「七班、春野サクラ……うずまきナルト! それと……うちはサスケ」
忍者学校を卒業して下忍になる者の説明会が行われた。そこで班を発表され、担当上忍が誰なのかを知った。ちなみに担当上忍ははたけカカシという他国にまで名を知られている忍。
最初、三人はバラバラだった。ナルトは一人で独走、サクラはサスケのことしか眼中になく、サスケは個人プレー。チームワークという言葉なんて全く存在しなかった。けど、カカシの話を聞いてチームワークというものを知った。
それから徐々にチームワークは良くなり、それぞれの個性を生かしたチームプレイが出来るようにまでなった。いつしか七班の仲間というのは彼等にとって特別になっていた。
全てはあの日から始まった。そこからそれぞれが自分の道へと進んで行った。
先生という立場
かつては第七班と呼ばれていた四人。その四人は今、木ノ葉で有名な甘味処という店に集まっていた。
「それにしても、お前等がこんなに強くなるとはね」
カカシがまず最初に言ったのはそれだった。お前等というのは部下であったナルト達三人のことだ。三人全員が今では上忍となり、その中でもトップクラスの実力を持っている。ナルトとサスケに至っては他国に名前が知られているほどだ。
それほどまで成長した部下達は目の前にいる。実力だけでなく成長して身長も伸び、精神面でも強くなっている。あれから数年が経っているのだから当たり前といえばその通りだけれども。
「当然だってばよ! オレってばいずれ火影になる忍者だからな!!」
火影になる。それが小さい頃からナルトの夢見ていたものだ。
今はまだ火影ではないけれど、いつか本当にその夢は叶うのではないか。ナルトを知っている身近な人達はそう思っているはずだ。最初はそんな夢が叶うわけがないと思っていなかった人達が、今ではナルトの成長っぷりにいつの日か実現すると思うようになっていた。
「アンタ、相変わらずそればっかりよね」
「そりゃそうだってばよ。火影はオレの夢だから」
甘いあんみつを食べながら二人は話す。ナルトとサクラは甘い物が好きだ。甘い物の話で二人が盛り上がっていたことは何度もあった。お互い甘い物が好きという点で気が合うのだろう。
「お前が火影になれるかは分からないけどな」
「んだと! サスケ!!」
「やめなさいよ! 二人共!」
いつまで経っても変わらないんだから、とでも言うようにサクラが止めに入る。
ナルトとサスケは昔から何でもすぐに喧嘩する。年齢と共にその数は減っていったものの些細な事で喧嘩に発展することは変わらない。それでも互いを信頼している。彼らにとっては喧嘩も一つの表現方法かなにかなのかもしれない。
そんな昔と変わらない姿を見ると呆れてしまう。けど、どこか昔と同じようなところが残っているようで温かい感じもする。
「本当、お前等は喧嘩ばっかりだよね。仲が良いっていうの?」
言えばすぐに「良くない!」と返ってきた。だけど、周りから見れば仲がいいようにしか思えないのだろう。本人達もそう言ってはいるものの互いを信頼して実力も認めている。仲が悪いとは言い切れない。
それでもそんな風に言うのは、恥ずかしいからか認めたくないからか。どうなのかは本人達もはっきりしていないのかもしれない。
「あ、そうだ! カカシ先生、今度私達に部下が出来るのよ」
思い出したかのように、だけど本当はそれを言うつもりだったことをサクラが口に出す。それは数週間前に決まったことだった。
その言葉に「部下?」と繰り返せば「そう、下忍の部下」と答えられた。下忍の部下が出来るというのは新人下忍を持つということ。要するに担当上忍になるというわけだ。
「達ってことは、もしかして三人とも先生やるの?」
疑問に思ったことをそのまま口にすれば肯定が返ってくる。その返事にカカシは驚きを隠せなかった。
「でもナルトは火影になるとか言ってるし、サスケは子供あまり得意じゃないでしょ」
ナルトとサスケへ疑問を向ければ二人は顔を見合わせる。サクラの方に視線を向けてみれば自分達で答えなさいという視線が返ってきた。その視線に、まず最初にナルトが口を開いた。
「オレは火影になる男だけど、まだ綱手のバアちゃんが火影を続けるだろうし、担当上忍やるのも楽しそうだからやるんだってばよ」
それはナルトらしい答えだった。ナルトはサスケと違って子供が好きだ。道で困っている子供がいればすぐに助ける。そういうタイプなのだ。任務で子供と一緒に遊んだりするのも楽しそうにやる。子供からはその性格のせいかすぐに好かれるといった感じなのだ。
