「あれ、もうこっちの皿なくなったってばよ」

「なら追加で良いんじゃね? 何か適当に頼めよ」


 すみません、と声を掛ければ近くに居た店員が近寄り注文を聞いている。メニューを片手にいくつか注文している横で「あまり注文しすぎるなよ」と忠告だけすれば「大丈夫だってばよ」と友人は少し多めの料理を頼んだ。チョウジも居るんだしどうせすぐになくなるだろうというのは分からなくもないが、それでもなくなってから頼めば良いだろうとこの場に居る何人かは思った。
 ここ、木ノ葉隠れの里の焼肉Qに集まっているのはかつて新人九人と呼ばれていたメンバー。忍者学校を卒業して初めの中忍試験でシカマルが中忍になり、その次の試験で半分が中忍へと昇格した。そのまた次の試験では残りの全員も合格し、あれから数年。今となっては全員が上忍に名を連ねている。


「そういえばナルト、この前また長期任務に行ってたのよね」

「またサスケ君とでしょー? 本当、よく一緒になるわね」

「オレ等は技の相性も良いからな!」

「ナルト、お前足引っ張ったりしてるんじゃねぇの?」


 そんなことないってばよと否定したナルトは、むしろオレの大活躍でなんて話し始めたところで同じ任務に就いていたサスケに「今回も真っ先に突っ込んで行ったな」と言われてしまい周りにまたかよと笑われた。別に突っ込んでいなんかないと言っても、じゃあそういうことにしておくかと返されて終わりだ。全く理不尽である。
 そういうキバは最近どうなんだと、今度はナルトから近況を尋ねる。ここに集まっているメンバーは任務を共にすることはあれど、なかなか全員が集まることはない。だからこその飲み会である。

 みんなが飲んだり食べたりしている横で、鉄板に肉や野菜を乗せていく姿を見つける。各々適当に乗せてはいるが、この人数で更に話に夢中になれば忘れがちになってしまう。こういう場では誰かしらがそういう役を担ってくれている。


「ヒナタ、お前は食べないのか」


 その役を担っていたヒナタに声を掛けると「え」と驚きながらも、次の瞬間には「私も食べてるよ」と答えられた。けれどさっきから見ている限り、肉を焼いたりするばかりであまり食べていないような気がする。そういえば、彼女は初めの内からこうして肉を焼いてくれていたなと思い出す。


「どうせ割り勘になるんだから食べないと損だぞ」

「ありがとう。でも、ちゃんと食べてるから平気だよ」


 心配させないようにで言っている訳ではないだろう。彼女が元からそういう性格なだけだ。見えないところで彼女が気を利かせてくれているからこそ、周りもこうして過ごしやすくなっているのだろう。気付いていない人も居るかもしれないが、ヒナタは感謝をして貰いたくてやっている訳でもないからその辺は構わないと思っている。
 だが、ここに集まったからには楽しまなければ損だろう。お金も全員で割り勘なのだ。かくいうサスケも乗り気でこの場に集まった訳ではないが、それなりに話にも参加したりして過ごしている。みんなで集まっているのだから裏方にばかり回っていても仕方がない。


「とりあえず貸せ。あのウスラトンカチに混ざれとは言わないが、この場に居るなら楽しんだらどうだ」


 言いながらサスケはヒナタの手元にあったトングを取って肉や野菜を適当に乗せる。いいよと否定するヒナタをオレはもう食べたから気にするなとやんわり断り、近くにあった焼けている肉を皿に取り分けた。
 本当に気にしなくて良いんだけどと思いつつ、せっかくの厚意を無駄にするのも悪い気がして「ありがとう」とお礼を言ってヒナタも食べ始める。


「でも、サスケ君がそんなこと言うなんて、ちょっと意外かも」


 肉をタレに付けて食べながらヒナタが言えば、サスケは何のことだと疑問符を浮かべながら聞き返す。すると先程のサスケが言ったこと、楽しんだらという言葉が意外だったとのことだ。
 確かに、あまりそういったことは言わないなと自分の発言を思い出してサスケ自身思う。ヒナタも楽しんではいるのだろうが、もっと話したいこととかもあるのではないかと思っただけである。サスケは大して話すこともなく適当にシカマルと話したりナルトに話題を振られたら答える程度だが、ヒナタの場合はサクラやいのといった女同士で盛り上がることもあるだろう。


「別にオレはアイツ等と話すこともないからな」

「そうなの? あ、ナルト君とはよく任務も一緒なんだっけ」

「好きでなってはいないがな」


 出来ることなら別の奴と組みたい。そう話すのがナルトにも聞こえていたのか、向こうの席から「なんだってばよ」と声が飛んでくる。それに「何でもねぇよウスラトンカチ」とだけ返せばまた何か言っているような気がしたがスルーを決め込む。
 どうせキバ辺りに「こんなところでも喧嘩する気かよ」とでも笑われているだろう。いくら昔は喧嘩ばかりだったとはいえ、流石にこんな場所で喧嘩する気はどちらにもない。ナルトが上手いこと終わらせて次の話に切り替えるだろう。


