どこまでも遠く広がっている空。それは広大で、綺麗な青に染まっている。所々には、白いふわふわとした雲が自由に浮かんでいる。
今日も晴天。こんな日は外に遊びに行きたくなる。
太陽の描く空
「サスケ」
朝から騒がしい声が聞こえる。それが玄関からであることは、この家に一人しか住んでいないのなら必然的に分かる。何より、この声は普段からよく耳にしているのだ。
「何だ」
「遊びに行くってばよ!」
どうせそんなことだろうと予想はしていたが、見事に的中して思わず漏れたのは溜め息。幼馴染の考えることは分かるが、それならば向こうにも分かって貰いたいところだ。分かっているからこそ、こうして誘いに来ていたりするのだけれども。
溜め息一つでサスケの心境を悟ったのか、次に出てきたのは予想外のようで予想通りでもあるような言葉だった。
「せっかく晴れてるんだから、家に居るなんて詰まんねぇってばよ」
「それはお前だろ」
「そんなことねぇってばよ。ほら、行こうぜ!」
人の意見を聞く様子は全く見られない。サスケが好んで出掛けないことをナルトは百も承知。それでも出掛けるためには、強引に誘うしかないのだ。サスケからすれば、全くもって迷惑なだけの話だ。
もう一度溜め息を吐いてから「少し待ってろ」と返した。サスケはもう慣れた、というより諦めているといった方が近いかもしれない。それでも、了承を得たことでナルトは「おう」という返事と共に満面の笑みを浮かべた。
「それで、どこに行くんだ」
家の中に戻って必要な物を取って来たサスケは、ナルトと並んで歩いていた。遊びに行きたいということは聞いていたが、目的地についての話題は一切出ていない。疑問に思って尋ねれば「あー」という声が聞こえた。それから。
「実は、まだ決めてないんだってばよ」
思わず「はぁ!?」と声が出た。そのままナルトを見れば、苦笑いを浮かべる。人のことを朝から起こしに来ておいて、特に考えていたわけでもなかったらしい。つまりは、ただ遊びに行きたいということなのだろう。
計画性がないのはいつものことだ。休日に突然どこに行こうと誘われることもあれば、こんなことがあるのも初めてではない。
「だってさ、こんなに良い天気だとどっか行きたくなるだろ?」
それは全員に共通していえることではない。そう思うものの言うだけ無駄かと思い直すと開こうとした口を閉じた。
確かに今日は天気が良い。昨日までの雨が嘘のように晴れている。気持ちが良い天気だ、というのなら分からなくもないけれど。
「とりあえず、目的地がないならどこにも行けないだろ」
近場をぶらっと散歩という柄ではないのだ。「うーん」と言いながらナルトは頭を悩ませる。どうせ出掛けるのなら、楽しく遊んで過ごしたいというのがナルトの意見。暫く考えていると、漸く何かを思い付いたようで声を上げた。
「あ、そういえば新しく水族館が出来たらしいんだってばよ」
何かの雑誌で特集されていたのを思い出して、名前を挙げる。遊園地などと言われるよりは十分マシなものかとサスケは思う。新しいのであれば人混みが容易く想像出来るが、遊園地ほど五月蝿いということもないだろう。それに、出掛けるということになってここにいるのだ。今更文句を言うようなこともない。
「なら、そこに行くのか?」
「面白そうだし、行ってみるってばよ!」
そうと決まれば、あとは適当に交通機関を利用していけば良い。携帯を取り出して検索にかけてみれば、そこがどの水族館なのかはすぐに見つかった。今のご時世、便利な物が沢山ある。利用出来る物は有効的に使うのが一番だ。 ついでに交通も調べてしまえば、目的の水族館へと着くのはあっという間だった。
□ □ □
青かった空が薄っすらと橙色に染まり始めてきた。気がつけば、時刻は六時を回っていた。
海の動物達を見ながらあちこちと歩き回る。途中でさっき見た場所へと戻ったりと同じような場所を何往復かしたような気がするが。ふれあいコーナーに行ったり、ショーを見たり。気がついたら、こんなにも時間は経過していたようだ。
「今日は楽しかったってばよ!」
電車に乗り、歩く道は見慣れた景色。家までちょっとの最後の帰り道。
「お前、少しは考えて行動しろ」
「だって、しょうがねぇじゃん」
見たくなったんだから、と続けられて本日何度目かになる溜め息。最初にパンフレットぐらい貰っていたのだ。それを見ながら動いていたというのに、振り返ってみれば無駄の多いことこの上なかった。過ぎてしまったものは仕方がないが、文句が言いたくなってしまうのも無理もない。
「でもさ、色んなモン見れたし、面白かったってばよ」
とても満足そうにナルトは笑みを浮かべた。それを見てサスケも小さく微笑んだ。それから「サスケは?」と尋ねられる。
「それなりにな」
それだけ答えれば、また嬉しそうな表情を見せた。簡素な言葉が本当は何を言いたいのかは、分かりきっているのだ。長年の付き合いは伊達ではない。
一緒に遊びに出かけて、楽しく過ごして。何より、今隣に居る存在と共に時間を過ごし、気持ちを共有出来たことが幸せだ。そのことは、口には出さないけれど。
そんな会話を繰り広げているうちに、気がつけば二人が別れる最後の場所までやって来ていた。
「今日はありがとな! じゃぁ、またな」
「あぁ」
いつもと変わらない挨拶を交わす。別々の道に向かって足を進めようとした時。ふと、名前を呼ぶ声がする。
「なんだ……」
言葉は、最後まで紡がれることはなかった。理由は、その先を言えなくなってしまったから。唇が触れて、そっと離れた。
「じゃぁな」
そう言ったサスケは、口の端を上げた。ナルトもなんとか同じ言葉を繰り返すと急いで自分の家に進む道へと向かって行った。
別々の道に互いが入ってしまえば、もう相手の姿は見えない。
「最後のって……」
不意打ちの行動に、頬は赤く染まっていた。思い出して、また熱が集まる。夕焼けの光に隠れて気付かれなければ良いななんて思いながら。そんな空を見上げた。
色を変えた空は、橙色にちょっぴり混ざった薄紅色。
今日の太陽が空に綺麗な色を創り出す。
fin