「そういえば、今日ってサクラの誕生日だったよね?」


 カカシのその一言でナルトは「そうなの!?」とサクラを振り返り、サスケもまた視線を彼女の方へと向けた。みんなの視線を受けながらサクラが頷けば、今度は三人からおめでとうとお祝いの言葉を貰う。それをサクラもまたありがとうと受け取った。


「あっ! でもプレゼント用意してねぇってばよ!?」

「別に良いわよ。アンタ今知ったんでしょ?」


 事前に知っていたならともかく、今知ったのならプレゼントは用意してなくて当たり前である。その気持ちだけで良いとサクラは言うが、せっかくの誕生日なのにとナルトは肩を落とした。もっと早くに誕生日のことを知っていたらと話すナルトにサクラは小さく笑みを浮かべ、それなら来年期待してるわとウインクをした。
 そんなサクラにナルトも顔を上げて「じゃあ今年の分も合わせてお祝いするってばよ!」と今から張り切るあたりがナルトらしい。楽しみにしててくれと笑顔で話すナルトにサクラも頷く。


「つーかカカシ先生! 知ってたならもっと早く教えてくれってばよ!」

「いやー、オレもさっき思い出して」


 ごめんねと謝るカカシにナルトもそれなら仕方がないかと納得する。思い出すのなら今日ではなく昨日とかの方が良かったけれど、過ぎてから思い出すよりは今日の方が良いだろう。それに今更そんなことを言っても仕様がない。既に今日はやってきてしまっているのだから。


「そうだな……それじゃあ今日はオレが何か奢ってやろうか」

「なら一楽が良いってばよ!」

「どうしてお前の好きなモンなんだよ、ウスラトンカチ」


 ここはサクラの好きな物になるのが自然な流れだろう。サスケの言葉にナルトも「あっ」と気付いたようで「サクラちゃんは何が良い?」と尋ねた。サクラが好きなものはあんみつなのだが、サスケが甘い物を苦手なことはサクラも知っている。一楽でも良いといえば良いのだが、この前も任務の後で一楽に行ったばかりだから違うものが良いかなと考える。


「そうね……。たまには焼肉とかも良いんじゃない?」

「じゃあ焼肉Qに行くってばよ!」


 ね、カカシ先生と話すナルトにカカシも頷く。木ノ葉で焼肉といえば焼肉Qだ。はりきって先頭を歩くナルトに続いて三人も歩き始める。歩きながらサクラはカカシの隣に並んで「ありがとう、カカシ先生」とお礼を言った。サクラのお礼にカカシは「んー?」と首を傾げる。


「だって今日はサクラの誕生日でしょ? こういう時は素直に祝ってもらえば良いんだよ」


 一年に一度の誕生日。それを仲間として祝うのは当たり前のことだとカカシは話す。きっとナルトやサスケも同じ気持ちだろう。二人共サクラの誕生日を知らなかったから形ある贈り物は用意出来なかったけれど、自分達の誕生日にはきちんとお祝いをしてくれたサクラの誕生日を祝いたいと思っているはずだ。
 七班として一緒に任務をするようになってからこれまで、サクラは三人の誕生日をちゃんと覚えていてお祝いをしていた。そんな彼女の誕生日を祝いたいと三人が思うのも当然である。だがサクラはそうじゃなくてと首を横に振る。


「ううん、そうじゃなくて。カカシ先生が私の誕生日を知ってたなんて思わなかった」

「あーそれはお前等の担当上忍になる時にね」


 みんなで誕生日がいつなのかという話をしたことはない。それでもサクラがナルトとサスケの誕生日を知っていたのは、忍者学校時代に聞いたことがあったからだ。カカシの誕生日も下忍になってからたまたま知る機会があったのだ。
 一方カカシはというと、彼等の担当上忍になる時にそういった情報も聞いていたのである。その時に見たものを今も覚えていたというだけの話だ。


「じゃあカカシ先生はナルトやサスケ君の誕生日も知ってたんだ?」

「ま、そういうことになるかな」


 いつもサクラが一番に誕生日の話題を切り出してくれたからカカシから言うことはなかったが、他の二人の誕生日もカカシは知っていたらしい。そのことを知ったのが出会ってから一年近くが経とうとしている頃なのだから、一年共に過ごしてきてもまだまだ知らないことはあるものである。
 けれど思い返してみれば、サスケが誕生日だった時もナルトが誕生日だった時もカカシは知っていた風だったかもしれない。特に驚きもせず、そういえばそうだったねぐらいの反応だったような気がする。今にして思えばの話だが。


「そうだったのね。でも言われてみれば納得かも」

「そう? けど、いつもはサクラがちゃんとみんなの誕生日を覚えててくれたからね」


 女の子はこういったことをしっかり覚えてるよねと言えば、誕生日を覚えてるのに男も女も関係ないんじゃないかとサクラは返す。言われてみればそうかもしれない。相手が自分にとって大切な人ならば、その人の誕生日を覚えていたとしても何らおかしなことはない。実際、カカシだって一度見ただけの部下達の誕生日を記憶していたのだ。こういうのは男女関係なく、人それぞれということだろう。


「カカシ先生もサクラちゃんも早く早く!」


 大きな声で呼びながらナルトはこちらに手を振っている。そんなナルトの元に一足先に辿り着いたサスケが「五月蝿いぞドベ」と言い、それに対してナルトが文句を言うといういつもの光景が目の前で繰り広げられている。昔ほどぶつからなくなったとはいえ、二人にとってはこれもコミュニケーションの一つなのだろう。そんなことを言ったら両者に否定されそうなものだけれど、喧嘩するほど何とやら、である。


「もう、今行くわよ! だから二人共、喧嘩しないの!」


 サクラの一言で二人の言い争いもすぐに収まる。これもいつからかよく見る光景である。最初はバラバラだった三人も同じチームメイトとして親しくなったということだろう。三人のやり取りを眺めるカカシは自然と微笑みを浮かべる。


「行こう、カカシ先生」


 そう言って一歩先から桃色の髪を揺らしてくるりと振り返った少女。遠くでは二人の少年がサクラとカカシがやってくるのを待っている。
 サクラに続いてカカシもゆっくりと足を進め、二人の部下の元に追いつくと店先で騒いだら迷惑になるでしょと一応注意をする。分かったから早くと急かすナルトは本当に分かっているのか。


「今日は好きなだけ食べるってばよ!」

「お前ね、少しは遠慮しなさいよ」

「だがアンタの奢りだろ?」

「ご馳走様です、カカシ先生」


 三人の部下達の言葉にカカシは溜め息を吐きながら、けれどその表情は仕方がないといった笑みである。ナルト達もまた浮かべるのは笑み。
 何といっても、今日は第七班の紅一点の誕生日なのだから。







大切なチームメイトの誕生日を祝おう