任務のない久し振りの休み。上忍にもなれば、下忍の頃と比べて任務の量も増えている。そもそも、ランク自体が上がっているのだ。だから長期任務も入ってきたりと下忍の頃とは比べ物にならないくらいの大変さだ。
それでも任務は絶対だ。ここ二週間は連日で任務が続いていた。一日で終わる高ランク任務もあれば、数日かかるものもあった。その為か、今日は五代目が休暇をくれた。此処最近では本当に久し振りの休みだ。
少しでも一緒に過ごしたい
「サスケー! 朝だってばよ!」
早朝、とは言えないかもしれないが朝早くからナルトはサスケを起こす。朝から元気一杯で勢い良くサスケを起こそうとしている。
一方のサスケはといえば、ナルトとは正反対といってもいいだろう。ナルトのように元気一杯だとはどうやっても言えない。
「眠い…………」
ナルトの声を聞いて、答えたのはその一言。起きる気は全くといってもいいほどないだろう。
それも仕方がない。昨日までは任務続きの日々だったのだ。休む時間はあったのだが、それはあまりにも少なかった。そんな日々が二週間ほど続いた。
だからこそ今日は五代目から休暇を貰ったのだ。休暇は体を休める為のもの。連日の任務で疲れているサスケにとっては、まず睡眠がとりたいのだ。何をするのも体力が必要となるからだ。
しかし、ナルトは全くそんなことは考えてなどいない。その証拠に、テキパキとサスケの周りで行動を起こしている。
「いつまでも寝てるのはいけないって言ったのはサスケだってばよ」
確かに、サスケはそう言ったことがある。いつまでも寝ようとしているナルトに対して「いつまでも寝てるな」と言った。
その日、ナルトには任務があった。当然サスケにも任務がある。いつまでも寝ていられたら食事も片付かない上にナルトだって任務に遅刻する事になる。担当上忍があの“はたけカカシ”だといっても遅刻はいけない事だ。だからこそ、それはいけないと注意した。
だが、今はそれとは訳が違う。あの時はお互い任務もあったのだからいつまでも寝てたら駄目だということだ。任務がない日ならいつまで経っても寝ていていいかと言われていいとは言い切れないが、駄目だというわけではない。
それほどまで寝ているのはどうかと思うのも一理あるが、問題はないのだから平気だ。何よりサスケは任務で疲れているから寝ていたいのだ。少しでも体力を回復させる為に。体を休める事も忍にとっては大切なことだ。
「それとこれでは訳が違う」
「んなの言い訳だってばよ!」
実際に言い訳ではない。けれど、ナルトからしてみれば言い訳にしか聞こえないというものだ。それも仕方ないといえばそうなのだ。あれだけ言ったのに、言った本人がいくら任務の疲れがあるといえど説明なしでは分かってもらえないだろう。説明すれば、少しは分かってくれるかもしれないがしないのでは分かったものではない。
そうはいってもナルトはサスケと一緒に暮らしている。ナルトはまだ下忍だから上忍のサスケと一緒の任務をする事はない。だけど、上忍の任務がどれほど大変かというのは分かっている。これだけ近くでサスケを見ているのだから、その様子で分かるのだ。簡単に説明すればきっと分かってもらえるだろう。
だが、サスケはあえて説明しようと思っていなかった。それには、ある理由があった。
「あぁ、分かった。だから騒ぐな」
「騒いでねぇってばよ! じゃぁさ、オレってば先行くから早く来いよ」
それだけを言ってナルトは行ってしまう。すると、あっという間に部屋の中は静かになった。それをナルトにいえばまた文句を言うのは分かっているのであえて言わないが。
さっき起きると言ったのだから、寝ていたいという気持ちもあるが起きる事にする。今日は任務がないのだからいつものように忍装束は着ない。適当に着替えてナルトの居るリビングへと行く。
そこでは、ナルトがもう朝食の準備をしていた。サスケがリビング行くと、すぐに飲み物を入れ始める。そんな様子を見ながらサスケは先に席に着いた。ナルトは自分とサスケの分の飲み物を入れると席に着いて二人共朝食を食べ始めた。
「おい、ナルト」
声をかければすぐにサスケを見て「何だってばよ?」と返してくる。それを聞いてサスケが「どこか行くか」と問うとこれもまたすぐに「行く!」と返してきた。今度はさっきまで手を動かしていて朝食を食べていたのも止まっている。ナルトにとってはそれだけ大きなことなのだ。ここ最近は一緒に居られる時間も少なかった。それは、全てサスケの任務の関係だったのだから仕方ないこと。
仕方ないといっても、一緒に居たかったというのは事実なのだ。その気持ちはいつだって変わらない。ナルトにとって、唯一の家族という存在であるのはサスケなのだ。昔は一人ぼっちだったけど、今はサスケが一緒に居てくれる。それが、ナルトの人生をどれだけ大きく変えただろうか。とても大きく変わったのではないだろうか。
「あ」
「どうしたんだ?」
