「…………ナルト」


 どこからか声が聞こえるような気がする。今、オレは眠ってるはずだからこれは夢だろうか? 夢だったら誰が呼んでるんだろう。聞いたことのない知らない声。だけど、なんだか懐かしさを感じる。
 これは誰の声? この声の人は誰?


「ナルト」


 ほら、また聞こえてきた。あれ、もしかしてオレが呼ばれてる? だけど一体誰に?
 この人はオレのことを知っているんだろうか。だからこんなにオレの名前を呼んでいるのかもしれない。オレには分からないけど、この人はきっとオレを知ってるんだ。
 オレもなんとなくだけどこの人のことを知っているような気がする。はっきりとは分からないけど、懐かしくて温かいような感じがするんだ。

 この声が誰のものか知りたくてオレはそっと目を開けた。
 夢かもしれないと思ったけど、これは夢じゃなくて本当にオレが呼ばれてるんだと分かったから。目を開けるけてみたら、辺りは夜ということもあってとても暗かった。電気のついていない部屋の唯一の明かりは空に浮かぶ月。


「誰か、居るのかってばよ……?」


 本当ならオレしか居ないはずの部屋で声を掛ける。きっと、さっきからオレを呼んでた人が居るはずだから。
 オレが呼んだからか、月明かりに照らされてた部屋に影が浮かぶののに気が付いた。これはオレの影でもなければ部屋の家具の影でもない。多分、オレのことを呼んでいた人の影だ。


「誰…………?」


 この人が誰なのか知りたくて質問する。怖いという感情はない。この人から感じるもののせいだろうか。こんな所に知らない人が居れば普通は驚くけど、今のオレにそんなものはない。どちらかといえば、居心地がいいというような感じだろうか。


「久し振り、ナルト」


 振り向いた顔が月明かりで照らされる。その人はとても優しそうな顔をしていて、だけどどことなく寂しそうな表情をしていた。
 金髪の髪に青い空のような目はオレと同じ。初めて会ったと思ったけどそうじゃないような気がした。心の底に感じているこれは初めてという感じじゃない。オレはやっぱりこの人を知ってるんだ。誰だかまだ分からないけど、オレは確かにこの人を知っている。


「大きくなったね」


 頭にのせられた手は大きくて温かい。今までに感じたことのないような気持ちになる。
 これは、なんていう気持ちなんだろう? 大きな手から温かさが伝わって、それを全身で感じている。まるで、この人の優しさに包み込まれているようだ。


「あのさ、オレってば分からねぇわけじゃないんだけど、どういうことかよく分かんねぇっつーか……」


 どう言ったら良いのか分からなくて、意味の解らないただ並べただけの言葉になってしまった。それでもこの人が誰なのかはっきりさせたかった。
 聞かなくても伝わってくるものは温かくて、オレが知っている人だって思うのと同時にとても大切な人じゃないかと思った。でもそれはオレが思ったことであって、この人から直接聞いたわけではない。だからそれを知りたくて尋ねる。
 すると、目の前のその人は優しく笑いながらオレの方を真っ直ぐ見て答えた。


「仕方ないよ。オレは、ナルト。君が生まれた時に君に会ったことがあるだけだから」

「オレが、生まれた時だけ……?」


 聞き返したら静かに頷いてくれた。生まれた時ってことは、オレは今日で十二歳になったんだから十二年前ということだろうか。そんなに昔に会っただけならオレが分からなくても無理はない。
 けれど、どうして一度会っただけなんだろう。これも疑問に思ったけど、なんだか聞いちゃいけないような気がして声には出せなかった。


「大きくなった君に会えて嬉しいよ」


 その言葉は心の底にまで届いた。とても大きくて温かい言葉。こんなにも温かい言葉をもらったのは初めてかもしれない。
 今日、十月十日という日はいつも家で一人だった。だから、今日という日にそんな風に言ってくれる人がいることが素直に嬉しい。


「誕生日おめでとう」


 次に言われたのはお祝いの言葉。今日はオレの誕生日だけど、今まで一度も誰かに祝ってもらったことなんてなかった。祝ってもらったのはこれが初めてだ。だから本当に嬉しくて、胸がいっぱいになって。


「ごめんね、ナルト。オレはもう行かなくちゃいけない」

「えっ……もう行っちゃうのかってばよ……!?」


 よく分からないけど、この人の温かさは居心地がいい。たくさん話してみたい。もっと一緒に居たい。自然と心からそう思ってしまう。
 だからこの場から居なくならないで欲しい。オレを一人にしないで。今、オレは心からこの人のことを求めている。


「ごめんね。でも行かなくちゃいけないんだ。……ナルト。次にいつ会えるか分からないけど、元気でね」


 それだけを言い残して、目の前にいた人は一瞬のうちに居なくなってしまった。それとほぼ同時に突然眠気が襲ってくる。さっきまで全然眠たくなんてなかったのにどうして急に……。こんな眠気に負けないでまだ起きていたいけれど、そう簡単に眠気には勝てなかった。結局オレはそのまま眠りについた。


(ごめんね、君に辛い思いをさせて。元気で強い忍になってね。オレは、いつでも君の傍にいるから)


 眠ったオレは温かい何かに包まれていた。とても温かい、大きなものに……。










fin