「今日は楽しかったってばよ」
オレンジ色に染まった道を並んで歩く。つい先程までは大勢の友達と一緒に居たのだが、それも一つ目の分かれ道で半分に。その次の分かれ道でまた減り。残ったのは二人だけ。
「良かったな」
「でもさ、まさかサスケがみんなに声掛けてくれたとは思わなかったってばよ」
お前、それ誰から聞いたんだよ。
眉間に皺を寄せた幼馴染に尋ねられ、秘密だと笑って誤魔化した。秘密なんて言っても、今日集まっていた誰かであることはまず間違いない。
そうなると考えられるのはある程度絞られるような気がするが、今それを知ったところでどうしようもない。サスケは溜め息を一つ吐いた。
授業が終わり放課後になると、今日空いてるよなと質問なのかそうでないような勢いで問われ、ナルトが肯定するなり決まりだとそのまま教室を後にした。いつものメンバーで向かった先は駅前のカラオケ。普段なら面倒だと参加を渋る面子も揃っており、珍しいなと話している間に大きなホールケーキが登場しその答えを知った。
今日は十月十日。ナルトの誕生日である。
だからこそ放課後になってすぐにみんなで学校を出たのだ。その時には何の説明もなかったのだが、サプライズにするのに話してしまっては意味がない。いつも五月蝿いくらいに自分の誕生日を主張しているナルトに気付かれないように、というのは難しいかとも思われたが意外とすんなり進めることが出来た。
「別にオレがアイツ等も誕生日くらい覚えてただろ。お前が五月蝿いからな」
「そんなに五月蝿くはしてねぇだろ!?」
「あれだけ主張しておいてよく言う」
十月に入るより少し前ぐらいだっただろうか。十月十日は自分の誕生日だと回しに散々主張していたのは。毎日とは言わないけれど、クラス全員がナルトの誕生日を覚えるくらいには主張していた。
実際、おめでとうの言葉は結構もらっていた。サスケや他の友人達も放課後より前にお祝いの言葉とジュース一本くらいのお祝いはした。だからこそ放課後にケーキを用意してちゃんと祝ってもらえるとは思われなかったのだろう。人数が人数だけに誕生日だからかと少なからず思っていたかもしれないけれど、主役が喜んでくれたのなら成功である。
「これでやっとサスケとも同い年だな」
もともと同じ学年の同い年なのだが、誕生日の話をしているのだろう。
とはいえ、七月生まれのサスケと十月生まれのナルトでは三ヶ月も差がない。けれど、三ヶ月程度はサスケの方が年上なのだ。たったそれだけの差で年上も年下もないのだが、確かにこれで本当に同い年になったわけだ。
「お前は何歳になっても中身が変わっていない気がするけどな」
「んなことねぇってばよ!」
幼馴染というだけあって二人の付き合いは長い。サスケからすればナルトは昔から何も変わっていない。勿論背は伸びたし、声も昔に比べれば幾分低くなっただろう。そういう体の成長とは別に、中身の方は大して変わっていないんじゃないかと思う。
それを言うのならお前だって変わってないだろとナルトは主張するが、適当に流されて終わってしまう。流石にそこから言い争いを始めるほど二人は幼くない。昔だったら言い争いに発展していたかもしれないが、これでも今は高校生なのだ。
「けどさ、実際そんなに変わるもんなのか?」
おそらくは先程の話題の続きだろう。時が流れればそれと共に成長くらいする。それは分かっているけれど、自分達が昔と比べてそれほど変わっているような気はしないとナルトは言いたいのだ。
そう聞かれたところでサスケも返答には困るのだが、変わったのかといわれれば少なからず変わった部分もあるだろう。だが、結局は同じ人間なのだ。当然だが変わっていない部分だってある。成長したかと思うことも時々あるとはいえ、昔から変わらないと思うことが多いのはそれだけ近い距離にいるからではないだろうか。
「どうだろうな。他の奴に聞いてみろ」
「キバとかに聞いたら絶対何も変わってないって言われるってばよ」
