中忍選抜試験のことで木ノ葉と砂を行き来してる砂の使者。面倒だけどオレがその人を送らなければならないわけで。まあ、面倒だからってやらないわけにもいかないことだ。元々この係りだって面倒だけどそんなことも言っていられない。仕方がないことだ。
 さて、今日も打ち合わせは終わった。今はその砂の使者とやらを送っているところだ。といっても木ノ葉の門まで。長いようで短いような時間は話すことがあればいいかもしれないが、何もないと大変な時間でもあったりする。


「中忍試験ももうすぐ本戦だな」


 最初に口を開いたのは砂の使者――テマリだ。コイツは今は上忍だ。オレが初めて中忍試験に出た時にコイツも中忍試験を受けて本戦で戦うことになった。知力戦みたいな感じだったけど、途中で面倒くさくなっちまってギブアップしたんだよな。
 だけど、その試験でオレは中忍になった。面倒だとは思いつつも里が認めてくれたってことだ。だから中忍としてやらなきゃいけないって思った。今も昔も里の為にと考えるのは変わらないけれど。


「あぁ、そうだな」


 七月の始めに中忍試験が始まった。そこから第一試験、第二試験と進み次は本戦。第二試験から本戦までの間は一ヶ月の休みが与えられる。その休みの間もオレ達は本戦の為の打ち合わせをする必要がある。それでこうして今も打ち合わせをしていたというわけだ。


「あの時はお前と戦ったんだよな。その後に再戦をしろと言っても面倒くさいってやろうとはしない奴だったけど」

「めんどくせーのは事実だからよ」


 わざわざ試合すんのなんてめんどくせー。あの時だって面倒からギブアップしたんだ。それなのにまたやる気になんてならない。それでもコイツは諦めようとしなくて本当に面倒くさかったな。
 そんな話をしていたら、あっという間に門の前まで辿り着いていた。これは時間が経つのは早かったてことだろうか。あれだけ話してたんだからそう感じてもおかしくはないかもしれない。


「じゃぁな、私は行く」


 一言だけ挨拶をしてテマリはさっさと行こうとする。その様子をいつもならそのまま見送るけど、今日は引き止めるために口を開いた。


「ちょっと待てよ」


 たった一言。だけど、それが珍しいとでも言いたげな表情でテマリはオレの方を向いた。オレが引き止めるなんてことは滅多にない。だけどそこまで「何か用でもあるのか」と言いたそうな目で見なくてもいいと思うんだけど。オレだって止めるのに一応それなりの勇気みたいなものは使ってるんだぜ? そんなこと気付いてるわけないだろうけど。


「これ、持ってけよ」


 一つの袋を渡せば、テマリはそれを素直に受け取る。不思議そうに袋を見る彼女に聞かれる前に、袋の中身は甘栗だと教えた。
 甘栗はテマリの好物らしい。いつだったかに聞いた覚えがある。その時は適当に聞き流していたのだが、そういえばと思い出して買った。思い出して、というよりわざわざ買ったというほうが正しいかもしれない。


「何で私に渡すんだ?」


 疑問ばかり浮かべている目の前の女に思わず溜め息が零れそうになる。だけどいきなりこんなことをされても、ちゃんと答えない限り分からないんだろうな。それに気付いてないのかもしれないし。否、気付いていてもオレが覚えてるなんて思っていないのかもしれない。


「今日は、お前の誕生日……だろ?」


 言えば「え」という声が漏れた。その表情は信じられないといった感じだ。


「覚えてたのか」

「一応な」


 一度しか聞いたことはなかったけど、オレの記憶力があればそれで十分だった。たった一度しか聞いてないものの覚えられる。それを聞いた当時は覚えることもないだろうと思っていたけれど、今のオレにとっては大切なこと。


「誕生日おめでと」


 お祝いの言葉はこの一言。だけど祝うのにこれ以外の言葉もないだろう。だから精一杯の気持ちをこめて伝える。

 誕生日おめでとう。生まれてきてくれてありがとう。
 今日という日に祝いと感謝の気持ちを貴方へ贈る。










fin