季節は夏。今日は木ノ葉隠れの里で夏祭りが開かれる日。下忍である彼等の任務はお祭りが始まる前には終了し、解散する時に羽目を外し過ぎないよう楽しむようにとだけ担当上忍に注意をされた。
忍も一般の人も、里のみんなが集まって楽しむ年に一度の夏祭り。人々はお祭りの会場へと徐々に集まって行た。
射的
「悪ィ、待たせちまったか?」
「いや、オレもさっき来たところだ」
お祭りの会場よりも少しばかり離れた場所で二人は待ち合わせをしていた。目的地は勿論、そのお祭りである。
どうしてお祭りの会場を待ち合わせ場所にしなかったのかというと、あの人混みで落ち合うのは大変だと判断したからだ。会うのに一苦労するぐらいなら、こうして待ち合わせ場所を会場から離れた場所にした方が早い。
「それにしても、久し振りだよな。お前とこうして出掛けるのも」
会場に向かって歩きながらそんな話を振れば、サスケも「そうだな」と相槌を打った。
お互いに下忍になり、別の班で任務をするようになれば自然と会える時間も減ってしまう。下忍だから難易度の高い任務は回ってこないが、班が違えば休みの日も違う。当然任務の終わる時間だってその日によってまちまちだ。そのため、こうして二人で出掛けるのは数ヶ月振りになる。
「そっちはどうだよ。任務」
「同じ下忍なんだから大して変わらねぇだろ」
十班もDランク任務だろ、と聞けば肯定で返ってくる。新人下忍に回ってくる任務なんてDランクが大半だ。極たまにCランク任務も回してもらえるが、そんなことは滅多にないから基本的にはDランクである。
「オレ達が同じ班になれてりゃ、違ったんだろうけどな」
「それはオレ達にはどうしようもねいだろ」
「まあな。とりあえず、無事に下忍になれたから良かったってことで」
といっても、お前は全く心配なかっただろうけどと忍者学校時代の成績トップに言う。
だが、そのサスケも「お前だって心配なかっただろ」と突っ込んだ。面倒くさがりなだけで、本当は頭が良いということもサスケは知っているのだ。そんなシカマルが落ちるとは考え難い。
「そういやお前、今日はサクラに誘われなかったのか?」
思い出したように尋ねたシカマルに、サスケは「誘われたけど断った」とさらっと答えた。おそらくそうだろうなとは思ったが、そういうところは変わらないらしい。まあ、忍者学校を卒業してから数ヶ月程度で変わるものでもないだろうけれども。
「サクラも毎回諦めずにお前を誘うよな」
「それはいのもだろ」
サスケが女子にモテているのは忍者学校時代からだ。彼等と同じ班のサクラやいの、他にも多くの女の子達がサスケに好意を抱いていた。
当の本人は彼女達に興味もないどころか、ウザいとさえ思っていたが。それでも、女の子にはその態度がクールだと映るのか今でもサスケが女の子達から人気が高いことに変わりはない。
「試しに言ってみるか? オレ達が付き合ってるって」
「……何馬鹿なこと言ってるんだよ」
言外に言えるわけないだろうと視線を向けられる。それに「冗談だって」とシカマルが言うのを聞いて溜め息が零れた。本気でないことは分かっていたが、こればかりは流石に誰にも言えないだろう。
男同士で付き合っている、なんて周りに言えるわけがない。恋愛は個人の自由とはいえ、世間一般とは言い難い関係だ。別に言うつもりもなければ、どちらかが女だったらとも思わない。自分達はこれで良いと思っているからそれで良い。
「さてと、会場に着いたけどどこから行く?」
いつの間にかお祭りの会場に着いていたらしい。楽しい時間があっという間というのは本当のようだ。シカマルの問いにどこでも良いと答えれば、とりあえず端から回ってみようということになった。
「やっぱこの祭りは人多いな」
流石は夏の一大イベント。お祭りに人が多いのは承知の上だが、こうして会場内を歩いてみると改めてそう感じた。