「いや、その……さ…………」
さっきまでとは変わり、何か言いたいけど言いづらそうにしている。けど、サスケにはナルトが何を言いたいのか分からなかった。何かあるかと考えてみたが、今までの会話で言いづらい事などあっただろうか。ナルトは一緒に出かけるという事にだってすぐに賛成した。だとすれば、何か予定があったのだろうか。だから、自分でそう言ってしまって逆に言いづらくなってしまったのだろうかと考える。
「何だ? 言ってみろ」
「あの、さ。サスケってば任務が続いてただろ? だから出かけない方が良いんじゃないかって思って……」
それを聞いて驚いた。まさか、そんな事を気にしているとは思っていなかったから。任務のことは朝起こす時の時点で考えていない、というより忘れていたのだと思っていた。だから、あんな風に言ったりしたのだと思っていた。
もしかしたら知っていたけど起こしたという事も有り得るが、その可能性は低い。それが分かっていたら、今みたいに少しでも気を遣うのがナルトだ。今まで何年も一緒に居たのだからそんなことは分かる。
「今更だろ。オレは大丈夫だ」
心配してくれたのは素直に嬉しい。わざわざ気を使ってくれているということ。自分は行きたいけどそれなら行かなくてもいいという思いやる気持ち。ナルトのそんなところは素敵なところだとサスケは思う。
休みたい気持ちがないわけではない。疲れがあるのは事実だから。けど、それは起こされた時から関係ないことなのだ。それには、あるちゃんとした理由がある。
それはナルトと同じ。最近は任務ばかりでなかなか一緒に居ることが出来なかった。だからこそ、少しでも一緒に過ごしたいと思っているのだ。ナルトがそう思って行きたいと言ったように、サスケもそう思って平気だと言っている。
「けど…………」
「そんなこと気にするな。オレはそれほど弱い忍じゃない」
「違うか?」と聞いてみれば「そうだけど」と帰ってきて、まだ気にしているという事がすぐに分かった。気にするなと言っても、体は大切にしなければいけない。体調管理だって立派な忍の仕事だ。サスケがいくらそう言っても、ナルトはそれを知っているからこそ今日は休んだ方が良いのではないかと思っている。それに気付いたからこそ、そうした方が良いと言っているのだ。
「大丈夫だ。オレは少しでもお前と一緒に過ごしたい。だからこんなことは関係ない」
関係ないなんてことはない、と言いたくなってしまう気持ちもあったがその前の言葉がナルトの印象にとても残った。
少しでも一緒に過ごしたい。
サスケがそんな風に思ってくれているのだと分かった言葉。その言葉を聞いて他のことは忘れてしまいそうになる。忘れてはいけないのだけれど、その言葉はナルトにとって大きな言葉だから。正確に言えば、言葉ではなくその気持ちがとても大きくてとても伝わってくるから。
「本当に良いのかってばよ……?」
「何度も言わせるな」
一緒に出かけるという事が決まってナルトは喜ぶ。サスケの体が心配だという気持ちはあるが、それ以上に一緒に居られるという嬉しさの方が大きい。「有難うな」とお礼を言って喜んでいるナルトは本当に嬉しそうだ。
そんなナルトを見ていると、サスケもまた嬉しくなる。ナルトが喜んでくれることがサスケにとっても喜びなのだ。だから、ナルトの為に色々なことをサスケはしている。それは、これからも変わらないのだろう。
「じゃぁ、今日は出かけるけど明日は家で過ごすってばよ」
明日もサスケが休みなのを知っているナルトは、最後にきちんとそう加えた。流石に二日連続で出かけるのは大変だろう。家で過ごすといっても一緒の時間が過ごせるなら良いのだ。今日は、サスケがそう言ってくれたからそれに甘えさせてもらう。その代わりというわけでもないが、明日はサスケが休む為に家で過ごすのだ。
最後まで気を使ってくれるのを忘れないナルトを見て「やっぱりお前は優しいな」とサスケは思っていた。そして、自分の休暇に合わせてナルトも休暇にしてくれた五代目にも感謝する。合わせてといっても、サスケが四日間なのに対してナルトは二日間だ。同じように休暇を与える事は、いくら下忍だといっても任務があるので無理だった。それでも、この二日間を一緒に過ごせるようにしてくれた事は有り難いことだ。
「朝食を食べ終わったら出かけるぞ」
「分かったってばよ!」
朝食を食べ終わると、早速出かける準備をし始めるナルト。準備といっても特にこれといったものはない。本当に簡単なものを持っていくだけだ。
これから、一体どんな一日を過ごす事になるのか。明日はどんな日になるのだろうか。それはまだ先のこと。今は分かることではない。けど、こんな二人が一緒に過ごすのだから素敵で幸せな二日間になるのではないだろうか。
互いが相手のことを大切に思う。だから、どんなに短い時間だったとしても。本当に一瞬というほどの少ない時間だったとしても。貴方と一緒に過ごしていたい。
fin