「ホント、お前等って仲良いよな」
ポツリと呟かれたその言葉に反応するようにそちらを向く。誰とは言わなかったが誰を指しているのかは明確である。
「ただの腐れ縁だ」
「家族ぐるみの付き合いだっけ? 昔から一緒なんだろ」
「そんな小さい頃の記憶はないけどな」
そう答えたサスケは、先程職員室に行ってくるから待ってろよと教室を出て行った金髪を思い浮かべて溜め息を吐く。
その彼、うずまきナルトこそがサスケの幼馴染である。元々親同士が仲が良く、お互いの家を行き来することも多かった。幼い二人はその度に連れられ、同い年ということもあって一緒に遊んでいた。それをサスケの兄であるイタチが見ていることもそれなりにあった。
しかしイタチとは年が五つ離れている為、幼稚園や小学校に通っている時間は当然だが居ない。そういう時は二人で遊び、イタチが帰ってくると三人で一緒になって遊んだものだ。
「ナルトが頼み込むと、なんだかんだで助けてやるのも腐れ縁?」
「後で騒がしくなるからだ。というより宿題を忘れたと行ってくるのはお前もだろ、キバ」
「オレはナルトほどじゃねぇよ」
どちらも変わらないだろうというサスケの意見は受け流し、もうすぐ夏休みになるなと話題を変える。
七月に入り期末テストもなんとか無事に終えた。危なかったのは友人達の中でも一部ではあるが、とにかく赤点をとることもなく終えることが出来た。あと一週間もすれば終業式になり、その後は長い夏休みの始まりだ。
「最終日に頼って来られても貸さないからな」
「それこそオレよりナルトに言えよ」
一体これまでに何度、長期休みの宿題を貸したことがあっただろうか。数える気にもならないが、数えなくともおそらくは小学生の頃から今に至るまでの数と同じだろう。自分でやれと言いながらも本当に困っている友人に溜め息を吐きながらも協力してやるのだ。
だが、それはお前も一緒だろうとは言うのをやめた。先程と同じやり取りを繰り返すだろうことは目に見えているのだ。夏休みが終わりに近づいたところで友人達が集まって課題を終わらせる、なんていうのは毎年よくある光景である。それなら早いうちに集まってやれば良いと思うのだが、まだ大丈夫だと言って後回しにしていることが原因であろうことは分かり切っている。指摘しても変わらずに毎年過ごしているけれど。
「今年はどこに行く? 夏ならやっぱり海か」
「行くのは良いが宿題もいい加減ちゃんとやれ」
「へぇ、断られるかと思ったんだけど」
「断っても強制参加させられるんだろ」
これまでの経験で言えば、どうなと適当な答えが返される。主にサスケを勝手に参加と決めつけているのはナルトである。それが毎年のように行われればいい加減諦めるというものだ。進んで行く気にはならないが、友人達と出掛けるのが嫌という訳ではないからなんだかんだでサスケも付き合っているのだろう。去年はバーベキューがしたいという意見によりキャンプ場へと出掛けて行ったんだったか。夏休みは毎年恒例のようなものになっている。
「宿題を終わらせないと行けないことにでもするか」
「それは流石にキツくね?」
「ラストで一気に終わらせられるんだから出来ないことはないと思うが?」
それを言われるとどう切り返して良いのか分からない。だが、それは主に終わっているものを写しているからだ。自力で解くとなればそれなりに時間が掛かる。一応、長期休みの最後に頼る時も初めはノートを写させては貰えないのだが時間が迫ってきたら仕方なく貸しているというような感じなのだ。
別に一人でやれとは言ってないとサスケは補足したが、それでも結構時間掛かるだろうと言うのは量があるのだから当然だ。何せ長期休みの課題だ。すぐに終わる方が問題だ。とはいえ、それで良いと思っている生徒も多いだろう。
「けど、宿題とかやる気にならねぇんだよな」
