「あ、サクラじゃねーか」


 自分の名前を呼ぶ声に振り返れば、そこには少し前まで見慣れていた姿。忍者学校を卒業してからは別々の班になり顔を合わせる機会がなくなってしまったけれど、同じ木ノ葉隠れの里に住んでいるのだから道端でばったり出会うのも珍しくはない。


「シカマル! 久し振りね」

「だな。そっちも任務は終わったのか?」

「ついさっき終わったところよ」


 サクラ達第七班は今日も相変わらずカカシの遅刻から始まり、いつもと同じようなDランク任務を行っていた。途中でナルトとサスケが言い争いになりかけるのも日常茶飯事である。
 そっちもと尋ねたシカマルも本日の任務は終了したところなのだろう。商店街という場所で会ったということはお互いに買い物に来たというところだろうか。商店街にやってくる人の大半の目的は買い物なのだ。そう考えるのが自然である。


「こんなところでシカマルに会うとは思わなかったわ」

「そりゃこっちの台詞だっつーの。てっきりナルトにでも捉まってるかと思ったぜ」


 どうしてここでナルトが出てくるのか。
 頭にクエッションマークを浮かべると、アイツはお前のことが好きだろうとシカマルは話す。それはサクラを含め同期メンバーなら知っているだろう。当然、サクラ自身もナルトが自分に好意を抱いているということくらいは知っている。
 とはいえ、それとこれとがどうして繋がるのかが分からない。そんなサクラに気付いたのから、だからとシカマルはさらに補足を付け加えた。


「今日は誕生日なんだろ? それならアイツも黙ってはいねぇんじゃないかと思ってよ」


 そういうことかと漸く納得した。確かに今日は三月二十八日、サクラの誕生日だ。ナルトもそうだがチームメイトであるサスケやカカシもおめでとうと祝ってくれた。尤も、ナルトはサクラの誕生日を知らなかったようだがカカシの方が知っていたのだ。どうして知っていたのかは分からないけれど担当上忍だからといったところだろう。それで誕生日を知った二人も祝ってくれたというのが今日の出来事である。
 へぇと話を聞いたシカマルにサクラはもう一つ疑問が浮かんだ。どうして自分の誕生日を知っているのかという点だ。だがそれについてはシカマルのチームメイトであるいのが言っていたのだと言われてすぐに納得。


「任務が終わったら甘味処に行く約束をしてるとか聞いたけどまだいいのか?」

「約束の時間まではもう少しあるから。買い物が終わったら一度家に寄ってそのまま行くつもり」

「けど、それならそろそろ行った方が良いんじゃねぇの」


 何時に約束をしているかまでは知らないけれど、なんだかんだでここで立ち話をしてしまっている。まだ買い物が残っているのなら早くしなければ時間に間に合わなくなってしまうのではないだろうか。
 そこのところはどうなのかというと、時間には本当にまだ余裕があるのだ。しかし、あまり寄り道をしていたら時間がなくなってしまうのも事実だろう。ここは素直にシカマルの言葉を聞いておく方が良いのかもしれない。


「うーん、それもそうね。じゃあ、私はそろそろ行くわ」

「おう、またな」


 短く挨拶を交わして別れた――のだが、すぐに「あ、そうだ」と声が聞こえてきてつられるようにサクラは足を止めた。くるりと振り返れば丁度向こうもこちらを振り向いたところだったようで。


「誕生日おめでとさん」


 一番大切なそれを言い忘れていた。本人に会えると思っていなかっただけにプレゼントは何もないけれど、せめてお祝いの言葉くらいは伝えておく。一年に一度の特別な日なのだから。
 お祝いの言葉を受け取ったサクラは嬉しそうに笑って「ありがとう」とお礼を述べる。そんなサクラを見てシカマルも口角を持ち上げるようにしながら「じゃあな」と手をひらひらさせた。今度こそ本当にお別れである。


(もう少し、一緒にいても良かったかな)


 買い物なんて最悪いの達と別れたあとですれば良いのだ。どのみちシカマルに予定があったのなら無理な話だけれど、それでもあと少しくらい二人で過ごしていたかったと心の内で思う。勿論、シカマルが厚意で時間のことを切り出してくれたことも分かっているけれども。


「よし、早いところ買い物を終わらせちゃおう」


 同じ里にいるのだからまたいつでも会える。今度会った時はもっと一緒にいられたら良いな、なんて思いながら青い空の下を駆ける。暖かな陽気に包まれて、大切な友達と共に過ごす時間に向かって。










fin