その背を追いかけて
兄さん、あのね。
そんな風に兄貴の後ろをくっついていたのはもう昔のことだ。何年の時が流れただろう。あの頃は兄貴のことが大好きで、いつだって兄貴と一緒にいたくて。実力のある兄を誇らしく思い、またその半面で優秀すぎるほどの兄に追いつきたい。隣に並べるようになりたいと思っていた。
「どうかしたか、サスケ」
「兄貴、帰ってきたのか」
いつの間にか部屋の入り口のところに兄貴が立っている。もう任務が終わったのか。予定ではあと数日は掛かると聞いていたように思うけれど。流石は天才と呼ばれる男だ。予定よりも大分早くに任務を遂げたらしい。兄貴は殆どが予定よりも早い日時で帰ってくる。これもいつものことだ。
「お帰り」と声を掛ければ「ただいま」と返ってくる。そんな日々が再びやってくるとは思ってもいなかった。あの日、兄貴が里に帰って来た時は本当に驚いた。
けれど、その反面で嬉しかった。そして今も一緒に過ごせるこの時間が返ってきてオレは幸せだと思う。
「何か考え事でもあるのか?」
オレの隣までやってくると兄貴はそこに腰を下ろした。何だか兄貴にはオレの心を見透かされている気がする。何か考えていれば、その度に「どうしたんだ」と尋ねてくる。その優しさは心地が良い。
兄貴はオレのことが分かるのにオレには兄貴のことが分からない。それは悔しいけれど、兄貴の温かさは、オレには丁度良いんだ。
「別に何でもない。それより、飯食べるだろ? 今準備するから」
そう言って立とうとすると動きを止められた。隣にいた兄貴がオレの腕を掴んだからだ。
疑問に思って「兄貴?」と声を上げれば、その黒い瞳とぶつかる。
「悩みがあるのならいつでもオレが聞いてやるから、遠慮せずに言うと良い」
「あぁ、ありがとう。でも、今は本当に何もないから大丈夫だ」
答えれば「そうか」と言って腕を放された。それがちょっと寂しいようにも感じたが、それよりも兄貴の飯が先だろう。任務から帰ってきて疲れているだろうしな。今日帰ってくると分かっていればちゃんとしたものを用意していたが、生憎予定より早いためにそれも出来ない。予定より早いだろうとは思ってはいてもなかなか上手くいかないものだ。
とりあえず、すぐに出来るようなものを作る。そしてテーブルの上に料理を並べる。全て準備を終えた頃合を見て兄貴は料理に手をつけた。
「やはり、サスケが作る料理が一番だな」
食べながらふと兄貴が呟いた。その意味を理解して顔に熱が集まるのを感じた。おそらく頬は赤く染まっているのだろう。それを感じて顔を逸らす。
「何言ってるんだよ。上手いわけでもないだろ」
「十分上手いと思うぞ。料亭よりもオレはお前の料理が好きだな」
平然とそう言いながら次々と箸を伸ばす。何気なく思ったことを言っただけだろうけれど、その何気ない一言がオレには嬉しくて。だけどなんだか恥ずかしくもあり「そうか」とだけ返しておいた。それをまた兄貴は「あぁ」と肯定した。
それから飯を食べ終わると、沸かしてあった風呂を兄貴に勧めてオレは食器を片付ける。オレが部屋に戻るのと兄貴が戻ってくるのに大差はなかった。そのまま消灯をして寝ようとすると、兄貴に名前を呼ばれた。
「サスケ」
「何だよ?」
答えは返ってこなかったが、代わりに手招きをされた。兄貴の言いたいことが予想出来た。
「オレはもうそんな子どもじゃねぇよ」
「たまには良いだろ」
「たまにはってな……」
そういう問題ではない気がするのはオレだけだろうか。けれど、兄貴は至って普通は。まぁ、兄貴にとってオレはいつでも弟だからな。それはオレにとっての兄貴も同じくだけれど。今も昔も変わらず。おそらく、これからも。
オレは一つ溜め息を吐いて結局兄貴の隣まで行くんだ。こんな子供みたいなことと自分でも思うけれど。でも、久し振りに帰ってきた兄貴と少しでも一緒にいたくて。それ以前に兄貴のことが好きだという想いもあるかもしれないけれど。
「おやすみ、サスケ」
「あぁ、おやすみ。……兄さん」
小さい頃の呼称で呼べば、兄貴はにっこりと笑った。つられるようにオレも微笑んだ。
大好きなアナタと。二人一緒にこの時を過ごそう。
fin
リクエスト企画のイタサスで、リクの内容は「イタサスの切甘か甘々」でした。