと遊んだのか、夕方そこに居ると同じ忍者学校に通っている奴が通る。話した事はなかったけど、なんとなく心が繋がっていた。

 下忍になってからは七班で任務をやってきた。最初は足手まといだと思っていた仲間。でも、本当は忍にはチームワークが必要だった。それから少しずつあの二人、ナルトとサクラと一緒に行う任務はチームワークが出来てきた。中忍試験を通してその繋がりは強くなった。そこで仲間という大切なものが出来たんだ。
 大切なもの……。一度失ったあの温かいものだ。もう手に入れる必要もないと思っていたもの。手に入れることはないと思っていたもの。だけど、手にしてしまった。大切な仲間というものを。だから、今度はそれを失わないようにしたい。もう大切なものを失いたくないからだ。


「必要でないと思っていたものが大切なものになったりするんだ」


 七班として任務をこなしていく。そこで出来た大切な仲間。始めのうちはチームワークなんてものは殆どなかったと思う。
 けど、任務をこなしていくうちにチームワークというものが出来てきた。誰か一人でも居なくなったらいけない。この班のメンバーはこの班でやっていく限り全員が揃っていないといけないんだ。そうでなければ、出来る任務でも出来ないものが出てくる。
 他の班の奴等とは違う仲間という意識。これは一つの繋がり。家族といえるものではないが三人一組は運命共同体。家族とは少し違ってもお互いが必要不可欠な一種の家族のようなものかもしれない。


「大切なものになる……? お兄さんはそうだったの?」

「あぁ。最初は余計なものだと思ってた。けど、アイツ等と一緒にやってきて、また大切なものを手にしてしまったんだ」


 大切なもの、大切な人、大切な仲間。昔、父さんや母さん、兄貴が大切だった。大好きだった。そして今は、ナルトにサクラ、一応担当上忍であるカカシも大切な仲間。だから中忍試験の時“大切な仲間が死ぬのは見たくない”と呪印が発動しながらも仲間を助けようとした。
 もう手放す事の出来ない温かさ。出来ないというよりも、オレが手放したくないという方が正しいかもしれない。


「大切なものって……?」


 そう聞かれて「三人一組を組んでる仲間だ」とだけ答える。それだけでもどういうものかは分かる。これが一番簡単な説明であって、名前を言ったり性格がどうこういう必要もないからだ。


「お前にも、きっと大切な人が出来る。今は居なくてもな。だから、今を大切にして生きていけば良いんだ。お前自信の未来の為に」


 自分の未来は自分で決めていくものだ。オレは、復讐というものの為だけに生きていてそれが存在理由でもある。けど、時々思う。ナルト達と一緒にこうしてやっていくのも悪くないんじゃないかって。
 大切な仲間という存在になったからこそ思うことだ。だけど、オレは父さんや母さん、一族の皆の為にも兄貴に復讐をしなければいけない。それを分かっているからこそ、オレの心は悩む。カカシも復讐をする必要はないと言っている。何よりこの温かさをまた知ってしまったから、このままで居たいと思ってしまっている。一族の為とはいえ、復讐することだけが大切ではないのは知っている。

 これからどうやって生きていくか。それは自分自身で決めていくもので誰かが決めるものではない。自分の夢を叶える為に歩むのもそうでないのも自由だ。自分自身の未来を作っていく為に今を大切にして生きる必要があるんだ。


「復讐だって、お前がする必要がないと思えばしなくていい。一族の為とかは関係ない。これはお前の歩む人生だからな」


 こんな風に昔のオレに話しているが、それはオレ自身に言ってるようにも感じる。復讐の為だけに生きているとは言い切れない状態に今は居る。
 昔ははっきりそう言えたかもしれない。けど、今はそう言い切れない。この仲間達との未来も良いと思ってしまっているからだ。自分で言っておきながら、自分の言葉のことで考えるなんておかしな話だけどな。それでも、今の自分が本当にどうしたいのかは知りたいと思っている。


「オレは、本当にそうやって生きていってもいいの……?」

「当たり前だ。誰かに決められるものじゃないんだからな」


 それを聞いて安心したように「そっか……」と納得をする。
 コイツの人生を決めるのはコイツ自信。誰かが決めるものでもなければ決めていいものではない。誰も人の人生を決めることなどしていいわけがない。決めていいのは自分の人生だ。
 それを決めるのに関わってくる人はいるかもしれないが、だからといって決めていいわけがないんだ。兄貴のように、人の人生を変えてしまう人だっている。けど、全てが悪い方に変えるわけではない。ナルトだってオレの人生を変えた一人だと思う。ナルトの場合は、兄貴とは逆で良い方に変えた人だ。世の中にはそういう人だっている。それも全てを含めてオレの人生。そして、これからの人生もそういう奴が関わって変わっていく。


「安心しろ。お前は今を大切にして、お前自信の未来に向かって生きていけば良いんだ……」


 オレの言いたいことはコイツに伝わったと思う。コイツが思っていることもオレに伝わった。身近に居た人が居なくなって、今までとは違う生き方をしていくことになる。孤独を感じたりすることもあると思う。
 けど、深く考えずに一時を大切にしていけばいい。そこで大切な人をまた見つければいい。お前にとって幸せな未来があるように歩んでいけばいい。そして、大切な人が出来たらそれを失わないように生きていけばいいんだ。

 他の奴には分からないかもしれない。オレ自身だからこそコイツの気持ちが分かる。この時の気持ちは誰も分からない。
 でも、いつか。大切な人が出来たら。その時は、どんなに複雑な気持ちになっても分かってくれる。どういうことかよく分からなかったとしても傍に居てくれるだろう。それで少しでも楽になれる。そんな風に分かってくれる大切な人が、コイツにもきっと出来るはずなんだ。

 昔の自分と今の自分。
 多少なりと変わった部分はある。けど、本当のところでは変わっていないのかもしれない。自分自身だからこそ分かることがある。やっぱり、いつだって自分は自分。本当に分かり合えるのは自分自身なんだ。









fin




「未来航空」の夏鳥様に差し上げたものです。
十三歳のサスケが忍術によって過去に行き、そこで七歳の自分に会いました。それは一族が滅ぼされた後でどうすればいいのか良く分からなくなってしまっていた自分。それがかつての自分だから、同じ気持ちだからこそ分かり合えるのだと思います。