「もう! 何度言ったら分かるのよっ!!」

「そっちこそ、いつになったら分かるんだってばよ!!」


 今日は任務のない休みの日。せっかくの休みに一緒に過ごそうと二人はナルトの家にいた。
 最初はいつも通りの二人……だったのだけれど、気付いた時にはこれだ。どちらも譲らずに言い争いの状態が続いている。


「ナルトのバカッ!!」

「いののわからずや!!」


 そう言ったのと同時に顔を逸らす。反対を向く二人の表情は怒りの色を含んでいる。何度言っても分かってくれない相手に苛立ちが増していく。
 それから暫くの沈黙。
 一言も喋らずに静かな空間が出来上がっている。二人が揃って家に入ってから始めて訪れた静かさ。


(すっごく静か………)


 そう思ったのはどちらか。またはどちらもなのか。
 いつもは二人でいる時にこんなにも静かになることはない。記憶にある中でも数は少ない。というより、あっただろうかと記憶さえ定かではない。
 それ以上に、楽しい時間の方が有り余るほどにあるからだろうか。


(少し、言いすぎたかな……)
(少し、言いすぎたよな……)


 顔を反対に向けたまま心の中でそっと思う。意見が食い違っていたのは確かだ。けれど、こんなに沈黙の時間が続くなんて。
 今までにないような時間に戸惑う。どうしていいのか分からない。
 早くこの沈黙が終わってしまえばいいのに。そう思うけれど、言ってしまった言葉はどうにもならない。この空間を幾らか前までのあの空間に戻す方法は一つしかない。


「ねぇ」
「あのさ」


 重なる言葉。重なる声。一度呼吸を置いて、やっと目を合わせる。


「何よ」

「いのの方こそ」


 相手が何を言おうとしたのか。気になる疑問。だけれどそれはどちらも同じで。
 どちらが先に言おうかと思っていた時。ナルトの方が先に声を発した。


「あーその……悪かった、ってばよ」


 少し下を向きながら伝える。その言葉に驚きつつも、いのもまたゆっくり口を開いた。


「私の方こそ、ごめんね」


 静かな空間にポツリと降り注いだ二つの言葉。やっと形にすることの出来た言葉。短いそれだけの言葉だけれど今の二人にはそれで十分だった。余計な言葉など一切必要ない。
 今はただ、早く仲直りをしたい。
 そう思う気持ちで一杯だった。喧嘩するのなんて慣れないし、したいなんて思わない。だから、仲直りの言葉が欲しかった。


「言いすぎたってばよ」

「いいわよ。私だって同じだもの」


 言いながら相手の表情を伺うように顔を上げる。そのタイミングが同じでおかしくなる。つい笑いが零れると、それから同時に二人で笑い出した。笑いが止まらなくて、思いっきり笑った。
 漸く笑いが収まった時には、さっきまでのあの空間はどこかに消えていた。


「なんか、少し前まで悩んでたのがバカみたい」


 そんな風に言葉を漏らしたら、ナルトも同じ意見らしく「そうだよな」と笑った。やっぱり、あんな空間はこの二人には似合わない。


「ナルト、今からどこかに出掛けない? せっかくの休みなんだから」


 家で二人で過ごすのもいいけど、たまには出掛けるのもいいんじゃない?
 そう尋ねてみると、考える時間など要さずにいつもの笑顔で返事をが返ってくる。


「そうだな! んじゃ、行くってばよ!」


 言うとすぐにいのの手を引いて家を飛び出す。突然のナルトの行動に驚きつつ、ナルトらしい行動の早さに思わず微笑む。
 木ノ葉隠れの町並みを手を繋いで進んでいく。この手を離すことはもう出来ないのかもしれない。

 だって、この手を離すなんて考えられない。考えたくもない。いつまでだってずっと繋いでいたい。
 この手の繋がりは、私達の大切な繋がりの証拠だから。










fin