チュンチュンと鳥が鳴いている。青い空の下を小鳥達が飛んで行く。今日も太陽は顔を覗かせ、一日の始まりをその光が教えてくれている。
幸せの時を刻んで
窓の隙間から光が差し込む。それから間もなく、携帯の音が鳴り響く。鳴り続く着メロに鬱陶しさを覚えながら、手を伸ばしてディスプレイを確認する。
そこに表示された名前に驚きが半分。残りの半分は納得してしまった。非常識な時間でも気にしない辺りが。
「今何時だと思ってるんだ、ウスラトンカチ」
名前ではない呼称を使う。けれど向こうは気にした様子はなく「よぉ、サスケ」なんて話掛けてくる。それに溜め息を一つ吐くと、サスケはさっさと用件言えと促す。
「それで、何の用だ」
「せっかく夏休みになったんだし、遊びに行こうぜ!」
それでこの時間か、とサスケは思う。普段は遅刻しそうなくらいに朝は弱いナルトだ。そんな彼がこんな朝早くに連絡を寄越すからには、何かがあるだろうとは思っていたけれど。今の言葉で納得出来た。
「遊びに行くって、どこに行くつもりだ。人混みは嫌だからな」
「そんなこと分かってるってばよ!」
混雑しているような場所を挙げれば断られるのは明白だ。それこそ他の奴を誘えと言われて終わってしまう。それでは、サスケと出掛けようとしているのに意味がない。だから、場所も初めから人混みを除いて選択している。
ならば、どこに行くのだろうか。その疑問をナルトにぶつけると「秘密だってばよ」と誤魔化される。言わない辺りに不信感を覚えるが、それに気付いたナルトは電話の向こうで笑う。
「細かいことは良いじゃん? だから早く準備して行くってばよ」
いつの間にか行くことに決まっていて、それにサスケはまた溜め息を溢す。人の意見を聞け、というのはナルト相手では無駄だろう。長年の付き合いでそう悟ると、仕方なくサスケは話を進めた。
「何時にどこ集合だ?」
「別に決めなくて良いってばよ」
「決めないでどうするんだ」
一体どうやって出掛けるつもりなのか。とうとう暑さにでもやられたか、と内心で思う。
しかし、次の瞬間には予想していなかった言葉が続けられた。
「オレってば、今サスケん家の前に居るし」
は、と思わず口から溢れた。
それから携帯を片手に玄関まで向かい、ガラッと扉を開けた。そこには見慣れた金髪。手に持っている携帯電話は今も通話中だ。
「何考えていやがる、このウスラトンカチ」
「サスケと出掛けたいなって、思っただけだってばよ」
電話越しと直接聞こえる声が重なる。不要となった携帯は、電源ボタンを押して閉じられた。
行動が唐突というか何というか。意外なことをしてくるのは、いつものことでもあるけれど。それにしたって、誰が予想出来ることなのか。否、誰であっても無理かもしれない。
「さっきも言ったが、何時だと思っている。せめて事前に連絡をしろ」
「だから今してたってばよ」
「そういうのは事前とは言わないだろ、ドベ」
どうして今ので事前と言えるのだろうか。事前いえば事前ではあるが、普通はもっと前に連絡をするだろう。ナルトらしいといえばそうなのだが、あまりにも唐突な行動はどうにかならないものか。それがナルトだということくらいサスケも理解しているけれど、それとこれとは別だ。
それでも少しは直す努力をしてくれないのだろうか、とサスケは思う。昔から言っているのだから無意味だと分かってもつい思ってしまう。そんなサスケを見て、ナルトは事前とは言えない今回の連絡の理由を声に出す。
「だって、仕方ないだろ。これでも色々考えてたんだってばよ」
「考えてたって、それだけ考えてこの時間に電話をして家まで来たのか」
「そうじゃなくて!」
サスケの言葉に否定の意を示すナルト。しかし、考えていたという単語で真っ先に連想されたのがそれだったのだ。他に連想されることといえば、出掛ける場所だろうか。だが、それを言ってみてもまた否定をされてしまう。
それならば、一体ナルトは何を言いたいのか。
尋ねれば、ナルトは一度青い瞳を逸らした。迷うように瞳が揺れる辺り、何と言おうか悩んでいるのだろう。暫く待ってみれば、ナルトはゆっくりと口を開いた。
「今日、誕生日だろ? だから、誕生日プレゼントどうしようかって悩んでたんだってばよ」
それを聞いて、サスケは今日が自分の誕生日であったことに気付いた。誕生日なんて大して気にしておらず、言われるまでは忘れていた。確かに今日は七月二十三日、十数年前の今日にサスケは生まれた。一年に一度だけの特別な日、誕生日であることに間違いはない。
サスケ自身は忘れていたが、ナルトはそれを覚えていて何か祝おうと考えていた。けれど、サスケが欲しがるようなものは思いつかなかった。悩んでいるうちにもどんどん日にちは過ぎていき、気が付けば誕生日前日になっていた。つい数時間前までは、誕生日プレゼントをどうしようかと考えていたのだ。
「プレゼントっていっても物ばっかじゃねーし、それで出掛けることにしたんだってばよ」
誕生日の贈り物に決まり事なんてない。それなら、物ではなく一緒に出掛けて楽しく過ごすのも一つではないだろうか。そう考えて、朝からサスケの家までやってきたのだ。どうせ出掛けるのなら、朝からの方が沢山の時間がある。だからこそこの時間に尋ねてきた訳だ。
ナルトの話を聞いて、漸く全ての辻褄が合った。つまり、サスケの誕生日をどう祝おうかと色々と考えて出掛けることに決め、その為に早朝の電話から今此処に居るということ。全てはサスケの誕生日だから、ということだ。
「こんな時間だと、やっぱ迷惑だったか……?」
「非常識な時間ではあるな。だが、起きていたから大丈夫だ」
先程までの会話からナルトが尋ねるが、サスケは大丈夫だと答える。実際に起きていたし、付き合いも長ければこんなことには慣れているのだ。
それに、今回はサスケの為に色々と悩んで決めてくれたことらしい。それなのに注意ばかりするのもと思い、今回はこれくらいにしておくことにする。その代わりに、別の言葉を口にする。
「ありがとな」
お礼の言葉を述べる。その言葉にナルトはニコッと笑みを浮かべる。そして、一番言いたかった言葉を伝える。
「誕生日おめでとう、サスケ!」
それを聞いて、サスケも微笑み返す。
それから出掛る準備をすると、二人で一緒にサスケの家を後にした。並んで足を進めて行く先には、思い出に残るような一日にする為のナルトの誕生日プレゼント。
君の生まれてきた大切な日。君の為に贈るプレゼント。
今日という日を思い出一杯の楽しく素敵な日にするために、朝から晩まで幸せの時を刻んで行こう。
fin