ついこの間までの期末試験が終わり、返却されるテストはなんとか赤点にはなっていなかった。テスト前には集まって勉強会をしたものの勉強が苦手で赤点ギリギリばかりを取っている人達にとっては返ってくるまで赤点がないかとドキドキだ。返却されるなりそこに書かれている点数にほっとし、全部の教科が大丈夫だったと知って漸くもうすぐやってくる夏休みが楽しみになる。
 クラスではみんなテストの結果を話す声がところどころから聞こえてくる。ここでもいつものメンバーが集まってそんな話をしていた。


「これで夏休みは遊び放題だってばよ!」


 自分から動かないサスケの席の周りに集まるなりナルトは嬉しそうに話す。テストの結果がどうだったかはあえて聞かなくても分かる。というのも、授業で返されるたびに騒いでいたのだから今更聞く必要がないのだ。


「遊ぶのは自由だが、宿題もあるからな」

「あー……もう、宿題の話はあとで良いってばよ」


 全然あとにして良いことではないだろうとサスケは思う。毎年最終日になってから終わっていないと泣きついてくるのは誰だと。それを言ったところで改善された試しなど今までに一度もないのだけれど。
 だが、ナルトからしてみればやっと勉強ばかりだったテストが全て終わったのだ。テストから解放されたというのに今度は宿題の話なんてウンザリなのだろう。


「せっかくテストも終わったんだし、放課後遊びに行こうぜ!」

「おう、そうだな。んじゃ、どこにするか決めねぇとな」


 そう言って勝手に話を進めだすナルトとキバを見て、サスケとシカマルは目を合わせると溜め息を漏らした。もういつものことで慣れたといえばそうなのだが、なぜかこの二人の遊びに行く計画には勝手に他の人も巻き込まれているのだろうか。
 せめて許可を取れと言いたいが、聞いても面倒だとか理由を付けるのはそっちだろうと言われたのはいつのことか。他の人達にはちゃんと尋ねるようだが、サスケとシカマルに関しては半ば強制的に参加が決められている。


「放課後にどこまで行くつもりだ、アイツ等」

「さぁな。夏休みの話と混ざってるだろ。めんどくせー」


 初めは近場の名前が挙がっていたかといえば、いつの間にかすぐには行って帰ってこれないだろう場所の名前まで出ている。放課後に出掛けるとするなら時間は限られているというのにその概念はどこにいってしまったのだろうか。このままいけば、おそらく夏休みの予定を立てる話し合いになることだろう。


「おいお前等、今日の放課後の話してるんじゃねーのか?」

「そうだってばよ。あ、そういえばこの前新しく出来た店知ってるか!?」

「ああ、あそこな! なんか結構評判良いみたいだよな」


 最早二人の世界になっているのではないだろうか。軌道修正しようとしたのにどうやら効果はなかったようだ。このままでは埒が明かないとサスケはもう一つ溜め息を吐いてから口を開いた。


「今日行ける所の話をしろ、ウスラトンカチ」

「だからしてるってばよ」

「してないから言ってるんだろ。とりあえず、今日行く場所はキバが決めろ」


 その発言にキバは「オレが?」と聞き返し、隣のシカマルは「確かに、それで良いんじゃね」と続ける。一人疑問符を浮かべているのはナルトだ。シカマルが今日何日かという質問を投げかければ、黒板を振り向いて確認する。黒板の端には今日の日付がしっかりと書かれている。


「七月七日……っていえば七夕だよな」


 何があるのかと考えたところで真っ先に出てきたのはそれだった。今日は世間でいう七夕。昔は短冊を作ったりしていたが、流石にこの年齢になればわざわざ竹を用意して七夕飾りを作ったりはしない。けれど、幼稚園の近くを通れば大きな笹飾りが飾られている。
 他にも何かあるのだろうかと暫く考えていると、唐突に「あ」と声を上げた。どうやら気付いたらしい。


「七夕だから、キバの誕生日か!」


 漸くサスケの言葉がどういう意味かを理解したらしい。
 そう。今日、七月七日はキバの誕生日である。だからサスケは話が逸れている二人の内のキバに場所を決めろと言ったのだ。シカマルもすぐに納得したのはサスケの言おうとしていることがすぐに分かったからだ。


「そっか、七夕だもんな」

「テメェ……どういう意味で言ってるんだよ、ナルト!」

「別に深い意味はないってばよ」


 どうせ七夕という日に似合わないと言いたいのだろう。七夕といえば織姫と彦星の話が有名だ。ちなみに、このやり取りは初めてではなく以前にも似たようなやり取りをしている。その時もこんな感じで二人が言い争っていたのだ。冗談交じりで話しているのは分かるけれど、これではいつになれば話が纏まるのやら。
 それを見かねて「どうするんだ」と声を掛けると、そうだなとキバは考える。少ししてから近場の適当な場所を挙げ、周りもそれで納得する。


「じゃあ、今日はテストも全部平気だったし、キバの誕生日祝いってことで遊びに行くってばよ!」


 これまでの話をナルトが全部纏める。最初はテストも終わったからというだけだったが今日はキバの誕生日なのだ。そのお祝いもかねて、ということに変更だ。事前にプレゼントなんて準備していないけれど、その時に何か奢れば良いだろうという考えになっているのがこの高校生男子達だ。大体どの人の時もそんな感じだろう。


「キバ、誕生日おめでとう!」


 誕生日だと知っただけでまだ伝えていなかった言葉を伝える。それにつられるようにサスケやシカマルも「おめでとう」と続けていく。それから聞こえていたらしいクラスメイト達からもお祝いの言葉が掛けられる。
 いきなりお祝いの言葉を周りから言われ、キバは嬉しいような恥ずかしいような気持ちになる。クラスメイト達からの全てのお祝いを聞き終えて、ぐるりと周りを見回す。


「みんな、ありがとな」


 お礼を言うとみんなで笑い合う。温かなクラスメイト達に囲まれて幸せだななんて、キバは心の中でこっそりと思う。
 それから休み時間の終わりを知らせるチャイムが鳴り響き、それぞれ自分の席へと戻る。放課後には誕生日だからと奢って貰ったり、みんなで楽しく遊びながら良き一日を過ごした。
 夜には沢山の星々が光る。きっと、天の上では織姫と彦星も幸せな時間を過ごしているのだろう。










fin