「だけど、二人共有名だよね」

「そんなことないだろ。他の奴等の話も聞くしな」


 全員が上忍である今、なかなか一緒の任務に就くことはなくとも噂くらいは耳にする機会がある。そこで同期のメンバーの活躍を知るのだ。みんなそれぞれ頑張っているようで、この前の任務ではという切り出しからよく知る名前が出てくることは少なくない。
 それだけ全員が修行を重ね強くなったということだろう。そんな仲間の噂を聞くとそれなら自分もと思い、更に精進を重ねる。そうやってお互い磨き合っているのだ。


「お前もこの前の任務で活躍したらしいな」

「あ、あれは私じゃなくて、他のみんなが頑張ってくれたからだよ」

「そうだとしても、そこにお前の力も必要だったんだろ」


 大切なのはチームワークだ。
 かつてサスケの所属していた第七班の担当上忍が一番初めの演習で教えてくれた言葉。仲間とのチームワークも大切で、ヒナタの言うようにみんなで頑張ったから成功した任務でもあるのだろう。けれど、それはつまりヒナタを含めたみんなの力が合わさったからこそだ。本人は謙遜しているが、ヒナタのその力は仲間にとっては大きなものだったことだろう。
 そう話したサスケに、ヒナタはほんのりと頬を朱に染めて小さな声で「ありがとう」と言った。恥ずかしがり屋なところは昔から変わっていない。


「それより、オレとばかり話してて良いのか。つまらないだろ」

「そんなことないよ! サスケ君とは、あまり話す機会がないから」


 こういう時でないとなかなか話せない。というのは、単純に任務で一緒になることも少ないからだ。こういう機会でもなければゆっくり話をすることもない。だからこそ、今はサスケと話をしている。
 けれど、他のメンバーにもあまり一緒に組まない者も居るだろう。普段それなりに会う機会があっても話をするのだ。要はいつものメンバーで集まって騒ぎたいだけ。好きなようにすれば良いのである。それならヒナタがサスケと話をしても良いことになるのだが、本人がそうしたいというのならサスケも他の奴と話せとは言わない。だが。


「ナルトは良いのか」


 ヒナタがナルトのことを好きだということは、ナルト本人を除けば同期はみんな知っているようなものだ。同じくサクラやいのがサスケを好きだということも。むしろそちらの方が目に見えて分かっていただけに、ライバル視して対立するのを見るなりまたかと思っていたレベルだ。
 内気なヒナタはサクラやいののように積極的なアプローチはなかったが、影からナルトを応援していたことくらいは知っている。そのナルトとも最近は会って居ないだろうに良いのだろうか。話そうとしても恥ずかしいのかもしれないけれど。


「えっと、ナルト君とはさっき少し話したよ」

「そうなのか。だが良いのか」

「うん。ナルト君も他のみんなと会うのも久し振りだろうから」


 色んな人と話を出来るように遠慮をしたということだろうか。それも彼女らしいけれど、もう少し積極的になっても良いとは思う。このままではなかなか進展もしないだろう。忍者学校時代から考えてもあまり進展しているとは言い難かったりするが。


(ヒナタが良いならそれで良いとは思うがな)


 誰かさんが適当に頼んだ大量の肉を焼きながらこっそり思う。一途にその人を追い掛け続けているのだ。それだけの思いがあってそうしているのなら、それはヒナタの自由であり誰かが口を挟むことでもない。
 その方がこっちにとっても良い、というのは更に心の中で続けた言葉である。決して表に出したりはしないけれど、この年にもなればそれなりに思うところがあるということだ。


「何か飲み物でも頼むか」

「え? あ、そうだね」


 テーブルの上のコップを見回して言えば、ヒナタも同じく空になったコップを見つけて頷く。まだそんなに空けてはいないだろうが、潰れるまで飲まれるのは正直勘弁して欲しい。毎度のように言っているけれど、結局誰かしらが潰れるというのは珍しくない光景だ。今日はそうならないようにと無理だろうと思いつつ祈っておく。
 もう空になってるけど何か要るかと尋ねれば、それじゃあと酒の名前が幾つか飛び出す。それを店員に伝えながら、飲み物が運ばれてくるまでは近くのお冷を喉に通す。


「まぁ頑張れよ」

「あ、ありがとう」


 話の流れでそう声を掛けるとヒナタも短くお礼を述べる。好きな人と結ばれればやはりそれは幸せなことだろう。けれど、実はここに少し誤解が生まれていることを彼女だけは知っている。


(ナルト君は憧れなんだけどなぁ……)


 昔は確かに恋だった。同時に憧れでもあった。
 けれど今は憧れの人であり好きな人ではない。きっと周りもそれは知らないだろう。彼女自身、いつからそれが変わったのかなんて覚えていない。

 でも、いつかこの恋が叶う日が来たら。

 それはやっぱり嬉しいのだろう。今はまだこの気持ちを伝えられないけれど、いつの日か。ちゃんと伝えられるようになれたら。







(今私が好きなのは――――)