火影になる夢は夢としてあるようだが今はまだ五代目が里を治めている。次の火影を決めるのは先の話だろう。だから担当上忍をやってみたいと思ったのだ。
「ナルトらしいね。それじゃあ、サスケは?」
「別に……大した理由はねぇよ」
さっさと話を終わらせたいのか、サスケはそれだけを答えた。だが、それを聞いていたナルトが間に入ってくる。
「サスケはそう言ってるけど、本当はオレに負けたからだろ?」
「は? 馬鹿じゃねぇの。オレがいつお前に負けたんだよ」
「いつってこないだに決まってるってばよ」
「このウスラトンカチ。アレは違うだろうが」
「同じようなもんだってばよ」
喧嘩とまでいかないものの言い争いがまた始まる。その内容が掴めずにカカシは疑問を浮かべながらサクラに視線を向けてみれば、サクラはくすっと笑っていた。それからすぐにカカシの視線に気付くと、二人を余所に今度はサクラが説明を始める。
「サスケ君、元々やるつもりでもなかったんだけど誘ってみたらやってくれることになったの。その時にナルトが挑発、っていうか説得してた感じだったのよね」
隣で言い争いをしている二人を見ながらサクラはそう話した。どうしてこれだけのことも上手く言えないのか、なんて考えるだけ無駄だろう。今でもすぐに喧嘩をするような二人だ。この現状が全てを物語っている。
そんなサクラの説明でカカシは漸く納得した。それであのサスケも担当上忍をすることになったのかと。その時にどんな風に話していたかはその場にいなくても想像が出来た。最初はただ「楽しい」や「面白い」といった感じで誘っていたのだろう。だけどなかなかやると言わないサスケにナルトが「どうせ出来ないからやらないんだろ?」などと挑発するように誘ったのではないだろうか。隣の二人のやり取りをみながらそんな風に考える。
「それで三人でやるってわけか。ま、精々頑張りなさいよ」
応援するように三人に言う。けれど続けて「どんな部下がつくか分からないからね」などと言いながら三人を見る。それはまるでナルト達が大変な部下だったと言っているようだ。
実際、そう言っているのである。カカシは誰の担当になるかを聞いた時に大変なことになりそうだと思っていた。いざ担当上忍になってみてもやはり大変だった。今となっては最高のチームになったが、最初の頃はそんな風には全くといっていいほど言えなかったチームだ。
「カカシ先生、それってどういう意味だってばよ……」
「んー? そのまんまの意味だけど?」
「それって私達が迷惑のかかる部下だったみたいじゃない」
みたいではなく暗にそう言っているカカシの言葉。だがサクラの言葉に対して「そんな風には言ってないけど」と答えれば「本当に?」と疑問形で返される。それを本当だと肯定しても嘘じゃないかとまで言われてしまう始末。
あまりに疑われるものだから、そんなに信用が出来ないのだろうかと思ってしまう。だけど、七班で任務の時にいつも遅刻をしていたのだから仕方ないと言えばそうなのだろう。
「ま、本当に大変なのかはやってみるまで分からないだろうけど」
その言葉を聞くと、さっきまで嘘だの言っていた声が消えてなくなる。代わりにそんなこと分かっているという表情で三人はカカシの方を見た。
「へへっ! そんなこと、言われなくても分かってるってばよ!」
「カカシ先生よりいい先生になっちゃうかもしれないわね」
「アンタよりもまともにやるつもりだからな」
三人がそれぞれ言っているものの思っていることは同じなのだろう。口元に笑みを浮かべながらカカシの方を見ている。そんな様子を見てカカシも思わず笑みを浮かべる。
担当上忍。それは下忍の部下をもつ先生のようなもの。誰だって一番最初はその先生と一緒に任務をこなしていく。
三人にとって、カカシは良い先生だった。だからこそ今の三人があるのだ。沢山のことを教えてもらった。そのお蔭でここまで来る事が出来た。
今度はその三人が先生という立場。かつての先生だったカカシと同じ立場だ。
皆それぞれ性格も実力も違う。だけど、きっといい先生になるのではないだろうか。教えてもらったことを新しい下忍の部下に教えてながら。どんどん部下を成長させていくのだろう。
先生という立場。そこから始まる物語。
その物語はこれから幕を開けようとしている。
fin