最初に会ったのは、高校生になったばかりの入学式。初めての場所に新しい友達。中学から一緒だった友達と同じクラスになった時は嬉しくて、担任はどんな人だろうかと話していた。教室に担任が入ってくれば、女子は騒ぎ始める。それも、担任のが男でありその容姿といったらこれ以上ないくらいに整っていた。まだ若い先生で、第一印象は顔が整ってて綺麗だとか思ったけどすぐにその考えは変わり嫌いという部類になっていた。
それから、生徒と教師として過ごしていく日々。いつの間にか、嫌いという部類からそうでもないという考え方に変わっていた。更に日が経つと、その考えがまた変わっていて。気付いたら、好きになっていた。そのまま気持ちを伝えても、全くといっていいほど相手にはしてくれなかった。何度も続けていると、呆れたのか諦めたのか「お前が大人になったら考えてやるよ」と投げやりのような言葉を聞いた。
卒業式を迎え、就職をせずに大学へと進学した。高校に入学した時はそんなつもりはなかったけれど、考えが変わったのだ。大学を受験するにあたって、いつもはしない勉強もしてなんとか合格することが出来た。
あれから、どれくらいの時が経ったのか。此処、木ノ葉高校の新たな年がこれから始まる。
大人になった約束
新年度になり、新しい生徒を迎えた。生徒だけでなく、新しい教師もやってきた。その中には、今年から教師になる新採用の人の姿も見られた。
入学式の日。一緒に行われた新任式。どちらも何事もなく終了し、それぞれの教室での簡単なHRが終わると生徒は下校をした。
誰も居なくなった教室をそろそろ出ようかと片付けていた時、教室のドアが開いた。そこに立っていたのは、今年からこの学校の教師になった、そして今年から教師という仕事についたという人の姿があった。
「教師になったのか」
疑問系で聞かないのは、もうそれが現実で分かっているから。目の前の新採用の教師をこのクラスの担任になった彼――サスケは知っている。知っているも何も、忘れるはずがない。この場に居る新しい教師というのは、サスケの教え子なのだから。
「ちゃんと言ったってばよ。進路を決める時に」
「そういえば、そうだったな」
この教え子というのは、サスケが新採用でこの学校に来た時の初めてのクラスの生徒だ。いつも五月蝿くて、テストは赤点ばかりで学年最下位なんていつもの事。いつだって前向きでクラスのムードメーカーのような彼は、サスケの事を嫌いだと言っていた。それは、サスケ自身も直接聞いていたのだから間違いではない。ついでにいうと、友達にもあの先生は気に入らないとか話していたのだ。
「もしかして、忘れたのかってばよ?」
「いや……。お前が本当に教師になると思ってなかっただけだ」
言えば「酷い」と返してきた。だけど、そう思っていたのは事実だ。高校三年生になって進路を考える時期、あまり進路は考えていなく適当に就職でもしようかと考えていた彼はある日突然教師になると言い出した。どうしてと尋ねてもなりたいと思ったからというような答えしか返ってこなかったのは覚えている。
生徒が進みたいと言った道に向かう手伝いをするのは教師だ。突然決めたとしても、その道に導くようにするのが普通である。だけど、今まで勉強を好まず赤点ばかり取っていた彼にはそれは楽な事ではなかった。それは、サスケも伝えたが諦めないといって勉強をした彼はなんとか大学を合格する事が出来た。それから先は知らないが、今この場に居るという事はあれから教師になるために勉強を続けてきたのだろう。
「それも、この学校に来たから驚いた。しかもその歳で」
教師になったとしても、どこの学校に行くかは分からない。彼がこの学校にくる事を今日の式で知ったわけではないが、それを知った時は教師になったという事とこの学校で働くという事の両方に驚いたのだ。まるで、自分からこの学校を選んだのではないかと思ってしまいそうだ。決してそんな事があるわけがないのだが。
「オレってば、先生と同じ歳で教師になったはずだってばよ。だからそこは驚く必要ないんじゃねぇ?」
「それはそうだが、あの成績だろ。教師になるとしてももっと後だと思ってた」
「さっきから酷いよな。相変わらずだけど」
「お前も変わってないようだな、ナルト」
サスケと同じ歳での採用というのは、教師になり始めてのクラスで彼――ナルトの担任をした時と同じという事だ。ナルトは一年生の担任になったので生徒とは八歳差。三年生とは六歳差でそこまでの差がなく教師の中でも当然若い方に入る。同じように、サスケはナルトが高校一年生の時の担任で今のナルトと同じ歳だったのだから二人の年齢差は八歳だ。
「でもさ、オレももう大人になったってばよ」
一呼吸おいてから話す。さっきとは少しだけ変わった声。それは、今までとは違う事を表している。教室の前に立っていたその足を、一歩ずつその教室へ、サスケの方に向かって歩く。ある程度の距離まで近づくと、そこで足を止めてその瞳を真っ直ぐに見る。
「あの時先生が言った事、覚えてる?」