人にぶつからないように気を付けながら、会場に並ぶ屋台を見て歩く。食べ物の屋台から金魚すくいなどの遊べる屋台。多くの屋台が並び、ちらほらと人々が足を止めている。
「適当に歩いてるけどよ、何かやりてぇのは見つかったか?」
「やりたいのは別にない」
「なら、何が欲しいんだよ」
シカマルはサスケの言葉を聞いてそう問うた。
これもシカマルだから分かるのだろう。これだけ聞いたら特に興味のある物はなかったと捉えるだろうが、実はそういう意味ではないのだ。やりたいものがないということは、自分でやりたいものはないという意味である。つまり、何か欲しいものはあるというわけだ。
「あれ……」
「あ? あれって…………」
サスケの言った方をシカマルも見る。そこにあったものを見て、シカマルは呆れたように隣の男を見た。
「お前な、もっと別のものはねぇのかよ……」
「でも便利だろ」
「そりゃあ、便利かもしんねぇけどよ」
そこにあったのは、木ノ葉の商店街で使える兼。要は商品券だ。一人暮らしであるサスケは、全部自分のお金でやりくりをしていかなければならない。だからこういったものがあれば便利なのだ。
それは分かるけれど、お祭りなんだからもっと他にないのかとも思ってしまう。駄目かと問われたら、駄目とは答えられないが。
結局、はあと溜め息を一つ吐きながらも「お前も色々あるわけだしな」とシカマルが折れた。
「けどよ、自分でやれば良いんじゃねぇのか?」
商品券を景品にしている目の前の屋台は射的。コツは必要かもしれないが、手裏剣術だってサスケは不得手ではないはずだ。わざわざシカマルがやる必要はないのではないかと思って尋ねる。
「それだったら言ってねぇよ」
「でも、射的だろ? ただ狙うだけじゃねぇか」
手裏剣術よりもこっちの方が圧倒的に簡単だろう。それなのに頼む理由は何なのかとシカマルは疑問を浮かべる。
それに対してサスケは眉間に皺を寄せる。だが、頼むからには答えるのが道理かとゆっくり口を開いた。
「射的は昔から苦手なんだよ」
忍である彼等にとって、的当てのようなものは楽勝だと思うかもしれない。しかし、それとこれとは全く別物なのだ。確かにサスケは手裏剣術を得意としているが、射的だけはどうも昔から上手くいかなかった。勿論一回やっただけのことを言っているのではなく、射的そのものが苦手なのだ。
「あー……そういうことならオレがやるわ」
シカマルも別段得意というわけではない。けれどサスケのように言うほど苦手ではない。得意不得意なんて誰にでもある。何でも出来るこの恋人が射的を苦手だったというのは少し意外だけれど、そういうところも可愛いとか思ってしまうくらいには彼が好きらしい。
その彼の為にも取ってやるかと、シカマルは屋台の人にお金を払って射的の弾を受け取る。挑戦出来るのは五回。
「取れそうか?」
「ま、何とかなるんじゃねぇの?」
サスケが問えば、シカマルも疑問で返す。
しかし実際にやってみると上手いもので、シカマルは五つあった弾を全て的に当てた。そして撃ち落とした景品を受け取ると、それらを全部まとめてサスケに渡す。
「ほらよ。商品券以外ついでだから貰っとけ」
「良いのか?」
「もともと頼まれてやったことだしな」
他のモンはいらねぇかもしれないけど、と言ったシカマルにそんなことはないとサスケは首を横に振る。
「シカマル、ありがとう」
そうお礼を述べて、サスケは大事にすると僅かに口元に笑みを浮かべた。そんなサスケを見てシカマルも微笑むと「そうしてくれると嬉しいぜ」と返した。
その後も二人は一緒にお祭りを楽しんだ。お祭りがあるから行かないかと、最近会っていなかったからというだけで誘っただけだったが結局最後まで目一杯楽しんでしまった。
サスケはシカマルにもらったものを大切にするのだろう。大切な人が自分の為に取ってくれたものなのだから。それだけでサスケにとっては特別なものだから。
fin