七月七日。今日は世間で言う七夕の日だ。
 せっかくの七夕なのだ。どうせなら七夕飾りでも作ろう、というのは理事長の提案で。近くから笹を持って来たかと思えば早速飾りつけが始まった。


「七夕飾りっつーか、短冊だけじゃん」


 早速作り始めた七夕飾りを見て一言。ここにはちゃんとした笹があるというのに作られているのは七夕飾りといっても短冊のみ。他の飾りというものは誰一人として作っていないし作ろうともしていない。つまり、出来上がる予定の七夕飾りは短冊のみということだ。
 それはおかしいのではないか。そう思って先生に尋ねてみる。


「んー? まぁいいみたいよ。短冊に願い書いて飾るんだってさ」

「七夕だからって作るのにそれでいいわけ?」

「いいんじゃないの。理事長がそう言ってるんだから」


 サクラの疑問は誰もが思ったことだろう。けれど、理事長がそれでいいと言ったのならいいのだろう。第一、この七夕飾りを作ろうと言い出したのも理事長のただの思い付きだ。高校生にもなっている子供達が七夕を作るのに可愛い飾りもいらないだろう。七夕なのだから短冊さえあればいいというような考えだ。

「サクラはなんて書いたのよー?」

「あ、いの! なに人の物を勝手に見てるのよ!」

「別にいいじゃない? 減るものでもないんだし。ね、ヒナタ?」

「え、でも、勝手に見るのはいけないんじゃ……」


 そう答えたヒナタに「そうよ、勝手に見るんじゃないわよ!」とサクラが言い返し「ちょっとぐらい良いじゃない」と引く様子のないいの。人のを見たいのなら自分のも見せなさいよなんて言い合っている。
 そんなやり取りの傍で、男子達はそれぞれ適当な願いを書いて短冊を吊るしている。


「お前はなんて書いたんだ、チョウジ?」

「ボクはね、『たくさん食べ物がもらえますように』って」

「お前らしいな」

「シカマルは?」

「オレはめんどくせーことは嫌いだからな。『めんどくせーことが起こらないように』ってな」


 書いたことを答えると今度はチョウジが「シカマルらしいね」と言って笑っている。こういう物を書く時はそれぞれの性格が分かるというもの。短冊というのはみんなそれぞれの願い事を書くのだから。


「シノ、お前は?」

「オレは、『珍しい蟲に出会えるように』と書いておいた。そういうキバはなんて書いたんだ?」

「オレ? オレは、『赤丸と一緒に居られますように』。オレと赤丸は今日一緒の誕生日だし」


 これからもずっと一緒にいたいからな、とキバは話す。その話を聞いていたシノやシカマル達も「おめでとう」と誕生日のお祝いの言葉を贈ってくれた。おめでとうと言ってもらえるだけでもなんだか嬉しくなる。それが誕生日というものだ。友達からそんなお祝いの言葉を貰い終えると、今度はナルトに何て書いたのかを尋ねてみる。


「オレは、『全国の総番になる!!』だってばよ」

「全国の総番、ってまたそれかよ」


 それはナルトがこの学校に転校してきてからずっと言い続けていることだ。ナルトの夢は全国の総番になること。今はその夢に向かって走っている真っ最中というわけだ。


「ウスラトンカチが。それは短冊に書く願いじゃねぇだろ」

「何言ってるんだってばよ! これこそがオレの夢であり願いなんだってばよ」


 夢であり願いといっても、果たして短冊に書くことなのだろうか。そう思ったキバが「それじゃあ、その願いを織姫と彦星が叶えちゃったらどうするんだよ」と聞けば、それは嫌だなんて言っている。その夢は自分自身の力で叶えてこそ意味があるらしい。それこそサスケの言う通り、短冊に書く願いではないというものだ。


「お前、やっぱりバカだな」

「ウルセェー! そういうサスケはなんて書いたんだってばよ!」


 そう尋ねると「お前には関係ない」なんて言われるものだから「見せろ!」「五月蝿い」などと言い争いを始めてしまっている。「人の短冊見たくせに」との意見に「お前が堂々と話してただけだろうが」なんて言いながらまだ納まる気配はなさそうだ。
 そんなクラスの様子を担任であるカカシは微笑ましく見守っていた。相変わらず仲の良い奴等だな、なんて思いながら短冊を片手にペンを持つ。そして、その短冊をコッソリ笹に吊るす。


『これからも、このクラスがこのままで在り続けますように』


 こんな日常がこれからもずっと続いていくように。それが一番だと織姫と彦星に願う。










fin