あれはまだナルトがこの学校の生徒だった頃。最初は嫌いだと言い続けていたナルトの考えは、日が経つにつれて少しずつ変わっていった。ある時、その気持ちが恋愛感情というものに変わっている事に気付いた。それが信じられずに悩んでいた時期もあったが、その気持ちに偽りがない事は確かだった。
だから、ナルトはその気持ちをそのまま伝えた。ナルトの告白を聞いたサスケの答えはいつも決まって断わるというものだった。何度やっても変わらない結果。いつまでも告白するナルトには、サスケも呆れたのか諦めたのかある答えを返した。
「オレが大人になったら考えてくれるっていう話」
あの時、サスケがナルトに言ったのは「お前が大人になったら考えてやるよ」という返事だった。それもしつこいナルトに呆れたような諦めたからのような答えで投げやりのような言い方だった。
その言葉の裏には、大人になったからといってもいつ会えるかもこれから会えるかも分からない。それに、それだけ離れていればナルトのその気持ちも変わるだろうという考えがあってのものだ。とりあえず、その時をやり過ごすために言った事だといえばそういう事なのだ。
それを今。ナルトが持ち出してくるとは思わなかった。いや、少しはそんな気がしていた。ナルトが教師になってここまできた。
将来、教師になりたいと思ったのはサスケと出会ったからだと進路を決める時に聞いていた。それを実現させて再び出会う事になったのだから、考えになかったわけではない。もしかしたら、と思いながらそれが現実になったというわけだ。
「本気か? お前は自分が何を言っているのか、分かってるよな」
「当たり前だってばよ。そうじゃなきゃ、ずっと言い続けて同じ教師になってまでここに居ない」
揺るぎない瞳。嘘を言わない心。本当の気持ち。
ナルトには、一切偽りや嘘というものが見当たらない。いつでも真っ直ぐに自分の道を歩んで行く。それは、こういう場面においても変わらないという事だろうか。そんな事を考えながらナルトの事を見る。
正直、あの時はこんな事になるなどと予想はしていなかった。予想が出来るような話でもないが、ナルトの気持ちを受け入れる気はなかった。
それは、教師と生徒という立場上や同姓という事などの問題があったから。何度も告白されていくうちに、他の生徒とは違う見方をするようになってきていたのには自覚があった。けれど、それは出来ないと分かっているからこそ受け入れないまま断わり続けていた。
時は流れて、ナルトとサスケが出会ってから八年が経った。今は、教師と生徒の関係ではなく同じ職場の人間だ。あの時とは少し違った状況。少し状況が違った所で問題ならたくさんある。
だけど、何故か答えが出てしまう。それがいいとか悪いとか関係なしに。自分の気持ちから答えとなるべき言葉が見つかる。
「本当、変わってないな」
「あの時の話はなしとか言わねぇよな?」
なんだか心配そうに尋ねてくる様子を見て「いや」と否定する。どんなものだったとしても、一度言ってしまった事をなかった事には出来ないしするつもりはない。自分で言った事くらい責任は持つ。
見つかった答えをそのまま言うべきか、と悩む必要はない。本当ならば言うべきではないだろう。あの時と同じような結論を出すべきなのだろう。だけど、ナルトはその気持ちを変えずに今まで過ごしてきたと言う。それなのにまたあの答えを出すのは嫌だった。それが、一般的に見てどうであろうと今出てきた答えを変える気はなかった。
「オレの答えは、前から決まっていた」
そこまで言うと「ナルト」とその名を呼ぶ。自分の名前を呼ばれて、反射的に瞳をしっかりと見る。サスケも同じようにナルトの瞳を見ていた。互いが相手を真っ直ぐ見ると、あの時からずっと出ていた答えをやっと口にする。
「オレはお前が好きだ」
言葉に出来ずにいた言葉を、今にして伝えることが出来た。
その答えに、ナルトは一瞬驚いたような表情を見せたがすぐに嬉しそうな表情へと変わる。ずっと、あの時から抱いてきた思い。それがようやく相手に伝わったという嬉しさは、数えられるような大きさではない。今までにないくらい、今までで一番といってもいいようなくらいの嬉しさを感じる。
「ありがとう、先生。オレも先生が大好きだってばよ」
やっと実った恋。嬉しさを身体中で感じる。
それは、ナルトだけでなくサスケにしても同じ。今までは伝えてはいけないと、受け入れられないと言ってきたものがやっと結果となった。心に秘めていた思いをやっと伝える事の出来て、その気持ちを受け入れてもらえれば嬉しいというものだ。
ここまでくるのにかかった時間は長かった。だけど、その分これからの時間の一つ一つを大切にしていくだろう。
かつての教師と生徒。今は同じ教師という職場の同僚。そして、これからは新しく恋人という関係が追加される。
新しい生活。新しい道。
かつての約束は今、あの時と同じこの学校で。あの時の願いが、あの時の思いが一緒に叶えられたこの場所。これからの進む道に明るい光を探して。またこの場所からスタートする。
新たな一歩の始まり。
fin