期末テストも終わり、一学期も終了となる。そんな今日は終業式。明日からは待ちに待った夏休みが始まる。
色んな科目の宿題が配られ、担任の話を聞き終えればホームルームも終了だ。チャイムの音がしたかと思えば、所々でやっと夏休みだなんて声が飛び交っている。また二学期に、といった挨拶をしながら次々に教室を出ていく生徒達。
そんな中、ある生徒は机でのんびりと過ごしていた。
おめでとう、ありがとう
放課後になりざわざわとしている廊下を歩いて行く。教師に呼ばれて職員室に行き、先程漸く解放されたところだ。この間、生徒会で集まった時に終業式の放課後に来て欲しいと呼ばれていたし、何の用かは大体予想が付いていた。あまり時間が掛かることもなく、現在は一時になるよりも前だ。
「本当に待ってたのか」
教室に戻るなり見つけた姿に、思わずそう呟いた。どうやら本人に聞こえていたようで、窓の外を見ていた瞳がドアの方へと向けられた。
「そりゃ、待ってるって言ったしよ」
「先に帰って良いと言ったと思うんだが」
「まぁ別に良いじゃねぇか」
そんなやり取りをしながら、サスケは自分の席まで戻ると荷物を鞄にまとめる。それを確認しながら、シカマルも机の横に掛けていた鞄を手にするとゆっくりと立ち上がった。どちらともなく帰ろうと切り出すと、下駄箱に降りて靴を履きかえると並んで帰り道を歩く。
二人はクラスメイトであり、もう長年の付き合いになる。というのも、家が近所で昔からの幼馴染なのだ。オマケにクラスも一緒になることが多いのだから不思議である。
「明日から夏休みだけど、お前は何か予定あるのか?」
クラスでも最近頻繁に話題になっていたソレを尋ねてみれば、案の定「特にない」という答えがきた。人混みを好まないこの幼馴染なのだから、その答えは予想通りであった。
逆に「お前は?」と返された問いには「めんどくせーし」とこちらも案の定の答えを出す。面倒くさがりの幼馴染がこう答えるだろうというのも、やはり予想通りである。
「でもよ、アイツ等が夏休みは海に行くとか言ってたぜ」
「……それはオレも強制参加なのか」
アイツ等というのが誰を指しているのかは簡単だ。いつも一緒に居る奴等のことを言っているのだろう。一緒に居る、と言っても向こうから話しかけてくるばかりなのだが。それも何年も続けば周りから見ても、なんだかんだで本人達からしても一緒に居るメンバーであることは間違いない。
「そこまでは聞いてねぇけど、多分そうじゃねぇの? いつもそうだし」
そう、これは今に始まったことではない。いつも勝手に今日はどこに行こうと言い出しては、強制参加という形になっているのだ。お前等だけで行って来い、と言っても大勢の方が楽しいとか何かと理由を付けては参加する羽目になる。
けれど、何度もそんなことが続けばサスケやシカマルも強制参加させられることは諦めている。人混みが好きではなかったり面倒だと言っても、こうして過ごす時間は嫌いではない。だから結局は付き合っているのだろう。
「海に行くのは良いが、他のことは大丈夫なんだろうな」
「いや、大丈夫ではねぇだろ。毎年言っても最後は集まるんだしよ」
「何気にお前もやっていないだろ」
人のことを言えないだろと含ませれば、なんとかなってるから良いだろうと返される。確かに、宿題は終わっていれば問題ない訳なのだが。夏休みになって時々一緒に宿題をやったりするものの最終日にも残っていることが殆どだ。
先程からのアイツ等と纏められているキバやナルトなんかは、最終日まで殆ど手付かずで見せて欲しいと毎年訪ねて来る。それに合わせてシカマルもやってきて文句を言いつつもサスケは手を貸している。シカマルはやっていないだけなので自分のを解きながら教えたり、サスケの方は教えるか貸すかのどちらかだ。
「それより、お前今日暇か?」
夏休みに入ってからのことは置いておくとして、今日これからの予定を聞く。サスケは少し考えるようにしながらも、すぐに特に予定はないと答える。それを確認すると、シカマルはポケットから携帯を取り出して何やらやっている。
「じゃぁとりあえず昼飯食って、そのままアイツ等と合流な」
「……もうどこかに行く話になっているのか」
