「サスケ!」


 任務が終わり解散を言い渡されたあと、帰ろうと歩き出したところでナルトはサスケを呼び止めた。その声に仕方なく足を止めて振り返る。


「何だ」

「あのさ、お前ってば何か欲しいものとかねぇの?」


 あまりにも唐突な内容にサスケは眉を顰めた。
 どうしていきなり欲しいものはないのかという話になったのか。そんな話をしたことは今までに一度もない。故に、こんなことを聞かれる理由で思い当たるものが何一つなかった。


「だから欲しいものだってばよ! 何かあるだろ?」


 無言のまま暫しの時間が流れるとナルトは先程の言葉をもう一度繰り返した。
 何かあるのかという以前に問題なんだが、とサスケは心の中で思う。けれどこのまま話を続けたところで話は進みそうにない。
 はあ、と溜め息を一つ吐いたサスケは仕方なくそれについて尋ねることにする。


「どうしてそんなことを聞く」

「そりゃあ、お前の誕生日だからだってばよ」


 その言葉を聞いたサスケはきょとんしてナルトを見た。そういえばそんな時期かと思ったが、どうしてナルトがそれを知っているのか。
 疑問に思ったことが伝わったのだろう。ナルトは「サクラちゃんから聞いたんだってばよ」と付け足した。女の子というのはどこからそんな情報を入手してくるのか。教えていないのに不思議なものだ。

 ナルトの言う通り、確かにサスケの誕生日は七月だ。サクラの情報もきっと間違っていたわけではないのだろう。けれど。


「誕生日と言えばそうだが、明日だぞ」


 今日はまだ二十二日。サスケの誕生日は二十三日なのだ。たかが一日ではあるが誕生日はまだきていない。
 そのように指摘すればナルトは驚愕の表情を浮かべた。


「え、マジで!?」

「ああ」


 焦るように聞き返したナルトに肯定を返せば、ナルトは今日の日付を数えなおしたり一人でなにやら呟いたりし始めた。それから「あー……」と唸るような声を出すしたかと思えば、がばっと勢いよく顔を上げた。


「えっと、そう、アレだってばよ! 先に準備するためにも聞いておこうと思ったんだってばよ!」


 苦し紛れに出てきた言葉が嘘だということはバレバレである。これまでの発言を聞いていれば誕生日を勘違いをしていたことは一目瞭然だ。
 しかし、誕生日のこと自体忘れていたサスケはさして気にせずに言った。


「別に欲しいものはない。だから何もする必要はない」


 そう口にしたサスケはくるりと体を回転させて再び足を進めた。
 それに気がついたナルトは慌ててサスケを追う。そうして隣に並んだチームメイトにサスケは嫌そうな顔を浮かべた。ナルトが何を言いたいのか、聞かなくても分かったからだ。


「そんなことねぇだろ? 何か欲しいものの一つくらい――」

「ないと言ってるだろ」


 予想通りの言葉を投げかけてきたナルトにサスケはいい加減にしろと言うようにそう返した。欲しいものと言われても特に思い浮かぶものはない。それ以前に誕生日を祝う必要があるとも思えない。だから余計に何もしなくていいと言いたくなるのだ。
 だけどナルトは簡単に引き下がるような性格ではない。サスケははっきりいらないと言っているが、それでもまだ食い下がってきた。


「だって、サスケってば誕生日じゃん。だから何でもいいから欲しいもの言えってばよ」

「そもそも、何でオレの誕生日なんて祝おうとするんだよ」

「そんなの決まってるってばよ! サスケが生まれてきてくれた大事な日だからだってばよ!」


 それを聞いたサスケの脳裏にはふと、昔のことがよぎった。あれはまだ、家族が一緒に暮らしていた頃。誕生日を家族全員で祝い「おめでとう」と「ありがとう」の言葉を交わしていた。
 一人になってからは誕生日なんて祝おうとも思わなかったため、そのことは頭の片隅に追いやっていた。でも本来、誕生日というのはそういうものなのだと思い出す。でも。


「だからってお前が祝う必要はないだろ」

「オレはお前の仲間で、友達だから。サスケの誕生日を祝いたいんだってばよ」


 他に理由なんて必要ないだろうとでも言うようにナルトはニッと笑った。
 仲間、友達。
 最初は喧嘩ばかりで、今だって言い争いになりかけたというのに。気がつけば自分たちは同じ七班の仲間と呼べる、友達と呼べる関係になっていた。
 そんな相手の誕生日を祝いたいと思うことに不思議なことは、ないのかもしれない。一瞬でもそう思ってしまったサスケはちっと舌打ちを零した。


「……勝手にしろ」


 小さくそれだけを言ってこの話題に終止符をつけるとナルトは嬉しそうに「明日、楽しみにしてろってばよ!」と笑顔を向けた。
 結局何が欲しいとは言わなかったが、ナルトは何かしら誕生日祝いを用意するのだろう。欲しいものなんてないし誕生日を祝って欲しいとも思わない。けれど少しくらいは楽しみにしておいてやるか、とサスケはナルトに背を向けながら密かに思った。









fin