静かな夜、見上げた空には無数の星が輝いている。ぴゅうと風が通り過ぎた風を気持ち良いと思うくらいにはお酒が入っているらしい。
 季節は冬、もうすぐ年の変わる十二月の終わり。今日は忘年会をしようと言った同期メンバーの提案により、みんなで居酒屋に集まって飲んでいた。集まったのは同期メンバーだけでなく、リーやサイといった年齢の近い人達が集まれるだけ集まった。


(星が綺麗だなぁ)


 ぼんやりと空を眺めながら、ヒナタは里の中心地から外れた道を家へと向かって歩いていた。ちょっと遠回りをしているのは、少し酔いを醒まそうかと風に当たりたい気分だったからだ。
 忘年会では久し振りに多くの仲間が集まり、みんなでお酒を飲みながら色々な話をして盛り上がった。最近はなかなかみんなで集まることは出来ないけれど、こうして集まれば昔と変わらずに過ごせる。そんな仲間がいるということは素敵なことだろう。


(今日は楽しかったな)


 数時間ほど飲んだ後、別れ際には次は新年会だなんてもう年明けの話になっていた。新年会なんて言っても、結局はみんなで集まって飲みたいだけである。けれど、おそらくその新年会にも多くの仲間達が参加することになるのだろう。ヒナタもきっとその一人だ。


(今度は、ナルト君も来られると良いな……)


 今回、同期をはじめとしたメンバーが集まった忘年会が開かれたのだが、そこにナルトの姿はなかった。理由は単純で、ナルトは現在任務で里を離れているのだ。同期でいえば、同じく任務で里にいないサスケもこの忘年会には参加していない。二人共いつ里に戻ってくるのか分からないことから、今回は彼等を除いて忘年会を開くことになったのだ。
 次に集まる新年会は年が明けてから。その頃にはナルトも里に戻っているはずだ。また別の任務が入ってしまったら仕方がないが、その時はナルトも一緒に飲めたら良いなと思う。みんなの飲むのも楽しいけれど、やっぱり好きな人とも一緒に飲みたいと思ってしまうのだ。


(ナルト君、いつ帰ってくるんだろう)


 暫く任務で里を離れるという話は聞いたけれど、具体的にどれくらい掛かるかは聞いていない。勿論、任務なのだから詳しく教えられないのは分かっている。でも多分年明け前には帰ってくるという話は出発前にナルト本人から聞いていた。多少前後はするだろうが、当初の予定通りに進んでいると考えればもうそろそろ戻ってくるのだろうか。


(…………やっぱり、ナルト君にも会いたかったな)


 ふと、そんなことを考えてしまって頭を横に振る。任務だから仕方がないと分かっているというのに、お酒が入っているせいだろうか。ついそんなことを思ってしまった。
 年明け前には戻って来れると思うから一緒に初詣に行こうと誘ってくれた、それだけで十分幸せだというのに。長年の恋が実ったところにお酒が入って、ちょっとばかり欲が出てしまったのだろうか。こんなんじゃ駄目だよね、と気持ちを入れ替えて一歩。足を踏み出そうとした時だった。


「ヒナタ!!」


 突然聞こえてきた自分を呼ぶ声にヒナタは驚いて振り返る。聞き慣れたその声の先には、小さい頃からずっと見ていた金色。


「ナ、ナルト君……!?」


 驚きながらもその名を口にするか否かのところでナルトはこちらに駆け寄ってきた。あっという間に距離を縮めて目の前までやってきたナルトは足を止めると、はあはあと肩で呼吸をしながらも息を整えているようだった。
 もしかして、ここへ来るまでもずっと走ってきたのだろうか。それよりも、彼は今任務に出ているはずではないのかと頭の中で色々な疑問がぐるぐると回る。


