理科の教師であり二年A組のクラス担任であるはたけカカシ。そして二年A組のクラス委員のうちはサスケ。周りから見れば、普通の教師と生徒という関係。他に何も無いごく普通の関係。
けど、それはあくまで周りから見た場合。本人達からすれば、それは違うものだという事がある。周りからというのは客観的に見て思っているだけの事だから。
大切な時間
いつもと殆ど変わらない一日が終わった。今は放課後で各自が帰宅や部活、日直の仕事など様々な事をしている。それはどの生徒であっても変わらない。
そんな中、サスケはある場所へ向かっていた。部活をするわけでもなく、日直という仕事があるわけではない。ある人物に呼び出しをされているから。その人物というのは、よくサスケの事を呼び出す。サスケはクラス委員なのだから当然といえば当然の事だ。呼び出しをしているのは担任であるカカシなのだから。
「今日は一体何の用だ」
理科室の扉を開けるなりサスケはそう言った。一方でカカシは「案外早かったね」などと言っている。
これももう日常となってしまっている事だ。サスケはいつもカカシに呼び出される。それがちゃんとした用事であったりそうでなかったり。様々ではあるが呼び出されれば行くしかない。いくらこんな奴だからといっても教師であり、ましてや担任でもあるのだ。教師に呼び出されて行かない生徒はおそらく居ないだろう。
「質問に答えろ」
人を呼び出しておきながら、ただ此処に来たサスケの事を見ているだけの教師に向かって言う。呼ばれてきたのだからその用を早く話して貰いたい。そう思うのは普通の考えだろう。
「んー……そうだね……」
答えに悩んでいるカカシを見て、サスケは溜め息を吐く。この様子を見れば特に用がないのだと分かる。そうでなければすぐに答えれれるはずだ。答えられないからこうなっているのである。
用がなくても生徒を呼び出すのはこの学校でもカカシぐらいだろう。訂正、この学校だけでなく全国の学校を合わせた場合においてもおそらくカカシだけだろう。本来であれば、生徒を呼ぶ必要がある時のみにしか呼ぶ事をしない。必要がないのならあえて呼ぶことは無い。けど、そんな事はカカシにとっては全く関係無しだ。呼びたい時に呼ぶ。それがカカシという男だ。
「用が無いなら呼ぶなって、いつも言ってるだろ……」
「そう言うけどさ、呼ばないとサスケは来ないでしょ」
サスケの言う事は確かだ。用が無いのなら呼ぶ必要が無い。だから、わざわざ呼ばないで欲しい。こうして来る時間も他の事に使えるのだ。たとえ少ない時間だとしても時間は貴重な物だ。
だが、カカシの言う事も間違っているとは言えない。呼ばなければ誰も来る事は無い。呼んだり、約束したりしなければ誰も来たりするはずがない。約束も何もしていないのに来て欲しい時に来てもらえるなんて、それは以心伝心でもなければ不可能だろう。
「だからって用が無いなら呼ぶな」
せめて何かあるなら納得出来る。それが理科の授業などという学校に関することでなかったとしても。だけど、何も無いのならどう納得していいのだろうか。納得できるものなど何一つ無いのだ。それで納得しろという方が無理だ。
「ちゃんとあるよ。サスケに会いたかった、っていう理由が」
それを聞いて、また溜め息が出る。どうしてそんな事が言えるのだろうかと問いたくなる。似たような事が以前にも何回もあり、もう問おうという気もない。これをくだらないと思うのも何回目だろうか。数えようとは思わないが、その数はもう二桁だろう。
一年の時もクラス担任はカカシで、クラス委員だったのはサスケだ。最初は授業の事というまともな呼び出しだったのが、何時の間にかこんな呼び出しも増えていた。それも二年目にもなれば、その数が二桁を軽く越えているのも無理はない。<
「教室でも顔合わせてるだろ。アンタがオレのクラス担任なんだから」
「そうだけど、それはクラスを見てる時でしょ。オレは、サスケ一人を見たいからこうして呼んでるの」
