バレンタインの贈り物
「世間はバレンタインデーなのに、何でこんな任務しなくちゃいけないんだってばよ」
はあ、と溜め息を吐くナルト。任務の手を止めている様子に「そんなこと言ってる暇があったら手を動かせ」とサスケに言われ、ぶっきらぼうに「分かってるってばよ」と返す。
「そんなこと言っても仕方ないでしょ? 任務はいつでも入ってくるんだから」
「それくらい分かってるってばよ。でも、折角のバレンタインデーなのにさ……」
そう言ってまた溜め息を一つ。忍という職柄、いつ任務が入ってもおかしくない。ナルト達は下忍だからランクの高い任務につくことはないが、もっとランクの上の任務では死と隣り合わせでもあるのだ。そう言えるだけまだいい方なのだが、この年頃の男の子としてはそうもいかないらしい。
「これじゃあチョコの一個も貰えないってばよ」
ついそんな言葉を漏らす。相変わらず作業が進まない様子に「真面目にやれ」とサスケに加えて「ちゃんとやりなさいよ」とサクラにも同じような言葉を同時にぶつけられた。それに先ほどと同じように分かってると返したら「分かってるなら行動で表せ」と言われる始末だ。
そこまで言われてナルトも漸く手を動かし始める。けれど、度々手を止めることがありその度に二人から注意を受けるという繰り返しだ。
「そういえば、カカシ先生ってチョコ貰ったりするの?」
どうしても今日はバレンタインの話になってしまうらしく、木に背中を預けていたカカシの方に質問を投げかける。その質問に「まぁそれなりにはね」とだけ返してまたいつもの本を読んでいる。
これ以上聞いたところで今と同じように相手にはされないだろうことは分かっている。代わりに同じチームメイトにこの質問をしたら、いかにも嫌そうな雰囲気を出しながら答えてくれた。
「そんなものに興味はねぇ」
「興味ないってな……。いいよな、モテる奴は」
「黙れ、ウスラトンカチ」
「んだと! 貰える奴はいいよな! 貰えない人の身にもなってみろってばよ」
「貰えない方が楽だろうが」
「楽ってなんだってばよ!?」
言い争いを始めだした男二人を見て、第七班の紅一点であるサクラは「いい加減にしなさいよ!!」と声を上げた。その言葉で一度この場が静まり返る。何やら言いたげな二人に、サクラは有無を言わさず任務をやるように言い切った。
そんなサクラに逆らえるわけでもなく、ナルトとサスケは互いの顔を一度見てからそれぞれ任務に戻った。ここでサクラに何を言っても勝てないことは分かっている。何より今は任務の最中なのだから任務をするべきだと考えた。
□ □ □
夕方になり、やっとのことで今日の任務は終了した。能天気な声で「任務ご苦労だったね」なんて言われても本当にそう思っているのかなど分かったものではない。いつもと同じように明日の集合場所と集合時間を告げられて漸く解散を言い渡された。
流石にもうあの言い争いを引きずっている訳ではない二人も解散と言われて帰ろうとした所でサクラに引き止められた。「ちょっと待ってて!」と言われ、どうしようかと思いつつもその場でサクラを待った。それからあまり時間の経たない内にサクラは戻ってきて「待たせてごめんね」と一言謝ってから小さな箱を二人に渡した。
「今日、バレンタインでしょ? だから二人に」
その意味を理解してナルトは飛ぶように喜んだ。
「マジで!? ありがとう、サクラちゃん!」
「アンタ、任務で五月蝿いからあげるのどうしようかと思ったわよ。言っとくけど、義理よ義理!」
「それでも嬉しいってばよ!」
ここまで喜んでくれると渡した方も嬉しくなるというもの。ナルトの反応は予想通りというかなんというか。本当に嬉しいんだなと見ていてとてもよく伝わってくる。
そんなナルトの様子を見ながら、隣でナルトとは逆の反応を示しているサスケにサクラは慌てて説明を加える。
「サスケくんのはちゃんと甘さも控えてあるから。だから大丈夫だと思うんだけど……」
チラとサスケの反応を伺いながら説明をする。ちゃんと受け取ってもらえるだろうかと不安を胸に見ていると、一言「……ありがとう」と言ってくれた。
その言葉を聞いて、サクラはほっとした。もしかしたら受け取って貰えないかもしれないと思っていただけに受け取って貰えたのは嬉しい。
同じ第七班の仲間である二人を見ながら、この二人と同じチームを組めて良かったとサクラは心の中でこっそり思う。これからもこの二人とずっと一緒にチームを組んでいられれば良いのに。
そんな思いを夕焼けの空に浮かぶ一番星に願った。
fin