呆れたような口調に、そんなところだとシカマルは話す。まだ今日は夏休み前日だというのに、こんな感じだから宿題が終わらないんだろうなとサスケは思う。それ以外にも勉強が嫌いだから等といった理由があることは分かっているけれど。
終業式というだけあって今日は半日だけで下校だ。遊びに行くには丁度良いのかもしれない。けれど夏休みに入れば朝から遊ぼうという話が出てくるのだろう。もう夏休みになるのだから、それからの方が時間も長くて遊びやすいのではないかと思う。
何を考えているのかが伝わったのか、シカマルは「一応言っておくけど」と前置きをして話を続ける。
「今日はそういうのとは違うからな」
違う、と言われても何がどう違うのか分からない。そもそもアイツ等が出掛けようという時に、遊びたい以外に何かあるのだろうか。サスケは思考を巡らせるものの、なかなか答えが見つからない。
そんなサスケの様子を見ながら、シカマルは小さく溜め息を一つ零す。何が言いたいんだという視線を向けられて、だからと声を上げる。
「お前の誕生日だから、みんなで祝おうって話になったんだよ」
これだけ言えば流石に理解出来るだろう。言い切ればサスケはぽかんとした表情を見せた。さっきの態度からしてもそうだろうと思っていたけれど、やっぱりなとシカマルは思っていた。
「本当、自分の誕生日を覚えてねぇよな」
「別に覚えておく必要はない」
「そんなこともねぇだろ。お前が生まれた大事な日なんだから」
毎回自分の誕生日を忘れている幼馴染。小さい頃は毎年覚えていたのになと言えば、そういう年齢だったからだと言われる。幼い頃というのは自分の誕生日を祝って貰えるのが嬉しくてはしゃいでいるものだ。今となっては、そうやって祝われたいと思う歳でもなく自然に意識しないものとなり忘れていたといったのだろう。
クラスメイトの中には、自分の誕生日を盛大に主張している人も居たりするけれど、それはそれ。少なくともサスケは誕生日を特に気にしていない為に、こんなやり取りを何年も繰り返している。
「誕生日おめでと、サスケ」
それから伝えられるお祝いの言葉。真っ直ぐに向けられる視線に、ついふいと横に顔を逸らしてお礼を述べる。なんだかんだいっても、祝われるのは悪くない。少なからず嬉しいものなのだ。
「後で皆で祝うけど、やっぱ早く言っておきたくてな」
「アイツ等は誕生日とかより遊びたいんじゃないか」
「それもあるだろうけど、大事な友達の誕生日だから祝いたいんだと思うぜ」
集まって祝いの言葉を伝えて。それから皆でいつものように遊ぶことになるのだろうけれど、それでも今回の一番の目的は誕生日を祝うこと。その為に、終業式の後に遊ぼうということになったのだ。考えてみれば、いつもこの日は午後から集まっているような気がする。それも日付的に夏休みに入る直前で、半日の日に当たることが多いからだろう。
「多分夕方には解散だろうけど、その後少し付き合って欲しいんだけどよ」
それがどういう意味なのか。今度はもうはっきりと分かる。何せ、先程誕生日だと教えられたばかりなのだから。
「あぁ」
短く了承の返事をして、小さく笑みを浮かべる。同じように微笑みを返す二人の間に流れる空気は温かい。明日でもなく今日、他の人達と別れた後で付き合って欲しいと話すのは誕生日を祝いたいから。皆で一緒に祝うけれど、大切な、特別な人だから個人的にもちゃんと祝いたい。そういうことなのだ。
それから聞こえてきた電子音に再び携帯を開くと、その画面をそのまま相手に向ける。表示されているのは例のクラスメイトの名前であり、残っていた為に下校が遅れた二人への催促。
「とりあえず適当に昼飯でも食うか?」
「そうだな」
もう他のメンバーは集まったから早くしろという内容だ。そんなことを言われても仕方ないだろうとは思うが、それも誕生日を祝いたいからという理由なら良いだろうか。このメールの向こうでは、付き合いの長いいつものメンバーが賑やかにやっているのだろう。そう思うと、こうして仲間と遊ぶのも悪くない。
青い空の下を並んで歩いて行く先には、クラスメイトという名の仲間達のもと。皆で一緒に今日という日をお祝いしよう。
そして、その後には大切な幼馴染と一緒の時間を過ごす。
おめでとう。ありがとう。
誕生日という日に目一杯の気持ちを伝えよう。
お祝いと感謝と、全ての気持ちを。
fin