クラスというのは団体行動。クラス担任ならクラス全体を見る必要がある。それは、担当教科で授業を教える時も同じだ。クラス全体を平等に見て、平等に接する必要がある。誰か一人だけを見るという事をしてはいけないのだ。そんな風に接する人が居れば、他のクラスの仲間達が差別だのと言うのは分かりきっている。
「仮にも教師だろ」
「仮じゃなくてちゃんとした教師。だったら、サスケはオレと一緒に居るのは嫌なわけ?」
そう聞いてはいるものの答えは分かっている。分かっていながらも聞いているのだ。こんな風に言うサスケが居るから。上手く言葉が言えないという事も分かっていながら。こう思う気持ちは同じだという事をはっきりさせる為に。
「そういうわけじゃねぇけど…………」
その言葉はカカシの予想通りのものだった。ここで予想が外れたりしてしまえば、それこそ困るというものだ。予想が外れれば、この思いも違うという事になるから。カカシにすれば当然の結果になった。
「だったら問題ないでしょ」
結局、いつもこんな感じで終わらされてしまう。いつも文句を言いつつもサスケはこうしてカカシに呼び出されることを嫌っているわけではない。かといって、楽しんでいるわけでもないが。カカシと過ごす事となるこんな時間が自分の中で、一番のものとなっているのは事実だ。
どうしてそんな風に感じるのだろうか。
そう問われた時の答えは簡単だ。二人はお互いに想い合っているから。周りから見れば普通の教師と生徒だ。それ以外にどんな関係だというのも分からないしあるとも思わない。
おまけに、それがはたけカカシとうちはサスケなのだ。誰がどう考えてもそれ以外には思いつかない。けど、本当は二人がお互いに必要とする存在となっている。つまり、簡単にいえば恋人関係といった感じだ。相手に恋愛感情を持っている。だからそういう事になるというわけだ。
「それとも、出来る事なら一緒に居たくないとか本当は思ってるの?」
「思ってない!」
カカシの問いをすぐに否定する。そんなサスケの反応をカカシは楽しんでいる。面白半分で言った事なのだから。サスケもカカシの様子を見ればカカシが楽しんでいる事は分かる。分かるのだが、サスケにしてもれば面白くない。自分が遊ばれているのだからそう思うのも当然だ。
だからといって、サスケがカカシにどうこう言ったところでそれが変わるわけではない。それを逆に利用されてしまうのだ。それが分かっているからあえて何かを言う事はしない。
「それなら文句も無いよね」
これ以上その言葉を否定する事は出来ない。これだけサスケも言ってしまっているのだ。それであって、文句があるなどと言えるわけが無い。こうしてカカシの良いようにされて終わる。こんな形で終わる事に納得いくわけではないが仕方がない。
「今日は、どれくらいまで居てくれる?」
けど、こんな時間が嫌いなわけではない。どちらかといえば好きということになるのだろうか。一番大切な時間。それがサスケにとってはカカシと過ごす時間。そしてまた、カカシにとってはサスケと過ごす時間なのだ。だから、素直にこの時間を大切に過ごそうと考え直す。
サスケはカカシの近くの椅子に座った。そして、さっきの質問の返答をする。
「アンタの仕事が終わるまで居てやるよ」
それを聞いたカカシは嬉しそうな表情をした。そして「だったら早く終わらせないとね」と言う。サスケもそんなカカシの様子を嬉しそうに見ている。
こんな状況でも一緒に居れるという事はお互いに嬉しい事というわけだ。自然とカカシの仕事を進める手も早くなる。出来るだけ早く終わらせて家に帰りたいから。そこで、また二人一緒の時間を過ごしたいと思うからだ。
こうして過ごせる時間は少なくても、一つ一つを大切にしよう。
少ない時間だとしても貴方と居れるこの時間は、私にとってはとても大切な時間だから。
fin
「SevenShaker」の有城様に差し上げたものです。用はないけれどサスケに会いたいからとカカシは呼び出しています。用がないなら呼ぶなとサスケは言っていますが、なんだかんだで一緒にいれる時間を大切に思ってる二人です。