今日は木ノ葉隠れの里でお祭りが開催される。大人も子供も、里の多くの者達がそのお祭りを楽しむ。
 イタチとサスケはお祭りが始まると二人で会場へと出掛けていた。


「兄さん、どこから行く?」


 尋ねれば、手を繋いだ弟の方へと視線を落としながら「サスケはどこに行きたいんだ?」と疑問で返ってきた。疑問に疑問で返されると思っていなかったサスケは、うーんと言いながらどこにするかを考える。
 里でも大きな夏祭りというだけあって、あっちにもこっちにも屋台が並んでいる。金魚すくいや輪投げといった遊べるものから、綿あめや焼きそばといった食べ物まで。それは様々な屋台が見られる。


「夕飯もここで済ませて良いと言われたから、何でも好きなところでいいぞ」

「そうなの?」


 イタチが頷くと、それならまずは何か食べたいとサスケは言った。何か、と言われてもその何かが沢山あるわけだが。これだけ食べ物があるとお腹が空いてきたというところだろう。


「そうだな……どこでも良いのか?」

「うん! あ、でも」


 そう言ったサスケの視線を辿ると、そこには大きな文字で“たこ焼き”と書かれていた。くるくるとたこやきが鉄板の上で回っている。たっぷりとソースが塗られた上にマヨネーズが掛けられ、鰹節と青のりが乗せられいく様子に目を奪われたらしい。


「たこ焼きを食べるか?」


 そう聞いてみると、すぐに肯定で返ってきた。その反応に思わず笑みを零しながら、二人は一緒にたこ焼きの屋台の前まで歩く。そこで二人分のたこ焼きを頼み、受け取ったそれを持って人混みの中を抜ける。流石にこれだけの人が行き交う中で食べ歩くのは危ない。
 暫く歩いて神社の近くまで行けば人も殆ど居ない。会場から少し外れただけだが、やはり会場の休憩スペースで食べる人の方が多いのだろう。イタチがそこを選ばなかったのは、あの人混みの様子では座れる場所を探すのも一苦労しそうだったからだ。


「サスケ、大丈夫か?」

「これくらい平気だよ」


 ちょっと歩いただけなんだから、といつまでも子供扱いするイタチにサスケは頬を膨らませた。そんなサスケに微笑みを浮かべて、それじゃあ食べようかと先程買ったばかりのたこ焼きを渡す。


「熱いから気を付けて食べろよ」

「分かってるよ」


 一つ一つ気に掛けるのは、イタチがサスケの兄だからだろう。平気だといわれてもつい心配になってしまう。何歳になろうともサスケは弟なのだ。実際、今はまだ危なっかしいところもある。本人に言ったら拗ねられてしまいそうだから口には出さないけれども。


「美味しいか?」


 よく冷ましてからたこ焼きをパクリと食べた弟に尋ねると「うん!」と嬉しそうに返ってきた。そうかと頷いたイタチもたこ焼きを食べ始める。出来たてで熱いけれど、やはり出来たてのものは美味しい。
 うっかりやけどをしないように一個ずつ冷ましながら、ゆっくり時間を掛けてたこ焼きを食べる。


「ねぇ、兄さん」


 そうして食べながら、サスケに呼ばれたイタチは「何だ?」と聞き返す。すると、さっきまでは楽しそうだったサスケが少し俯くようにして問うた。


「父さん達、やっぱりこれないのかな?」


 今日、本当ならイタチとサスケの二人ではなく家族四人でお祭りに行く予定だった。毎年このお祭りには家族みんなで来ており、今年もいつものようにみんなで行くものだと思っていた。
 けれど、任務に出ていた父。フガクの帰りが遅くなりそうだからとミコトは二人で一緒に行くように言ったのである。そのミコトは家でフガクの帰りを待っている。サスケはまだ小さいけれど、イタチが一緒なら大丈夫だろうと任されたのである。それで今日は二人でお祭りに来ていたのだ。


「どうだろうな。父上も忙しいみたいだからな」

「そっか……」


 任務なら仕方がない。それくらいのことはサスケも分かっている。まだ幼い子供とはいえ、優秀な忍の一族に生まれ育ってきたのだ。
 分かっているけれど、サスケはまだ子供だ。やっぱりみんなで来たかったという思いもある。忙しい兄と一緒に来られただけでも嬉しいけれど、せっかくなら。


「でも、花火はみんなで見たいな……」


 せめてそれだけでも。家族みんなで一緒に見たい。お祭りもみんなでとは言わないけれど、ほんの僅かな時間だけでも良いから。家族で過ごせる数少ないイベントの一つだから。


「……そうだな。父上も母上も、早く来ると良いな」


 イタチが優しく微笑んで頭をぽんぽんと撫でると、サスケも小さく笑って「うん」と頷いた。


「兄さん、この後は色々屋台で遊びたい!」

「ああ、食べ終わったら見に行こう」


 父とも母ともあとで合流出来たら良い。そう思って気持ちを切り替える。何せせっかくのお祭りなのだ。ここに来ているのなら楽しまなければ損である。

 食べやすくなったたこ焼きをぱくぱくと口に入れていく。同じように食べていても、やはりお兄ちゃんであるイタチの方が食べ終わるのは早かった。


「兄さんは食べるの早いね」

「サスケも大きくなればそうなるさ」


 大きくなればそれだけ食べる量も増える。イタチだって特別食べるのが早いわけでもない。このペースの差は単純に年齢の違いだけだ。サスケも今のイタチと同じくらいの年になった時には、これくらいのペースで食べられるようになるだろう。


「食べ終わるまで待っているから、ゆっくり食べるんだぞ」


 急いで食べないように言えば「はーい」と返事が来た。それからサスケも残りのたこ焼きを全部食べ終え、両手を合わせて「ご馳走様でした」と挨拶をした。


「サスケ、ちょっとこっちを向け」

「何、兄さん?」


 呼ばれるままに振り向くと、イタチはぺろっとサスケの頬を舐めた。


「に……兄さん!?」


 唐突なイタチの行動にサスケが驚くと、イタチはきょとんとした顔で弟を見る。それからああと言葉が足りなかったことを理解して補足する。


「ソースがついていたんだ」

「ソース……?」


 だからそれをとっただけだとイタチは話した。
 そうだったのかとは思ったが、それでこの行動に納得が出来るかといえば別である。それならそれで、普通に言ってくれれば良かったのではないだろうか。
 言えば、これが一番早かったからなと兄は平然と言ってのけた。だからそういう問題ではないのだが、全く気にしていないらしいイタチは空の容器を重ねて立ち上がる。


「さて、そろそろ屋台を回るか」


 兄の行動が不可解なことなんて今に始まったことではない。いつもとはいわないが、時々こういうことはあるのだ。だからあまり気にしてもしょうがないのかもしれない。
 そう結論付けると、サスケもまた立ち上がってイタチの隣に並ぶ。


「どこから行きたいんだ?」

「うーん……兄さんと一緒ならどこでも良いや」


 そんな風に答えた弟に微笑んで、それじゃあ近いところから回ろうかとイタチは手を差し出す。その手をサスケはしっかり握って「うん!」と元気よく返事をした。







いモ


さりげない兄弟のやり取り。屋台で買ったたこ焼きは美味しかった
けれどイタチにとって、本当に美味しかったモノは……

それは、イタチ本人だけが知っていること