「これで終わりか……」


 木ノ葉学園の屋上にサスケは一人で居た。ふと、空を見上げながら小さく呟く。そして、手に持っていたソレを強く握る。








 春の風が吹いている。時は三月中旬。今日は木ノ葉学園の卒業式。三年生は今日、此処から飛び立っていく。
 そんな卒業式もさっき終了したところだ。もうみんな下校を始めている。今までお世話になった先輩への別れを惜しむ者、これまで一緒に過ごした仲間との別れを惜しむ者。それぞれが卒業という大きな事を感じている。


「サスケ……?」


 そう問ったのは、サスケと同じクラスのナルトだ。同じクラスであり、小さい頃から良く知っている人である。よく知っているというのはお互いにいえることである。
 ナルトは、屋上のサスケの横に腰を下ろす。


「こんなとこに居たんだな。探したってばよ」


 探していた事に偽りはないだろう。けど、ナルトの事だ。探し始めてすぐに見つけたのだろう。あまり疲れている様子も見られない。
 そうでなくてもすぐに見つけただろうという事は見当がつく。ナルトがサスケを見つけるのに苦労する事など殆どないのだ。どこに行くのか聞いていなくても相手の事が分かっているからどこに居るのかが予想がつく。その場所に行ってみれば大体は当っている。


「今日で、みんなとも別れるんだよな……」


 彼等は今、この学園の三年生。今日の卒業式を境にみんなバラバラになる。同じところに進学する人もいるがそれは少人数。これで別れる事になるといってもおかしくはない。それぞれが己の進む道に行く。己が選んだ道を歩いていう事になるのだ。
 寂しい気持ちはある。けど、これもみんなが違う方に進む一歩である。一緒にそれを踏み出すという事に変わりはない。


「オレやキバ、シカマル達は同じ高校に行く。オレ等の中で別れるのって、サスケだけなんだよな……」


 いつも一緒に居るメンバー。その中で、唯一サスケだけが違う方に進む。それも家の都合らしい。
 小学生の頃からサスケは一人暮らしをしている。両親の仕事の都合で家族はみんな別の場所に住んでいるのだ。だから今までは一人暮らしをしてナルト達と同じように進学をしていた。
 けど、この学園を卒業し高校進学する今。家族が住んでいる場所にサスケも行く事になったのだ。その為、サスケだけは別れるという形になった。


「けど、あまり変わらないだろ?」


 一人違うだけで他のメンバーは同じ。だから大して変わらないといえば変わらない。同じ学年の人がそれぞれ違う方に行くという事と比べれば小さい事である。


「そんな事ねぇってばよ。サスケが居なかったら随分変わる」

「どうだかな」


 あまり変わらない。随分変わる。対になるような言葉だ。
 どちらが間違っているとかどちらが合っているなどという事はない。どう捉えるかは人それぞれ違うから。いくら一人が違うとしてもその存在が大切であればあるほどとらえかたは変わる。ナルトにとって、サスケはとても大切な人なのだ。


「ナルト」


 名前を呼ばれて、サスケの方を見る。サスケは顔が整っている。だから、こうして見るとやはり綺麗だと思ってしまう。女の子達が騒いでいるのもなんとなくだけど分かる気がするのだ。  それは、間違ってもサスケ本人に言ったりはしない。言ったら後でどうなるか分かったものではない。騒いでいる女の子達をウザイと言い続けているのだ。ナルトが言ったらその後サスケがどうするのか……。考えたくもないとナルトは思ってしまった。


「コレをお前に持ってて貰いたい」


 そう言って渡されたのは銀色の小さなペンダント。それはナルトも今まで何度か見たことがあった物だ。そして、サスケがそれを大切にしていた事は勿論知っている。


「これってお前の大切なもんだろ!? そんなもの受け取れないってばよ!!」


 頼まれたとしてもそれがどれだけ大切な物なのか分かっているから受け取れない。いつでもサスケはそれを大切に持っていた。
 いつからだったかはよく覚えていないけれど、小学生の頃からだったと思う。最初はサスケがそんな物を持っているのが不思議だった。サスケはそういう物には興味もなさそうな上に持っていそうもなかったから。けど、それがサスケにとって大切な物なのだと知ってからは違う。大切だからちゃんと持っているのだと分かったのだ。


「オレはお前に持ってて貰いたいんだ」

「けど…………」


 そう言われてもどうすれば良いのだろうか。素直に受け取れば良いのだろうけどそれは出来ない。大切にしているのを知っているからこそ出来ないのだ。


「元々、これはオレが兄貴から貰った物なんだ」

「兄貴って、イタチ兄ちゃんの事だよな? それじゃぁ、尚更無理だってばよ」


 兄であるイタチから貰ったもの。だから大切にしていた。それが分かった今、さっきよりももっと貰いづらくなった。大切にしていたのを知っていただけでなく、兄から貰ったというほどなのだ。そんな物を受け取れるような神経を持ってはいない。どちらかといえば、受け取らないというようにするべきではないのかと思うほどだ。


「兄貴がこれをオレにくれた時、オレはお前と同じ事を言った。これが、兄貴にとって大切な物だっていう事は良く知っていたからだ」


 それは、サスケが小学生だった頃。家族は仕事で別の場所に住む事になった。一人でも此処に残ると言ったサスケに兄であるイタチがこのペンダントをサスケに渡したのだ。
 そのペンダントをいつもイタチが持っていたのをサスケは知っていた。これだけ近くに居たのだからそれくらいすぐに分かった。大切だという事も十分承知していた。だから、今のナルトのように受け取れないと言ったのだ。これはイタチの大切なものだから受け取る事なんて出来ないと。


「その時、兄貴はオレに言ったんだ。『これは確かにオレにとって大切な物だ。けど、だからこそお前に持っていて貰いたい。大切な物だからこそ、オレにとって大切な人であるお前に持っていてもらいたいんだ。』って」


 大切な物。だけどこれを渡す理由。それは、大切な物だからこそ大切な人に持っていて貰いたいという意思。イタチにそう言われたからサスケはこれを受け取ったのだ。それが兄の意思なのだと分かったから。そして、いつも大切に持っていたのだ。
 今、サスケがナルトに渡すのもイタチがやった事と同じ事。大切だからナルトに持っていて貰いたいという事なのだ。


「持っていてくれるか、ナルト」


 今の話を聞いて、ナルトはサスケが渡す理由が分かった。それはつまり、サスケがナルトの事を大切に思っているという事。別れる事になったからナルトに持っていて貰いたい。そう思うのはイタチ同じ。それを聞いたから、ナルトも断わる事はしない。


「分かったってばよ」


 サスケの手からしっかりとそれを受け取る。今度はオレが大切に持っているからと心に誓いながら。サスケが大切にしていたのと同じように、ナルトもまた大切にするのだろう。大切な人から受け取った大切な物なのだから。

 大切だからこそ持っていて貰いたい。そう思うのは貴方が大切だから。
 そして、そんな人から貰ったそれを大切にする。貴方と同じ、貴方の事が大切だと思うから。










fin




「CHINA BLUE」の宮野響子様に差し上げたものです。
大切だから持っていて貰いたい、分かったからナルトはそれを受け取りました。サスケが大切にしたのと同じように、ナルトもそれをとても大切にするのだと思います。