オレ達が今、好きな人
「何してんの?」
ひょいと後ろから覗き込むと、ナルトの手元には忍具の数々が並べられている。どうやら忍具の手入れをしていたらしい。クナイに手裏剣、起爆札に煙玉。忍である二人には馴染みのある物ばかり。
その中でナルトが手にしていたのは練習用のクナイ。練習用といっているがちゃんと実践でも使える。それならどうしてこんな言い方をしているのかというと、これは忍者学校に入った頃に全員に配られた物だからである。
「忍具の手入れかと思ったけど、懐かしい物まであるわね」
「オレも最初は忍具の手入れをしてたんだけど、整理してたら偶然出てきたんだってばよ」
忍者学校の中庭にある的にひたすら投げていたあの頃。早く一人前の忍者になる為に多くの生徒がそれで練習したものだ。授業ではイルカの見本に合わせて順番に的当てをやった記憶もある。その時の思い出にあまり良いものはないが、それでもこれが大切な物であることに変わりはない。
「アンタ、いつもサスケ君と張り合ってたわよね。まぁ、全然相手にならなかったけど」
思い出したくないところを突かれてナルトはうぐっと言葉に詰まる。あの時は調子が悪かったんだってばよ、と出来る限りの反論をしてみるが適当に流されて終わった。一度や二度ならまだしも、いつものことだったのだからそれが二人の実力差だったというのは明白である。
そんな二人も、今ではこの里で有数の実力者である。十年も前、忍者学校生だった時にはまさかこの二人がそれほどの忍になるとは誰も思わなかっただろう。サスケの方はうちはの生き残りとして忍者学校でもトップの成績だったからまだしも、ナルトはドベで卒業試験さえ危なかったくらいだ。それが下忍になり任務を重ね、いつの間にか二人して里のトップになっていた。忍者学校時代からすれば考えられないが、下忍になってからの成長ぶりを見れば納得かもしれない。
「そういや、あの頃はいのってばサスケのことばっかりだったよな」
「何言ってんのよ。アンタだって人のこと言えないでしょー?」
あの頃は、いのはサスケが好きだった。いのの親友でありナルトと同じチームメイトだったサクラもサスケを好いていた。この二人に限らず、同期の女の子達にサスケは人気だった。サスケのことで二人が喧嘩をするなんてものも同期の面々は見慣れていたくらいだ。
一方、ナルトはそのサクラのことが好きだった。しかしサクラはサスケのことが好きで全く相手にされていなかったのが現実だ。チームメイトとしてはなんだかんだで上手くやっていたし、今も同じ仲間として親しい間柄である。それはいのとサスケも同じようなもの。
「まぁ、今はアンタ一筋だから安心しなさいよ」
そう言ったいのにナルトは心配はしていないと返した。けれど、そこはオレの方が愛しているとか何かないのなんて無茶を言われてしまった。確かにどちらも昔は違う人を好きだったが、今はお互いのことが好きだということくらい分かり切っているのだ。気持ちは伝えているから今ここで言うことでもないと思ったのだが、そういう問題ではないらしい。乙女心とは複雑だとナルトは内心で思う。
「だけどさ、オレ達がこういう関係になるなんて数年前までは思いもしなかったってばよ」
「そりゃ私もアンタも好きな人が違ったからね。っていうか、いつまでこの話するのよ」
すぐ隣に恋人が居るというのに。そんなニュアンスを含めれば、ただの思い出話だってばよとナルトは笑った。そして懐かしいそのクナイを仕舞い、広げてあった任務も一つずつポーチへと入れていく。
数分も経たない内に、さっきまで並んでいた忍具は綺麗に片付けられた。それからナルトはいのの方へと体を向けると、ニカッと笑って。
「昔は昔だからな。今はオレもいの一筋だってばよ!」
先程は文句を言われたそれを今度は正しく言う。
いきなりのナルトの発言に、いのはほんのりと頬を朱で染めながら「そうじゃなくちゃ困るわよ」とだけ返して視線を僅かに逸らした。これだから天然は、なんて思いながらそれもナルトの良いところでもあるかと思って思考を中断する。その代わりに、こんな美人捕まえたんだから幸せにしなさいよーとだけ言っておく。おう、と元気よく返事がくる辺りがナルトらしい。
「ところで、また任務にでも行くの?」
「今回は短期任務だってばよ。明日からサスケと一緒に行ってくる」
「本当、アンタとサスケ君が組むことって多いわね」
術の相性や二人のコンビネーション、色々な面を含めて一緒に組むことが多いのだ。下忍になり七班として同じチームになって以降、中忍になった時も上忍である今も比較的同じ任務に就くことが多い。それこそ昔は顔を合わせれば喧嘩ばかりだったが、今はお互い助け合って上手くやっている。
「でもそれなら早く終わりそうね」
「一応予定では一週間だな。いのは?」
「私はいつも通り医療忍者の仕事をしたり任務をしたりよ」
上忍になったいのは医療忍者でもある。時には医療忍者として木ノ葉病院で仕事をし、また医療忍者として任務に赴くこともある。勿論、それ以外の任務に就くことも多々。よく国外への任務へ行くことがあるナルトよりは里に居ることの方が多いかもしれない。
とはいえ、ナルトだっていつも国外へ行っている訳でもない。里内での任務に就くことも当然あるし、下忍の頃のチームメイトと一緒になることもあれば二人が同じ任務に就くことだってある。今回は短期任務で国外まで行くけれど、この前の任務は里周辺まで行く程度だった。
「あ、そうだ! こないだキバに会った時にたまにはみんなで飲まないかって言ってたってばよ」
「そういえば最近会ってないわね。良いんじゃない?」
何人かで集まることは良くあるのだが、全員が揃うのはあまりない。今ではみんな上忍なのだから当たり前といえばそうなのだが、たまには仲間達で集まりたいという話である。
確か前に集まった時はそれぞれ任務が終わった後で焼き肉Qに直接集合した。同期であるメンバーと一期上のリー達も交えてみんなで騒いだものだ。
「日にちとか決まったらまた教えてよ。予定が合えば参加するわ」
「じゃあ今度キバに会った時にでも伝えておくってばよ」
「よろしくね」
いつになるかは分からないが、他の同期達も答えは同じだろう。中には面倒だと言い出しそうな者も居るが、そこは強制参加である。面倒だと言っても集まるのが嫌という訳ではないことくらい分かっているのだ。全員が集まれるかどうかは分からないが、出来るだけみんなが揃うように計画を立てるのだろう。
こういう時、誰がどの分担をするかはもう決まっている。まずナルトやキバがどうかと周りに声を掛ける。当日の幹事はしっかりしている女性陣に回ることが多い。酔い潰れた時には誰が連れて行くかなんていうのもこれまで何度も飲んでいる内に自然と決まってしまった。
「今日は休みだし、私が夕飯作るわよ」
「マジで!? 楽しみだってばよ!」
何か食べたい物があるかと尋ねると予想通りラーメンなんて返って来て、それは一人の時にいつも食べてるでしょと突っ込んだ。冗談だってばよと笑っているが、本当に冗談なのか。思わず溜め息を零したところで「いのの作る料理なら何だって良いってばよ」と、おそらく初めから答えるつもりだっただろう言葉が続けられた。
「何でもってそれも困るけど、そうね。なら楽しみにしててよ」
「おう!」
さて、夕飯は何にしようか。
冷蔵庫を開けながら今日のメニューを考える。どうせなら凝った物でも作ってみようかなと思い、鍋を火にかけるのだった。
fin