「今日は、クリスマスだってばよ」
辺りは暗くなった夜。任務が終わった後、そのまま散歩ということで歩いて着いた場所がこの土手だった。空を見上げれば星の光が見える。里の方を見れば、カラフルな電気が光っているのが分かる。
それは、今日が十二月二十五日。クリスマスという日だからだ。
プレゼントは近くに
冬は暗くなる時間が早い。夏ならまだ少し明るいだろうという時間だが、今はもう真っ暗といっていいほどだ。季節が冬ということもあって、気温も低くはっきりいって寒い。そんなことを忍がいちいち気にしてなどいられないが。
数十分前に任務も終わり、ナルトとサスケはそのままこの場所へやってきた。最初からここに来るつもりはなく、散歩がてら話をしていたら偶然ついたようなものだ。
「クリスマスなんてキリストの誕生日だろ」
里を見渡せばどこもクリスマス一色。クリスマスというイベントはそれほど楽しみなものなのだ。
だけど、クリスマスというのは本来キリストの誕生日。それなのにどうしてこうも盛大に行われるのか不思議なものだ。キリストの信仰者でなくても誰もが楽しいイベントの一つとして考えている。サスケからすれば、キリストの誕生日なのだから何をするということもないだろうと思っているのだ。
「なんかさ、夢がねぇってばよ」
「夢もなにもあるかよ。クリスマスに」
キリストの誕生日といってもクリスマスはクリスマス。せっかくのイベントなのだから楽しむべきだと思うのはナルトの考えだ。そんなことを深く考えずに、楽しいのならそれでいいだろう。クリスマスというものを何もせずに過ごしてしまうのは勿体無いと思っている。
それはナルトだけでなく、殆どの人の考え方だ。だからといって、サスケの考えが間違っているわけではないが、そう考える人は少ないのだ。クリスマスがイベントの一つとして定着してしまっているのだからそれも仕方ない。
「どうせなら楽しんだ方がいいじゃん。せっかくなんだから」
楽しまなければ損をするとでも言いたげだ。イベントが好きなナルトだからこそそう思えるのだろう。あまりイベントが好きではないサスケからすれば、損することなどないのだ。どうしてそんな風に考えられるのかと疑問すら浮かんでしまう。
いくらそう言われても自分の考え方を変えるのは難しい。ナルトの言葉を否定するわけではないが、楽しむ必要がないことを言おうとすると、それよりも前にナルトが言葉を続けた。
「あのさ、プレゼントくれねぇ?」
突然すぎる言葉に言おうとしていたことも忘れてしまう。数時間前は一緒に任務していた相手に言うことだろうか。それもクリスマスに興味がないと言っている相手に向かって。どう考えてもおかしいだろうという発言に頭を悩ませる。
本当にコイツは…………。
一体何を考えているのだろうか。そう繋がるだろう心の内をサスケはそのまま口にした。
「馬鹿なこと言ってんじゃねぇよ。ウスラトンカチ」
「だって、クリスマスっていえばプレゼントだろ?」
確かにクリスマスといえばプレゼントだ。プレゼントなのだが、それをどうして今ここでこの相手に言うのだろうか。それが間違っているだろうと言っているのにこう返してくる。
ナルトはどういうつもりで言っているのだろうか。おそらく、サスケが興味がないなどということは関係ないのだろう。ただ、サスケからプレゼントが欲しいという思いだけで話しているのではないだろうか。
「なぁ、欲しいってばよ」
欲しいといわれても困るのだが、ナルトは諦めようとしない。元々、クリスマスなんて興味もなければ気にもしていなかった。里がクリスマス色に染まっているからこそ分かっているようなものだ。プレゼントを欲しいといわれてもあげるものなどないのだ。
「無理だ。プレゼントなんて用意してない」
はっきりと伝えてやれば分かるだろう。そう思って言ったのだが、ナルトは気にしている様子もない。それどころか、小さく笑みを浮かべているようだった。
何を考えているか分からない相手にサスケは内心で焦る。この様子からすると、何か考えがあるということが分かる。それが何かは分からないが、普通に考えられるようなことではない気がしてしまうのだ。予想は予想であって事実ではないのだが、そういうことは当ってしまうものなのだ。
「大丈夫だってばよ。勝手に貰うから」
そう言いきると、少しずつサスケに近づいていく。反射的に後ろへ下がってしまうものの、ナルトによって止められることとなった。
近づく距離に自然と目を瞑る。そのままナルトはサスケに軽い口付けをした。短い時間のはずなのに、なぜかそれよりも長く感じてしまう甘い口付け。そっと離れると瞑った目を開けてナルトの姿を瞳に映す。
「メリークリスマス」
へへっ、と笑うナルトの言葉につられて笑顔を返す。ナルトの行動には驚いたが、嫌だったわけじゃない。クリスマスプレゼントを勝手に貰うといって、勝手に貰ったという行動がこれだ。そして、それは貰うだけでなくサスケにプレゼントを贈るというものにもなっていた。
クリスマスを楽しむイベントの一つだと考えを改めたわけではないが、そう思っているナルトがサスケにも幸せをくれた。だから、こういうのもいいのかもしれないと思った。
クリスマス。
貴方が贈ってくれたプレゼントに、貴方が貰ったプレゼント。形に残らないものだけど、とても近くにあった一番のプレゼント。
幸せな時は今ここに。
fin