新しい養護教諭がきてから一ヶ月が経った。いつも休み時間になれば保健室の近くは女子が集まっていたのは最初の頃だけ。今となってはそんな風にする人も居ない。
 カッコイイから好きだと思っている人なら今も変わらずにいるだろう。けど、聞くことは聞いたし毎回そんな風にしていては迷惑以外の何でもない。お陰で今は静かな保健室に戻っている。








「結局、誰だと思う?」


 そう問ったのはナルト。今は丁度二時間目と三時間目の間の休み時間だ。近くの席でありいつも一緒に居る四人。その中でこの休み時間の一番最初に話し始めたのはナルトだった。それがこの質問。


「誰って、何がだよ」


 突然言われた言葉に疑問をもったキバが言葉を返す。さっきのナルトの言葉には大事な部分が抜けている。主語と述語という言葉がなければ分かるものも分からない。その勉強は随分前に国語で習ったはずだが、ナルトがそんな事を覚えていたりはしないだろう。


「だから! カカシ先生の彼女!!」


 それを聞いた三人の反応はそれぞれ。キバは「そういえばそうだよな」と言って一緒に調べる気満々の様子。シカマルは「まだそんな事考えてんのかよ……メンドクセー奴」と言って呆れている。サスケは表には一切出さないものの心の中では「コイツ、まだ気にしてたのかよ」と呆れる気持ちと別の気持ちが入り混じっていた。まさに三者三様である。


「やっぱ気になるじゃん」

「あのカカシ先生だもんな」


 いつか騒がれていた話題をまた持ち出して改めて調べる気満々の二人はどんどん話を進めている。一方でシカマルは「本当にメンドクセー奴等」などと思っている。そして、サスケに至っては「こいつ等と居ると頭が痛くなりそうだ」と考えてしまっているほどだった。ナルトとキバの二人にはサスケがそんな事を思っているなんて全く思っていないだろう。シカマルが面倒くさがっているのはいつもの事なので気にもしないのだろうが。
 結局、この休み時間はずっとこの話だった。話しているのはナルトとキバの二人が主で、サスケとシカマルは殆ど話しに参加していなかっただろう。

 三時間目の授業も始まって十分ほど経過した。抜き打ちとはいえそれほどの量でもないプリントとクラスの殆どが格闘している。そんな中、サスケは机にうつ伏せになっていた。


「サスケ、どうかしたのか?」


 そう問い掛けたのはシカマル。隣の席という事もあってすぐにその様子に気付いたのだろう。サスケがそのような事をあまりしない事は知っている。あまりというよりサスケは絶対にしないといっても間違いではないだろう。プリントがいくら早く終わってもそんな事は全然しないのだ。だからこそ余計気になったのかもしれない。


「別に…………」

「そう言うけどよぉ、体調悪いんじゃねぇの?」


 体調が悪いという言葉に少しだけ反応を見せた。けど「そんな事ない」とだけ返す。
 だが、その僅かな反応をシカマルは見逃してはいなかった。それに加えて今のこの現状だ。それだけで十分体調が悪いという事が分かるだろう。
 おそらくサスケ自身も本当は分かっている。分かっているけど言わないだけなのだ。その事も分かったシカマルは先生にサスケの事を伝えた。その言葉を聞いてすぐにサスケは否定した。だけど、先生もさっきまで見ていていつもと違うような気がしていたのか保健室へ行くようにと言われてしまった。
 そこまで言われてはもう仕方がない。もう何を言っても意味はないだろう。そう思ったサスケは諦めて保健室に行く事にした。



□ □ □



「あのさ、サスケ君。聞きたい事があるんだけど」


 保健室に来た時にここに来た理由は説明した。その後はこうして休んでいるわけだが、何かを考えているらしいものの話そうという気はないようなのだ。休みに来て話すのもどうかと思うのかもしれないけれど、カカシはそんな様子を見て不思議に思ったのだ。


「何かあったの?」


 カカシがそう問うとサスケはカカシの方を見た。そして横になっていた体を起こしてベットに座った。


「アンタ、今でも好きな人がどうとか言われてるんだぜ」


 たった一言。だけど、それだけで言いたい事は大体予想が出来た。
 以前にも似たような話をサスケからされた事があったのだ。その時はカカシに好きな人が出来たという噂が流れていた時だった。一体どうしてそんな噂が流れているのかという話をサスケとしたという記憶はそれ程前のものではない。二週間くらい前の事だっただろうか。あまり時が経っていない事もあり、その時の事はまだ良く覚えている。


「でも、最近はなくなったみたいだったけど? 女の子達に色々聞かれる事もなくなったしさ」

「だが、実際にナルトとキバが話してた」


 女子に聞かれる事もなくなった。だから自然とそんな噂もなくなっているものだと思った。それはカカシだけでなく、サスケも同じだった。
 けど、ナルトはどうしても知りたいのか忘れてはいなかったのだ。答えを知るまでは忘れないのかもしれない。ついでに言えば、それほどまで気になっていたのはナルトだけのようなものだ。キバは話を始めたら気になるから一緒に話していたが、ナルトの言葉がなければ追求しようともしなかっただろう。


「あの二人ね……。それなら可能性がないとは言い切れないかもしれないかな」


 此処に来てからもう一ヶ月が経つ。全員とは言わないものの生徒の事を少しずつ分かってきている。ナルトやキバには直接この事に聞かれた事もあった。体育の授業や部活で怪我をした時にもきたり、最初の頃はどんな先生なのかと保健室に来た事もあった。挨拶をした教室でも少し会話をしたりもした。
 そんな事もあってか、カカシも二人の事は分かっているようだ。もしかしたら、サスケと同じクラスで一緒に居るという事もそれに関係あるのかもしれない。


「そんな呑気な事言ってていいのかよ……」

「まず気付かれる事はないだろうし、気付かれてもオレが何とかするよ。それに、サスケだってオレの事を信じてくれるって言ったでしょ? だから絶対大丈夫だよ」


 それを聞いて、以前のカカシの言葉を思い出す。あの時も同じ事を言っていた。そして、サスケ自身がその言葉を信じると言った。どこにそんな自信があるのか。何を根拠に言っているのか。それは分からなかった。今も、以前もそれは同じだ。
 けど、そんなカカシの言葉には信じられる何かがある。ただそれだけで、根拠はないのかもしれないけれどカカシのその言葉を信じることにしたのだ。


「アンタのその言葉、オレは信じて良いんだよな……?」

「当たり前でしょ。もしかして、疑うっていうの?」

「そうじゃねぇよ」


 お互いに根拠はないと言っても間違いではない。何か明白な根拠はない。けれども、お互い何かあるのだ。言葉で説明しろといっても説明できるものではない。そんな何かがある。だからお互いに信じる事が出来る。


「オレはアンタを信じる。それはオレがアンタの事を好きな限り、いつまでも変わらねぇよ」


 たとえどんな事があったとしても。それがとても大変な事だとしても。貴方を信じるという事は決して変わらない。貴方が好きだから。明確な根拠はないけれど。説明できるようなものもないけれど。
 きっと大丈夫。いつまでも貴方を信じています。










fin




「azuma」の東由恵様に差し上げたものです。こっそり付き合っている二人です。