それなら変わっていないんだろうと言えば、適当過ぎると文句が返ってくる。今のクラスメイトでありよく一緒にいる友達とも付き合いは長いもので、かれこれ何年になるのだろうか。出会いは小学校だったのだから結構な年数だろう。
その中でもサスケとナルトは幼馴染なだけあってそれ以上に長い付き合いである。幼稚園よりも前、親同士が親しいこともあり正確には生まれた頃から一緒に遊んだりしていたらしい。そんな頃の記憶など二人ともないから分からないが、物心がついた頃から一緒にいたという記憶はある。
「それに、一番付き合いが長いのってサスケじゃん」
「オレが一番長いだけでアイツ等とも長い付き合いだろ」
「そうだけど、サスケに聞けるから聞いてるんだってばよ」
どうやらナルトはサスケに答えて欲しいらしい。だが、答えるとすればサスケも周りと同じで変わっていないと答える。まず中身は変わっていない気がすると言い出したのはサスケの方だ。わざわざ聞かずとも答えなど決まっている。
だが、それは幼馴染の距離から見た感想だ。こういうことは親に聞く方がナルトの欲しい答えは得られるのではないだろうか。それを口にはしないけれど。
「変わってないだろ。変わってたら毎回宿題を見せて欲しいなんて言わないと思うんだがな」
「そ、それはそれだってばよ! オレだってたまにはちゃんと…………」
やってくるのか? と聞かれて言葉に詰まってしまうあたり、そういうことなのだろう。自分でやれと言いながらも結局は見せてやるサスケにナルトは何度助けられたことか。授業の直前になって宿題をやっていないとノートを借り、長期休みの終わりが近づいたところで宿題が終わっていないからと家を訪ねてきたり。いい加減自分でやって欲しいものである。
時間がある時はノートを貸さずに教えてやるのだが、いつになったらナルトはちゃんと宿題をやるようになるのか。昔からずっとこれだが、今まではまだ同じ学校だったから良いもののこの先はどうなるのか。仮に二人が進学を選んで別の学校に進学をしたなら、いくらなんでも自分でやるようになるだろう。やらなければ困るのだが。
「騒がしいのも変わらないしな」
「そんなことねぇってばよ。オレよりキバの方がうるせーし」
「どっちも変わらねぇだろ」
その二人が騒がしいのはいつものことだ。逆に静かな方が心配されるかもしれない、というのは失礼かもしれないが強ち間違ってもいない。クラスでもムードメーカーのようなポジションにいるようなタイプなのだから。
絶対オレよりキバの方がと話すナルトに小さく笑みを浮かべる。気が付けば周りの景色は家の近所に変わっていた。家も近い二人だがそろそろ別れる時間だ。
「おい、ウスラトンカチ」
昔から変わらない呼び名の一つで呼ばれ、なんだってばよと振り返れば昔の面影はあるものの年相応に成長した幼馴染の姿を瞳が捉える。揺れる黒髪も何もあの頃のまま、変わらぬ蒼目に微笑む。
「誕生日おめでとう」
本日三回目の言葉。一回目は今朝会った時に。二回目はみんなと一緒にお祝いをした時に。そしてこれが三回目。
三回も言う必要があったのかといえば、正直一度言えば十分だろう。だが、それでもサスケは三度目のおめでとうを口にした。
それから小さな袋をナルトに向かって投げる。突然投げられたそれをしっかりとキャッチしたのを見届けて、じゃあなと自分の家の方向へとサスケは足を進めた。残されたナルトは幼馴染の後ろ姿を眺めながら、手の中に収まっている袋へと視線を落とす。それが何か、などと聞くのは野暮だろう。今日はナルトの誕生日なのだから。
「サスケ!」
まだ見えるところにある背中に向かって叫ぶ。その影が止まったのを見て、ナルトは目一杯の声で伝える。
「ありがとな!!」
そう言ったのを聞き届けると、サスケはまた歩き出した。それを見たナルトもまた家の方角へと歩き出す。
一回目はただお祝いの言葉を。二回目は仲間達と一緒にお祝いを。
そして三回目。友達として、幼馴染として、そして特別な人へのお祝いを紡ぐのだ。今日という日に感謝をして、この日に生まれてきた命に祝福を。
三回のおめでとう
今日は大切な人の誕生日
笑顔溢れる誕生日、彼はまた歳を一つ重ねるのだった