こうして修行を始めてどれくらいが経っただろうか。いつも朝から修行に付き合ってばかりの日々。ま、修行をつけてやるって言ったのはオレの方なんだけど。
 アイツ修行は凄く真剣で毎日朝から早く修行しろって五月蝿いほど。それでもって、夕方になってもいつまでの修行したがっちゃって。体を休める事も必要なんだけど本当に分かってるのか。実際に体に異常が出るまで分からないっていうのじゃ駄目なのに、言ったところでアイツは聞かないんだろう。それも本当に大切なんだけど。

 気が付けばもうこんな時間。早くしないとまたアイツは修行しろって言いにくるだろう。






「カカシ、早くしろ」


 ほら、やっぱりきた。こんなに朝早くから修行しなくても良いと思うんだけど、それをコイツには言うつもりはない。言ったら何て返ってくるか分かりきっている。わざわざ面倒なことはしたくないからね。ま、これでも最初よりか少しは遅くなってる。オレの様子を見て時間を少しは遅くしてくれたようだ。だからその時間は一人で簡単な修行をしてるみたい。本当に修行が好きだよね。
 どうしてそんなに強くなりたいのかなんて聞かなくても分かる。三人一組を組んだ時に聞いたし、それ以前からも知ってる。コイツはうちは一族でその末裔という存在。あの事件は有名で知らない人は数少ないと思う。精神が不安定だったコイツは一応監視の対象だった。暗部だったオレはその任務についたこともあったし、元々うちはとは関わりがあった。そんな諸所のことがあってオレは知ってる。
 今は大蛇丸の呪印のこともある。仲間を大切だとも少し前から思い始めてるみたいだったからこうして修行をつけてやってる。自分の身と、仲間の身を守る為に。


「はいはい。分かってるよ」

「だったらもっと早く行動しろ」


 同じ班でも他の二人とは違って上司に対しての言葉遣いはいつもこんな感じ。かといってナルトが丁寧かといえばそうでもないけれど“先生”とつけてるだけでも随分違うかな。はっきりいえば、先生っていうわけでもないけど。忍だと上司と部下みたいなものだから。
 ま、三人一組の担当上忍ってことだし教師でもあるのかな。どっちにしても結局はオレは目上の人。でも彼は変わらない。前につけろって言ってみたこともあったけど「アンタは教師っていう感じでもないだろ」なんて言われた。イルカ先生にはつけているのにと聞いてもオレとは違うからと返された。オレだって教師としてちゃんとやってるつもりなんだけどな。


「ところでさ、サスケ」


 オレが名前を呼ぶと不機嫌そうに「なんだよ」と返してくるところ、早く修行をみろと言いたそうだ。
 訂正、さっきからそう言ってる。オレの行動が遅いから苛ついているのかもしれない。別にオレはいつも通りにしてるつもりなんだけど、サスケからすれば遅いんだと思う。そうじゃなければあんなに何度も早くしろなんて言わないでしょ。そんなこと言ったら自覚してるならさっさとしろとかまた言われるんだろう。


「今日はオレちょっと用があるのよ」

「は!? それが分かってて、さっきまでいつも通り行動遅かったのかよ!」

「いつも通りって酷いね。ま、そういうことだから。今日は修行みてやれるの午前中だけね」


 言葉を聞き終わるなり「だったらさっさとしろ!」と怒鳴られる。そんなに怒らなくてもいいのに。ま、修行はちゃんとみるつもりだ。ペースはいつも通りだから外に行くなりまた怒られるんだろうけれど。
行動が遅いとか言われそうだ。みてやってるのはオレだけどそんなの関係なし。わざわざ普段の行動までオレに合わせられないってことだろう。サスケは真面目だからしょうがないのかな。

 今日は用があるから修行をみてやるのは午前中だけ。用っていっても任務じゃない。勿論任務の時もあるけど今日は違う。それ言ったらサスケに問い詰められそうだから言わないが、オレにとってはとても大切な用。

 外に行ってみれば、修行をやっているサスケの姿が見える。熱心なのは良い事だけど熱心すぎるのもどうなのか。それは前にも言った事があるけど「アンタには関係ない」って言われてしまった。関係ないことはないんだけどそれ以上は言わなかった。サスケが強くなりたい理由も知ってるから。
 少しの間、サスケのことを見てたらオレのことに気付いたみたい。不機嫌そうにしながらこっちに来る。