「えっと……その、ナルト君。任務は……?」

「さっき、終わらせて帰って来たとこだってばよ」


 漸く息が整ったらしいナルトは顔を上げて笑う。その笑顔にヒナタはほんのりと自分の顔に熱が集まるのを感じる。とりあえず「お疲れ様」と労いの言葉を掛ければ、おうと碧眼は優しく細められた。
 そうか、ナルトはもう帰って来たのかとヒナタも少しずつ状況を理解する。冷静に考えれば、里にいるということは任務が終わったということだ。しかしまさか、明日でもなく帰って来たその日の夜に会えるとは思いもしなかった。


「あ、ごめんね。ナルト君、いつ戻ってくるか分からなかったから、今日みんなで忘年会しちゃったんだ」

「あー良いって。オレもいつ帰れるか分かんなかったしな」


 一応ナルトもその話は今回の任務に出る前に聞いていた。出来れば参加したいとは思っていたけれど、どれくらいかかるか分からないからみんなでやってくれと話したのもナルトだ。わざわざヒナタが謝るようなことではないとナルトは言う。


「それより、今日ってまだ二十七日だよな?」


 唐突なナルトの問いにヒナタはクエッションマークを浮かべながらも頷いた。ここには時計がないから正確な時間は分からないけれど、居酒屋を出た時間からしてまだ日付は越えていないはずだ。そう考えれば、今日はまだ二十七日ということになる。
 それを聞いたナルトははあと息を吐きながら「良かった」と安堵の声を上げた。言葉の意味が分からないヒナタは先程と変わらずに疑問符を頭上に浮かべていたが、碧の瞳は真っ直ぐにヒナタを見つめると。


「誕生日おめでとう、ヒナタ」


 そう言って、ヒナタの大好きな笑顔を浮かべた。


「えっ……!?」

「だって今日、お前の誕生日だろ? だから急いで任務終わらせて帰って来たんだってばよ」


 ナルトの言う通り、十二月二十七日である今日はヒナタの誕生日だ。忘年会がこの日に重なったのはたまたまだったが、その忘年会でも「そういえば今日ってヒナタの誕生日よね」という一言でみんなからお祝いの言葉をもらった。けれど、ナルトにまで自分の誕生日を祝ってもらえるなんて思わなかった。しかも、そのために急いで任務を終わらせてきたなんて。


「あ、ありがとう、ナルト君」

「へへ、間に合って良かったってばよ」


 だから日付を確認したのかと、ここで漸く先程のナルトの問いの理由をヒナタも理解した。正しい時刻は分からないけれど、もしも仮に今が日付を越えていたとして。それでも自分達のとってはまだ二十七日ならそれで良いのではないかと思った。
 だって、この日のためにと急いで戻って来てくれた彼が、任務を終えてすぐ夜の里を駆けて会いにきてくれたのだ。彼女の誕生日を祝うためだけに。そんな幸せな出来事があったら、細かいことなんてもうどうでも良くなってしまう。


「あ、これから帰るとこだったんだよな。送ってく」

「えっ、でもナルト君は、任務から帰って来たばかりで疲れてるんじゃ……」


 気持ちは嬉しいけれど、今日こうして会えただけでヒナタはとても幸せだった。このために急いで任務を終わらせたとも言っていたし、今日は家に帰ってゆっくり休んだ方が良いのではないか。
 そう思ったのだが、ナルトは大丈夫だと笑う。そんなナルトに「でも」と言い掛けて、それより先に僅かに視線を逸らしたナルトが口を開いた。


「それにその……久し振りに会ったしさ。もうちょっと、一緒にいたいんだってばよ」


 だから、とほんのりと頬を赤くして言われたら断るなんて出来ない。それどころか、ナルトのそれが移ってしまって「う、うん」と頷いた彼女の頬もまた赤く染まっていた。
 それから並んで歩き始めた二人は、お互いに相手の方を向いてはタイミングがばっちり合ってしまって同時に顔を逸らしたり。しながらもそっとぶつかった手はそのまま握り合って。そうして顔を合わせて小さく笑い合い、のんびりと話をしながらゆっくりと歩くのだった。








(走って君に会いに来た)