に言




「空には星がたくさんあるな」


 空を眺めながらぽつり、呟く。
 今日は七月七日。世間でいう七夕だ。昼は快晴といえるほどに晴れていて、その天気は変わらず夜まで続いている。空一面に星が広がっている。一つ一つの星が輝きを持ちながら、それぞれ主張しあいながら一つの絵になっている。


「織姫と彦星はどっかで会ってるのかな……」


 七夕というのは年に一回、織姫と彦星が唯一会う事が許されいるといわれている日だ。年に一回しか会う事が出来ないというのは悲しいことだろう。
 しかも曇りや雨であれば、その一回さえ会うことが出来ないのだから必ず年に一回会えるというわけでもない。想い合う二人が一緒にいることどころか会うことさえ許されない、彼等はどれだけ悲しい思いをしているのだろうか。


「この二人に比べれば、まだマシだよな」


 キバは空を見上げたまま溜め息を吐いた。
 今日は七夕であると同時にキバの誕生日でもある。キバには今、付き合っている人がいる。それは同じ班の日向ヒナタ。忍者学校時代からそんな思いを抱いていたようだが、告白して付き合い始めたのは一ヶ月前のこと。周りからすればやっとくっついたのかという感じだ。
 そんなキバなのだが、今日はいつものような元気がないようだ。それには理由がある。


「任務だから仕方ないんだけど」


 付き合っている彼女であるヒナタは任務があり、今日は一度も会っていないのだ。任務なのだからそれは仕方がない。今日任務が入ってしまったことは昨日の時点でヒナタに謝られた。別に謝る必要はないと言ったけど、誕生日は一緒に過ごしたかったからとヒナタは言ってくれた。それだけでもキバにとっては嬉しかった。大好きな彼女がそんな風に思っていてくれたと知ることが出来たから。


「オレってついてないのか……?」


 はぁ、とまた溜め息を漏らす。空を見上げれば星たちが輝いている。この様子だと織姫と彦星はきっと会うことが出来ただろう。その二人に比べれば、たった一日一緒に居られなかったり会えなかったくらいで文句を言ってはいけない。そう思ってもなかなかそうは思えないものだ。
 だがいつまでもこんなことをしていてもしょうがない。そろそろ帰ろうかとキバは立ち上がる。家からそれほど離れていないこの場所からは星がよく見える。七夕だからという理由で少し星を見に来ていたが、ここに居ても余計なことを考えるだけだ。

 帰ろうと家の方へ足を進める。そんな時だった。


「キバ君!」


 その声にはっとして顔を上げれば、目の前には大好きな彼女の姿。走ってきたのか、彼女は肩で呼吸をしていた。


「ヒナタ!? どうしたんだよ、こんなところで!」


 今日は任務があって会えないと昨日ヒナタから聞いていたのになぜ此処に彼女が居るのか。キバにはさっぱり分からなかった。
 けれど、ヒナタに会うことが出来たことを嬉しいなんて思っている自分もいる。そのことに自分で気が付いて、やっぱりヒナタが好きなのだとキバは改めて思った。


「大丈夫か!? つうか任務は!?」

「だ、大丈夫だよキバ君。任務は終わったから……」


 任務が終わったと聞いて、もしかして走って会いに来てくれたのかという考えが生まれた。ヒナタは優しい。昨日も「気にする必要はない」とキバは言ったのに「でも……」と言いながら残念そうにしていたのを覚えている。だからもしかしたらそうなんじゃないかと思った。


「そっか。お疲れさん」


 きっと、任務が終わってからすぐに此処に来てくれたのだろう。走って走って走り続けて、漸くキバを見つけたのだろう。早くしなければ、日付が変わってしまうかもしれないから。


「あ、あの、キバ君。誕生日おめでとう」


 その言葉に一瞬キバはきょとんとしたが、すぐに笑みを浮かべた。ああは言ったけれど、やっぱり好きな人に当日祝ってもらえるのは嬉しい。
 わざわざ任務が終わって疲れているのに走ってここまで来てくれた。それも自分の為だけに。日付が変わる前に伝えようとしてくれた彼女の優しさも伝わってきて、先程まで考えていた今日一緒に過ごせなかった事なんてどうでもよくなってしまった。


「有難うな、ヒナタ!」


 キバは笑顔でヒナタに御礼を言った。そして、二人並んでヒナタの家へと向かって歩き始める。忍だといっても女は女。夜は危ないからと言ってキバが送って行く。そんな行動がヒナタにとっては嬉しくて、この少しの時間でも一緒に過ごせる事は二人共が嬉しい事。

 織姫と彦星はきっと会って楽しい時を過ごしているだろう。七夕の願いは二人が会った時に叶うという。もしかしたら、織姫と彦星の二人がキバとヒナタの二人をこの日に会わせてくれたのかもしれない。

 今日は生まれてきてから一番幸せな誕生日。
 きっと今日というこの日をオレは忘れないだろう。










fin