「アンタ、遅い」


 ほら、やっぱり一番最初に言われるのはこれ。遅くしてるつもりはないけど遅いっていうんだよね。人それぞれペースは違うんだし。


「サスケが早いんじゃないの?」

「アンタが遅いんだ」


 そんな風に言ってみればすぐに否定が返された。そんなに遅いだろうか。サスケが早いという可能性もゼロではないと思うけど。
 いつだってすぐに行動して無駄な時間がないようにしている。一秒たりとも無駄に出来ないような感じだ。実際に一秒も無駄にしないようにしているのかもしれない。普段のサスケを見てるとそんな感じがする。ま、無理もないと思うけど。少しは休むことの大切さに気付いて欲しい。


「とりあえず、修行始めようか」


 修行を始めるという言葉でその場の雰囲気が変わる。この修行は千鳥を取得する為のもの。千鳥は肉体活性による素早さなどが必要となる。加えて写輪眼も必要不可欠だが、これはあえて修行することもないだろう。
 写輪眼を使いこなせるようになることは大切かもしれない。けど、今やるべきことではない。そこまで写輪眼を使いこなせなかったとしても千鳥は取得できる。千鳥を取得する為に足りないものを補うこと優先させる。

 いつも通り修行は順調に進んで行った。他の奴等とはやっぱり覚えていくスピードとか違うみたい。うちはだからっていうわけじゃないけど、コイツがそれだけ真剣にやってるからだと思う。


「じゃあ、今日はこれで終わり。午後は一人でやるならやってても良いけど、あまり無理しちゃ駄目だよ?」

「アンタに言われなくても分かってる」


 分かってないから言ってるんだけど。ま、言っても聞かないから大して変わらないか。流石に無茶な修行はしないと思う。そんなことしたらこの修行が出来なくなるわけだし。サスケもそこまで馬鹿じゃない。


「オレは行くけど、ほどほどにね」


 最後にもう一度念を押しておく。あまり変わらないかもしれないけど、言うのと言わないのではやっぱり違うから。それだけ言い残してオレはこの場から去った。

 これから向かう先? 簡単に言えば木ノ葉の里だ。ま、ここも少し外れの場所ってだけだけど、商店街とかをちょっと見に行こうと思ってる。
 とりあえず食材を買いに向かう。今あるのでも十分だけど今日は特別だから。アイツが好きなものっていっても少ないけど、出来る限りの料理を作ってやりたいと思ってる。その為には必要な食材を買わなきゃいけな。だから適当にお店を見て買い揃えようと思ってる。

 数時間ほど掛けて色んな店を回り、買い物は大方終了した。あとは戻って用意をするだけ。アイツに気付かれないように気配を消して戻らないといけない。気付かれたら意味がないから。
 ま、気配を消していけばアイツは修行に夢中だろうから気付かれることもないだろう。されと、早く戻って早速準備を始めようか。



□ □ □



「サスケ、今日はもう修行は終わり」


 この修行中寝泊りに使っている小屋の近くで呼び掛ければ、サスケの視線は自然とこちらに向けられる。視線が向けられたかと思えば明らかに不満そうな表情をする。
 修行がしたいのは分かるけど終わりは終わり――なんて言っても納得はしないだろう。修行をオレがみてやったのは午前中だけ。それで午後は一人で修行をしていたというのに夕方のこの時間にはもう終わりにしろ。そんな風に言われたっていい気はしないんだろう。


「終わりって、殆ど一人で修行してたのにか?」


 ついでに「午前中もあまり時間はなかったし、それで午後はこれだけの時間かよ」とご丁寧に付け足している。
 サスケの言うことは確かだから否定するつもりはない。それに不満だっていうのも分かってる。だけど、今日はこれで終わり。明日はまた修業をみてやるけど、今日はどうしてもやりたいことがあるから。それも今日しか出来ないこと。
 年にたった一度。一度だけしかないとても大切な日。


「それでも今日は終わり。だから、お前がなんと言ってもこれ以上は駄目だよ」


 それを聞いて諦めたのかサスケは修行を止める。そして「分かった」と小さく返事がきた。すぐに分かってくれるからサスケはやっぱり素直だ。
 修行を終えて小屋に戻る。オレはこの時がとても楽しみだった。一体どんな反応を見せてくれるか。何せ今日はこの為に色々やったと言ってもおかしくない。


