「あーせっかくのバレンタインなのにチョコがないってばよ!」


 下駄箱とか机の中とか、そういうのってチョコが入っているところじゃねぇのかよ。
 そう話すナルトの隣でキバもその通りだと言いたげに頷いている。チョコが入ってないかと期待して開けたというのに結果は先程の発言通りだ。


「一つくらいあるんじゃないかと思って期待して登校してきたのにさ」

「本当だぜ。期待してきたのに実際はゼロだもんな」


 義理でもいいから入っていて欲しかった。そんな風に二人は言っているけれど、義理だったらそんなところに入れないんじゃないかとは第三者の意見である。
 たかがバレンタインで、と思わず零せば二人の視線は一斉にそちらに注がれる。


「そりゃお前はモテるから良いけど、オレ等だってチョコ欲しいんだってばよ!」

「オレは甘い物が苦手だから貰っても嬉しくない」


 ナルトとは打って変わり、サスケの方は朝から女の子達に振り回されている。それこそ下駄箱といい机といい、チョコの山が出来ているほどに。
 サスケはこの学校で一番女子に人気のある生徒だ。女の子はなんとかチョコを受け取って貰おうと朝から必死だったことだろう。一方でサスケは甘い物が苦手な上に騒がしいことも好まない。その為、朝から女の子達に会わないように努力をしていた。しかし結局は下駄箱や机といった逃げようのない場所にチョコを用意されたりとなかなか大変なようだ。


「好き嫌いはともかく、これだけの量になると持ち帰るのも大変そうだな」


 まだ朝だというのにこれだけの量。帰る頃にはどれくらいになっているのだろうか。お疲れさん、としか声の掛けようがない。
 モテるというのも大変だなとシカマルは思う。チョコが欲しい二人からしてみれば、羨ましいことこの上ない光景だ。けれどサスケからしてみれば苦手な物をこんなに渡されてもどうすれば良いのか困る。


「世の中不公平だってばよ!」

「モテるヤツはこんなにチョコ貰えるんだもんな。オレ等なんて義理すら貰ってねぇのに」

「……こっちは欲しくなくても押し付けられるんだよ」


 チョコが欲しい人とチョコが要らない人。
 嫌いな物を貰っても困るというのはナルトやキバにしたって同じだろうが今日はバレンタイン。女の子から好意として貰えるチョコというだけで特別な物なのだ。好き嫌いなんて関係なく、男としてどれだけのチョコを貰うことが出来るのかという話である。と、いうことらしい。
 だけど今日は始まったばかりだ。これから一気にチョコが貰えるかもしれない。その可能性だって十分にあるだろうと二人が話し始めたのを見てサスケは溜め息を零す。そんな彼等のやり取りを見ていたシカマルも苦笑いを浮かべる。


「アイツ等はどうだか分からねぇけどよ、お前はまだ苦労しそうだな」

「あのウスラトンカチ、自分が野菜を貰ったとしても同じ反応するんだろうな……」

「いや、しねぇだろ。アイツ等はバレンタインにチョコを貰えるのが羨ましいだけなんだからよ」

「そのチョコが苦手だからこっちは困ってるんだがな」


 その辺りを説明したところで分かってはもらえないのだろう。別に分かって欲しいという訳ではないが今日一日このようなやり取りを繰り返すのかと思うと溜め息しか出てこない。ただでさえチョコを貰わないように女子から逃げなければならないというのに。言えばまた二人が五月蝿いから口には出さないけれど。
 世の中が不公平だとは思わないけれど、これが逆だったら全て丸く収まっていたんだろうなと第三者の視点からシカマルは考える。かくいうシカマルはナルト達と同じ側だがチョコを欲しいとは思わない。貰ったら返さなければいけないのだから逆に貰わない方が楽で良いと思っているくらいだ。


「まぁ頑張れよ」


 何がとは言わなかったがこのバレンタインのことであるのはまず間違いない。それが女子のことに対して言われているのか、ナルトやキバのことに対しているのかは分からない。両方という線が一番強い気がするけれども。他人事だと思ってと言いたいところだが実際他人事なのだからしょうがない。


「よーし! どっちが多くチョコ貰えるか勝負だってばよ!」

「良いぜ。負けた方は買った方に奢りな」


 そして向こうでは何やらチョコの数を競うらしい。バレンタインとはそういうものではないだろうと思えど突っ込む気にもならず。変に口を挟んで巻き込まれたくもないというのが本音だったりするが、今日はまだ始まったばかりである。きっと一日が終わるまでこの調子なのだろう。
 とはいえ、バレンタインだからという理由でいつもと違う調子なのはこの二人に限ったことではない。チョコなどの贈り物を用意している女子生徒は勿論、男子生徒もチョコをもらえるのかと期待している人はそれなりに居るのではないだろうか。サスケみたいなタイプはなかなかいないだろうが今日が特別であるというのは大多数の共通認識だろう。

 さて、二月十四日はまだ始まったばかり。
 ここからが本番だ。










fin