「それは宿題というより勉強がだろ。たまには早めに終わらてみても良いんじゃないか」
そして出来るのなら、これからは各々でしっかりと終わらせて貰いたい。むしろそちらの方が本音だ。
宿題のことを気にせず遊べるんだからその方が良いだろうという意見は的を射ている。終わりが近づくにつれて、まだ大丈夫だよなと考えたりギリギリになってから終わらないという思いをすることもない。どう考えてもそちらの方が良いということは明らかだ。
「今年はそれでいってみるか」
「マジで言ってんのかよ」
「やりたくなければ良いが、後で頼っても教えないだけだ」
それって選択肢なくね、と思いながらもサスケの言うことは正論だ。毎年助けて貰っているのはこちらなのだから、こう言われても仕方ない訳で。いつもと少しばかり違う夏休み、というのもこれはこれで有りかもしれないと考える。
「それでも良いけど、教えてくれるんだよな?」
「それくらいはな」
分からないところを教えるくらいはサスケも構わない。丸写しをされるのには自分でやれと言いたくなるが、教えて解けるようになってくれればそれで良い。
教えて貰えるのであればなんとかなるかと考えて、それじゃあ今年はまず勉強会からだなという話になる。図書館では騒がしくなってしまうから誰かの家でやることになるのだろう。いつも夏休みの終わりにやっていることを始めにやるだけ、と考えればメンバーもそう変わらなそうだ。
「勉強の方はそうするとして、遊びに行く場所は?」
「そっちはお前等で決めれば良いだろ」
「ならいつも通り、こっちで決めちまうぜ」
ここに行ってみようか、いやでもこっちも良くないか。とナルトやキバが情報誌を広げながら話し合う姿が目に浮かぶ。ここに行くなら有名なスイーツ店があったわよね、とサクラやいのも会話に加わりどうせなら美味しい物があるところにしようよとチョウジが話すのだ。どこでも良いけどちゃんと計画立てろよとその様子を見ながらシカマル辺りが注意をし、みんなで話しながら目的地が決まって行く。お馴染みの光景だ。
「でも本当、意外だよな」
「今度は何だ」
それが何に対して言われいるのか分からずに聞き返す。別にとはぐらかされて更に問おうかと思ったところで、タイミング良くというか悪くというか。彼等を教室に待たせていた張本人が勢いよくドアを開けて戻ってきた。
「よっしゃ、帰るってばよ!」
こっちはお前を待ってたんだけどと言えば、だから今から帰ろうぜと若干噛み合っていない会話をする。これもいつものことといえばいつものことだ。最終的にサスケが溜め息を吐いたところで一区切りとなり、自分の席に置いてあった鞄を手に取るとさっさと教室を出る。そんなサスケのことを待てってばよとナルトが追い掛けるのもよくあること。
(初めて会った時は性格正反対なのに意外だなと思ったんだよな)
二人のやり取りをすぐ傍で見ながら昔を思い返す。それはキバに限らず周りの誰もが思ったことだが、そんな二人を毎日見ていたらすぐに慣れた。幼馴染ということもあってこういうものなんだと。今となってはこれがしっくりくるなと思うくらいだ。
「おいキバ、さっきの話は…………」
「ただ幼馴染って仲良いなって話だぜ」
「は? 何の話だってばよ?」
「大したことじゃねぇよ。ほら、帰るんだろ」
そういや駅前のゲーセンに新しい景品入ったんだってよ、と話を振れば「マジで!?」とすぐにナルトが食いつく。それならこのまま寄って帰ろうぜなんて話を始めた二人に、寄り道しないで帰れとサスケが呆れる。たまには良いじゃんと主張してくるが、しょっちゅうだと思ったものの気にしない方が良いのだろう。なんだかんだ、この後はゲーセンに寄りながら帰ることになるに違いない。
こうして過ごす高校二年生の夏。オレ達の夏はまだまだこれからだ。
宿題と旅行と、オレ達の夏休み計画
オレ達の夏はこれから始まる。