冬の寒さが過ぎ去り、少しずつ春の暖かさがやってきた今日この頃。綺麗に澄んだ空の下、木ノ葉隠れの里は平和な時が流れていた。
遅れてきたバレンタイン
子ども達の元気な声が響き渡り、里の者達の間では楽しげな会話が繰り広げられている。忍者学校では、いつものように忍達が任務を受け、また任務の報告に訪れていた。
忍者学校から出てきた彼もその一人で、ここ数週間の長期任務の報告をしてきた所だ。長期任務明けということで、数日は休みを貰った帰り道。
「サスケ君」
桃色の長い髪を揺らしながら走ってきた女性。名前を呼ばれて振り替えれば、見慣れた姿が視界に映る。
「サクラか」
「任務から帰ってきたのね」
「あぁ。さっき報告に行ってきた所だ」
彼女は、かつて第七班として一緒に三人一組を組んでいた仲間。もう一人のメンバー、ナルトを含めて現在は全員上忍。第七班のメンバーで任務をすることはなくなった。
といっても、同じ里の忍同士。一緒に任務に赴くことも度々ある。勿論、七班のメンバーが揃うことも稀にだがある。
「任務、お疲れ様」
「お前も終わったのか?」
「私は今日は休みよ」
そこまで会話をして、互いにこの後は予定がないことを悟る。サスケは任務帰りであり、サクラは彼の帰りを待っていた所なのだから。
とりあえず立ち話をしているのも、ということで歩き始める。どちらともなく歩調を合わせるのは、長年の付き合いからだろう。
「今回もナルトと一緒だったの?」
「いい加減、別々になっても良いと思うんだがな」
その言葉で、やはり二人が同じ任務に当たっていたのだとサクラも分かる。ナルトとサスケは、実力もほぼ互角でコンビネーションも良く、更には属性の相性など色々良いということで、同じ班になることが多い。同じ班になった頃こそいがみ合っていたが、なんだかんだで良きライバルなのだ。
「そういえば、次の任務の話は綱手様から聞いた?」
「今さっきな」
「またサスケ君、ナルトと一緒ね」
今回の任務報告の際に、サスケは次の任務についても連絡を受けた。任務の内容は本来他言するものではなく、詳しい内容は本人達にしか知らされない。
それならば、何故サクラがそれを知っているのか。答えは簡単だ。
「だが、お前も行くんだろ?」
サスケが尋ねれば、サクラは「えぇ」と頷いた。そう、次の任務はかつての七班のメンバーに言い渡された物なのだ。
「久し振りに三人一緒の任務ね。カカシ先生は居ないけど」
「オレとナルトはいつものことだが、お前とは久しいな」
サクラが笑顔を見せれば、つられるようにサスケも笑みを溢す。やはり、一番始めに組んだ三人一組の仲間は、他の同期メンバーよりも思い入れがある。それは、誰にしても同じことなのだろう。何かあった時に頼るのは、大概元チームメイトだ。
今回はカカシは居ないとはいえ、いずれまた一緒の任務になることもあるだろう。今となっては、同じ里の上忍同士なのだから。
「お前の活躍、期待している」
「そんなこと言っても、ナルトやサスケ君が片付けちゃうんじゃないかしら?」
「五代目直伝の医療忍術と怪力があるだろ?」
それに対して「そんなことないないわよ」とサクラは返したが、どちらも立派な武器である。里でも実力者である三人が一緒に組むことになっているのだから、任務内容は簡単なものではない。けれどこんな風に話せるのは、お互いに実力を認め信頼しているからだ。
「あ、そうだ。サスケ君に渡したい物があったの」
そう言って、手元の紙袋から何かを取り出す。出てきたのは、綺麗にラッピングがされた箱。
「サスケ君、任務に行ってたから渡せなかったの。バレンタイン」
「そういえばそんな時期だったな」
関心がないような口振りは、実際に関心がないからだ。甘い物が嫌いな上に好んで人と関わらないサスケにとって、バレンタインは喜ばしいイベントではない。誰とも知らない女性達から好きでもない物を沢山貰って何が嬉しいんだ、とはサスケの談。ナルトからすれば、せっかくの好意を無駄にするのは良くない、とのことだがサスケの姿勢は昔から変わらない。
だが、そんなサスケでもサクラからのチョコレートだけは毎年受け取っている。彼女の作る物は甘さも控えられていて、サスケにも食べやすいのだ。大切な仲間だからというのもあるが、実は他にも理由があったりする。
「今年は流石に沢山の子にアタックされることはなかったんじゃない?」
「まぁな。里に戻ってから幾つかは渡されたが」
その発言を聞いて、やはりサスケはモテるんだなとサクラは思う。それこそ忍者学校時代から見てきたから知っているのだが、どうしても渡したいと思う人は毎年居るらしい。
しかし、そこでサクラは疑問を抱いた。里に帰ってきてから渡されたなら、今、そのプレゼントを持っているはずなのだ。だが、サスケは何も持っていないし、忍具ポーチに入れているとも思えない。それならば、プレゼントはどこに消えてしまったのだろうか。
「でも、サスケ君。貰ったプレゼントは?」
気になったなら本人に聞くのが一番早い。直接尋ねてみれば、サスケは口の端を持ち上げながら翠の瞳を見つめた。
「今貰ったと思うが?」
「え? でも他の子のは……」
「オレが今年貰ったのはこれだけだ」
はっきり言い切られた言葉を理解するまでに、暫しの時間を要した。そして、その意味を理解すると、サクラの頬がほんのりとピンクに染まった。
「えっと、でも、他の子のは良かったの?」
「知らない奴から貰っても困る。第一、お前のはオレが欲しいと思ったから貰っただけだ」
普段は到底聞くことの出来ない台詞。それも、バレンタインというイベントに乗便してみただけのこと。
サクラは恥ずかしさから視線を逸らしていたが、暫くして漆黒の瞳を見据えて笑顔を見せた。
「それじゃぁ、お返しは期待しても良いの?」
そう問うてみると、肯定の言葉が返ってくる。それを聞いて、サクラは嬉しくなる。ホワイトデーがいつも以上に待ち遠しい。こんな風に言われたのは初めてなのだ。
「楽しみにしているわね」
「あぁ」
さて、ホワイトデーにはどんな贈り物が貰えるのだろうか。一体どんな一日になるのだろうか。
それはまたのお話。
fin