「サクラちゃん!」


 キラキラと金色の髪が揺れる。大きく手を振りながらこちらに掛けて来るのは、下忍時代のチームメイトであるうずまきナルト。あっという間にサクラの前までやってくると「今日はもう任務ないよな?」と確認した。
 彼等が下忍になってから数年。二人は緑のベストを羽織、上忍として活躍していた。その中で、サクラは担当上忍として部下を受け持つようになっていた。今日も勿論任務はあったが、それも既に終わり丁度報告も済ませたところだ。ここにやってきたということはナルトもそれを見越して来たのだろう。念の為といった具合に確認された問いにサクラは肯定を返した。


「今報告をしてきたところよ。どうかしたの?」

「良かった。なら、これから一緒に来て欲しいところがあるんだけど」


 来て欲しいところ? とクエッションマークを浮かべると、それは行ってからのお楽しみだとナルトは笑った。どこに行くのかは見当もつかないけれど、この後は特に予定もない。「分かったわ」とサクラが頷くと「それじゃあ行くってばよ!」と彼女の左手を掴んでナルトは走り出す。いきなり手を引かれて「ちょっと、ナルト」と驚きの声を上げれば、ナルトは振り返ってみんなが待っているからとだけ伝えてその足を進める。
 みんな、という単語にサクラの疑問が更に増える。間違いなく木ノ葉の仲間達のことを指しているのだろうけれど、それにしたってこれだけでは誰なのか特定など出来ない。そもそも何をする為にどこ場所に向かっているのかも分からないのだ。これだけの情報で理解する方が難しい。尤も、ナルトはそれを隠そうとしているからそれ以上のことを口にしない訳だが。


「もうすぐだってばよ」


 里内を走り抜けた頃、ナルトはそう言った。里の外れまでやって来たけれど、ここに一体何があるのか。その答えは、次の瞬間に明らかとなった。


「サクラ、遅いわよー!」

「あ、サクラちゃん。任務終わったんだね」


 森を抜けて視界が開けた瞬間。瞳に映ったのは同期のメンバーと、満開の桜の花。ヒラヒラと桜の花弁が舞い散る下でいのとヒナタが声を掛ける。その周りで他の仲間達がお弁当やら飲み物やらを広げて腰を下ろしている。状況から察するに、お花見というのがピッタリだろうか。
 予想外の光景に目を丸くするサクラの背をナルトはそっと押す。そのまま皆が集まっているシートまで行けば、いのが「ちょっと、いつまでそこに立ってるつもりなのよ」とサクラを自分の隣に座らせた。サクラが座るのを確認して、ナルトも適当に空いている場所へと腰を下ろす。


「え、皆どうしたの? お花見をする約束とかしてたっけ?」

「もう何寝ぼけてるのよ。今日集まったのはお花見じゃないわよ」


 状況を呑み込めていないサクラにいのが突っ込むと、周りのメンバーも同意だと言いたげに首を縦に振った。
 だが、サクラにはそれ以外の目的が思いつかなかった。桜の花の下に同期の面子が集まっているとなれば真っ先に思いつくそれを否定されてしまい、他に何かあったかと思考を巡らせる。そんなサクラの様子に、助け船を出したのはシカマル。


「お花見みたいになってんのは、たまたま今年は桜の開花が早かったからだぜ」

「そうそう。それでどうせならここにしようって話になったんだよな」


 まるでお花見のような状況になっているのは、例年よりも桜の開花が早かった為だ。元よりこの場所に集まる予定ではなかったのだが、せっかく桜の花が咲いているのならそちらにしようという話になり今に至っているとキバが補足した。
 とはいえ、サクラからしてみればお花見ではないということとその理由を理解したに過ぎない。それならばどうして皆がここに集まっているのかに対するヒントはほぼないに等しい。いや、ある意味ではこの状況こそが最大のヒントなのだが時期が時期なのだからお花見という先入観にとらわれてしまうのも無理はない。それを見かねてヒントを出したのは彼女の元チームメイト達。


「今日は三月二十八日だろ?」

「元々その日に集まるつもりだったんだってばよ」


 その日というのは当然三月二十八日を指している。今日が三月二十八日だからこそ、このメンバーは集まっているのだ。ここまで言えば、流石にサクラだってその意味に気が付く。
 三月二十八日。その数字が意味するもの。今日が何の日か漸く気が付いたらしいサクラに周りは微笑む。やっと気が付いたかと言いたげな視線に、恥ずかしいやら嬉しいやらの感情が混ざり合う。だって、今日、三月二十八日に集まった理由は、サクラの誕生日を祝う為だと気が付いてしまったのだ。


「せっかくアンタの為に集まったのに主役が遅いから待ちくたびれたわよ」

「サクラも着たことだし、もうお弁当食べても良いよね」

「おいおい、あと少しくらい待てよ」


 上からいのにチョウジ、シカマル。下忍になった頃に第十班として三人一組を組んでいたメンバーだ。いのとは忍者学校時代から仲が良い。同じ人を好きになったことでライバルとしてぶつかり合っていたこともあったけれど、昔から変わらない大切な友人の一人である。