「なんだよ、これ……」


 扉を開けた瞬間、サスケはその場で立ち止まった。そして大きく目を開きながら目の前の光景を見ている。
 そこに広がっているのは今日の夕飯となる料理の数々。そのどれもが手を込んでいる物ばかり。サスケの好きな食べ物もしっかり並んでいる。

 予想通りの反応をしてもらえてオレは嬉しかった。突然こんなにも料理が並んでいれば誰でも驚くか。それでもあのことにに気付いてれば驚かなかったかもしれないけど。
 とはいえ、サスケが気付いてるわけがない。オレも気付いてないと思って用意した。ま、気付いてても気付いてなくてもあまり関係ないんだけど。


「何って、見れば分かるでしょ?」

「そうじゃない。何でこんな風になってるのか聞いてるんだよ」

「何でってさ、今日がサスケの誕生日だからだよ」


 今日は七月二十三日、サスケの誕生日だ。どうやら本人は全く気付いてなかったみたいだけど、だからこそこんなに驚いてくれたのだろう。ま、オレも自分の誕生日を意識して覚えてたりしないけど。
 でもコイツの場合、覚えてないのも無理ないか。昔は覚えていたのかもしれないけど、アレ以来は祝ったりなんかしなかっただろう。逆に言えば、アレからはこんな日なんてこなければ良いって思ってたかもしれない。もうあの温かさはどこにもないから。でもさ、もしそうだとしたらそれは間違いなんだよ。


「自分の誕生日なんて忘れてた」


 やっぱり。忘れてたのか自ら忘れたのかは分からないけど、そこまで詳しく聞いたりしない。聞く必要もないし、聞いて逆に嫌な事を思い出してもらいたくないから。誰にだって嫌な過去はあると思う。オレにだってある。いつまでも忘れたりは出来ないことがある。それはサスケも同じ。

 でも、今は違うでしょ? 昔は家族が居た。それがとても温かくて大切な存在だった。ある時奪われてしまって何もかも失ってしまった。
 だけど、今は仲間が居る。同じ班でやってきているナルトやサクラは大切な仲間。だからオレは千鳥を教える。それをコイツだって分かってると思う。

 また大切なものがそばにある。大切な人が出来た。だから、誕生日という日は大切だって思い出して欲しい。なければいいなんてこと、ないんだってことを。


「誕生日っていうのは大切な日だよ? この世に生まれてきてくれた日なんだから」


 十数年前の今日、生まれてくれたから今こうして一緒に居られる。うちはという名を背負って此処まで生きてくるのに大変な事はあったかもしれない。
 しかし、十数年前に生まれたからこそ今ここにサスケがいる。忍になって第七班でやってきたからオレはこうして修行をつけてる。あの時、生まれていなかったら今この時間はなかった。生命を授かったことはとても有り難いこと。誕生日っていうのはただ自分が大きく成長するのを祝うだけじゃない。生まれてきたことに感謝する日でもある。


「オレが生まれてきて良かったのか……?」

「当たり前でしょ。お前が生まれてこなかったら、今こうして一緒に居られないんだよ」


 お前が生まれてきたことをどう思ってるかは分からない。けどあの日以来、考えが少し変わったと思う。家族に祝ってもらっていた誕生日から、たった独りになって以前とは全く違う誕生日。もしかしたら、生まれてこなければ良かったなんて思ったかもしれない。生まれてこなければ、こんな辛い日を知ることもなかったと思ってことがあるかもしれない。
 でも、お前が生まれてきたことに感謝してる人は沢山いる。両親は当然生まれてきてくれたことに感謝している。ナルトやサクラだってきっとそうだ。サスケが居なければ第七班は成立しない。大切な仲間の一人なんだから。勿論オレだって感謝してる。お前がいるから今のオレがあるって言ってもいいくらいだ。

 みんな感謝してる。生まれてこなければよかったなんて人は一人も居ない。どんな悪人だって生まれたことに感謝されたことはある。途中で道を踏み外してしまったからそうなっていても、一度も生まれたことに感謝されなかったことはないと思う。
 彼の兄であるイタチだって今はSランク級の犯罪者だけど、生まれたことに昔のお前は感謝してたでしょ? 誰だって生まれたことに感謝されているんだ。


「サスケ、誕生日おめでとう。それと、生まれてきてくれて有難う」


 その言葉にサスケは小さな声で「有難う」と少し頬を染めながら言った。それからオレ達は一緒の食卓につくのだった。









fin