「これで全員揃ったんだしよ、そろそろ始めようぜ」

「キバ、こういうものには順序というものがある」

「ウッセーなシノ。細かいことは良いんだよ。こういうのは楽しんでこそだろ」

「え、えっと、二人共落ち着いて」


 こちらは下忍時代、第八班として任務を行っていたメンバー達。言い争いとまではいかないけれど、そんな雰囲気を出していた二人に慌てるヒナタ。昔から変わらないメンバー達に思わず笑みが零れる。
 そして、一度視線を交えた後に桃色に視線を向けたのはかつて第七班のチームメイトである二人。


「サクラ」

「サクラちゃん!」


 揃って名前を呼んだのを合図に、続けられた言葉はこの場に居る全員で。


『誕生日おめでとう!』


 今日と云う日に伝えるべきその言葉を贈る。笑顔で伝えられたお祝いの言葉に、サクラも笑顔で「ありがとう」と返す。
 誕生日のその言葉を伝え終えると次の瞬間にはチョウジが早くお弁当を食べようと促す。それなら飲み物も分けるかとペットボトルを開け、そっちのお皿を取ってと声が飛ぶ。昔から変わらないメンバーに、思わず笑みが零れる。


「ほらサクラ。さっさと食べないとなくなるわよ」


 適当に取り分けられた皿を受け取りながらサクラは感謝を述べた。なんだかんだで世話を焼いてくれる幼馴染に、よく全員が都合をつけられたわねと気になっていたことを尋ねてみる。忍者学校時代から一緒にやってきた仲間達だが、ここに集まっているメンバーは皆今は上忍だ。これだけの人数が全員集めれる機会なんてそうそうないだろう。
 そう思って尋ねれば、ああそれはねと同期メンバー全員が集まることになった経緯を教えてくれた。


「ナルトとサスケ君が、アンタの誕生日だからってみんなに声を掛けたのよ。ほら、最近忙しそうだったじゃない?」


 言われてみれば、ここのところは任務などが忙しく皆に会う機会もなかったと思い出す。だから、息抜きになるようにみんなで集まろうということになったらしい。
 当然、全員が非番だった訳ではない。任務がある人も居たけれど、偶然にも長期任務で里を離れている人も居なかった。その為、任務が終わった後の夕方か夜ぐらいに集まることで纏まったのだ。サクラに連絡をしなかったのは、サプライズにしたかったからだろう。

 それにしても、あの二人が一緒になって同期のメンバーに声を掛けていたとは。なんだかんだで仲良いわよねアンタ達と言われて、それはそっちも同じでしょと返した。三人一組を結成した当初はどの班も色々あったのだろうけれど、今でも抜群のコンビネーションを見せられるのはやはり一緒に班を組んでいた仲間達だ。
 ふと視線を移せば、また何やら言い争いをしているらしい二人の姿が見える。いつになっても変わらないが、あれでいて里でも有数の実力者であり今も尚同じ任務に赴くことの多い二人なのだ。周りもまたやっている程度の認識であえて止めようとはしない。けれど。


「もう、二人共そのくらいにしなさいよ」

「サクラちゃん、でもさ」

「でもじゃないわよ」


 サクラが注意する隣でサスケがその通りだという視線を向ければ、元はと言えばとまたナルトが声を上げる。そしてまたサクラに注意をされる。変わらないやり取りを繰り返して、思わず三人で笑ってしまった。
 それから、サクラは二人に今日はありがとうと口にした。今日は二人が皆に声を掛けてくれたんでしょ、と。すると二人は一瞬驚いたような表情をした後、すぐにそれは当然だと話した。サクラは二人にとって第七班という大切なチームメイトで有り、木ノ葉の大切な仲間。誕生日を祝うのなんて当たり前だろうと二人は言う。
 そんな二人に、サクラも自分が祝う側の立場だったら同じことを言っただろうと考えて「そうね」と微笑んだ。続けて、二人の誕生日は私が祝うからと約束をする。サクラの言葉にサスケは短く「あぁ」とだけ答え、ナルトは「楽しみにしてるってばよ!」と言ってニカッと笑った。


「おいナルト、飲み物なくなりそうなんだけど」

「なんでそれをオレに言うんだってばよ」

「そりゃお前が主催者だからだろ。買ってくるだけなんだからすぐだろ」

「それならサスケだって同じだろ!」

「じゃあ、ナルトとサスケで行って来れば?」

「どうしてそうなる。ナルト一人で充分だろ」

「あ、サスケ! だったら全員でじゃんけんだってばよ!」


 キバの一言から始めり気が付けばじゃんけん大会だ。ナルトが影分身でも使えば楽だし早いじゃんという意見は無視され、とにかく始めるってばよという声でじゃんけんをする。
 結局、負けたのはナルトでついでに食べ物も買ってこいよと追加される。次は負けないからななんて言いながら走って行ったナルトに、次も行く必要がないように買って来いよと話す。彼等は今日も変わらずに元気にやっているようだ。


 三月二十八日。今日と云う日をお祝いして皆で楽しく過ごそう。
 わいわいと騒ぎながら笑い合って、楽しい一日に。







大切な仲間の誕生日を祝おう。