「休みだってばよー!!」


 朝から元気だなとすぐ傍で騒いでいる同僚に視線を向ける。久し振りの休みが嬉しいのは分かるが、朝っぱらから騒ぐほどのことではないだろうと思う。ナルトにとっては、それだけ嬉しいことなのかもしれないけれど。
 考えてみれば、昨日までの長期任務に就く前にも休む間もなく任務が入っていた。全く休息がない訳ではなかったが、こうしてゆっくりできるのは本当に久し振りかもしれない。


「……朝から騒ぐなウスラトンカチ」

「サスケって朝得意そうだけど苦手だよな」

「低血圧なだけだ。寝坊するお前とは違う」

「寝坊はしねぇってばよ!」


 流石にこの年になってまで寝坊をすることはないが、下忍の時は集合時間には間に合うもののギリギリということも少なくなかった。サスケはといえば、朝が苦手とまではいわないが低血圧の為あまり得意でもない。とはいえ、朝起きるのは早いし当然遅刻をしそうになる時間に集合することもない。
 かつては同じ三人一組を組んでいた二人だが、月日が流れて今は上忍になった。技の相性が良いこともあって、同じチームで任務に赴くことも多いのだ。今回もそれで、任務が終わってから飯を作るのも面倒だからなどという適当な理由を並べたナルトをサスケは家に泊めてやって今に至る。


「それより、お前はいつまで人の家に居るつもりだ」


 とりあえず泊めてやったがその辺のことは聞いていなかった。なぜ昨日の時点で聞いていないのかというと、これが初めてのことではないからだ。よく任務が一緒になる二人は休日が重なることも多々あり、任務が終わってナルトがそのままサスケの家に向かうというのもよくあることだったりする。サスケからしてみればいい迷惑ではないかという話だが、ここまでくると今更気にすることでもない。


「そうだな……。あれ、次の任務も一緒だっけ?」

「次はサクラも居るがな。お前、その時までここに居るつもりか?」

「その時って言っても、数日だけだってばよ」


 確かに休暇は二日間。その後はサクラも含めた元七班のメンバーでの任務と聞いているから、泊まるといっても数日の話である。それくらい良いじゃんとナルトは話す。
 何がどう良いんだと思いつつもサスケは溜め息を零すだけに留めた。こういうパターンも少なくないのだ。いちいち気にしていたらやっていられないというだけのことである。

 二人がこんな風に過ごすようになったのは中忍になってからだろうか。
 下忍の頃は七班として任務を行っていたから、普通に家から任務に行って家に帰っていた。中忍になってランクの高い任務に就くようになり、時々帰りに寄って行っていいかと言うようになったのが始まり。今となってはそれが普通になっているような気がしないでもないといった状態だ。


「偶には自分の家に帰ったらどうだ」

「えー良いじゃん。だってその方がサスケと一緒に居られるし」


 何といえば良いのだろうか。ナルトらしい発言ではあるのだが、どう返答するかに少し困る。家には食材やその他諸々があるのだから自宅にも帰るべきだろう。まぁ、サスケの家に来ることが多いだけであってナルトも自宅に帰らない訳ではないのだが。加えてインスタントばかり置いてあるナルトの家に何か困るような物というのも殆どないのだ。
 だが、ここまで来るとサスケの方もどうにかならないのかとは少なからず思う。初めの頃のように夕飯を食べて行く程度なら気にならないが、こうなってくると本人が気にしなくてもこちらが気にする。


「そんなにオレの家に来るなら、いっそ荷物も持ってきたらどうだ」

「え、マジで?」

「任務で居ないことも多いがそれはお前も同じだろ」


 加えて同じ任務の時にはそのままサスケの家に寄って行くことが多い。ここまでくると、最早こちらに荷物を持ってきてしまえとも言いたくなる。
 サスケの住んでいるこの家は、うちはの集落にある大きな一軒家だ。一人増えたところでどうってことはない。現にナルトが良く泊まっているが狭いと感じることは全くない。二人で使ったところで広すぎる家なのだ。


「でもさ、それってばサスケに迷惑になったりしねぇ?」

「今更それを言うのか」


 迷惑になるという考えがあったことにサスケは内心で驚く。そんな考えはないのかと思っていたが、どうやらそういう訳ではないらしい。
 だが、サスケの言うように今更な話である。今更そんなことを気にする必要はない。どうせ気にするのならもっと前に気にして欲しい、というのはサスケの意見である。


「まぁ、オレはどっちでも良いからお前の好きにしろ」


 今のようにこれからも続けていくのでも良いし、こっちに荷物も持ってきてしまうというのならそれでも構わない。サスケにとってはどちらでも大して変わりはないのだ。料理を作る量も変わらないし、どちらかといえば一緒に暮らしてしまった方が良いのではないかと思うこともあったくらいだ。
 ナルトがどう考えているかなんてことはサスケには分からないが、どうするかは最終的にナルト自身で決めれば良いことだ。どちらでも良いから決断を急ぐこともないし、好きなようにすれば良い。

 そんなサスケの言い分に、ナルトはうーんと唸りながら考えているようだ。こうして泊まらせて貰うのではなく、一緒に住むとなれば迷惑ではないかと考えてしまう。けれど、サスケの言い分も分からなくもない。
 どちらでも良いと言ってくれるのであれば好きな方を選べば良いだけ。本当に良いのかなんてことはそれこそ聞く必要もないのだろう。


「じゃあ、今度荷物とか纏めて持ってきても良いかってばよ?」


 出した結論はこれだった。疑問形なのは遠慮があるからだろう。今更遠慮することもないのだが、ナルトらしいといえばそうなのかもしれない。変なところで遠慮をするのだ。普段は全く遠慮なんてしないというのに。


「好きにしろと言っただろ」

「なら好きにさせて貰うってばよ!」


 ニカッと笑みを浮かべたナルトを見て、サスケも小さく微笑む。
 出会った頃は喧嘩ばかりで周りも呆れていたほどだったというのに、今では随分と仲が良くなったものだ。任務でも同期の誰より一緒になっていて、いつの間にかまたお前等一緒の任務だったのかと言われるようになっていた。仲良いなと言われるようにさえなった。言われても二人して否定するのは相変わらずだけれど。昔のように本気で否定している訳ではないということくらいは周りも知っている。


「あ、サスケ。せっかくの休みなんだしどっか行かねぇ?」

「久し振りの休みなのに出掛けるのかよ」

「だからこそ出掛けるんだってばよ! 修行ばっかりじゃなくて休息も必要だぜ」


 その休息の為の休暇だろうとは突っ込まなかった。休息といわれたところで、休んだ後は巻物を読んだり修行をしたりして過ごす二人だ。一日そんな風に過ごしても次の日はいつものようにそうやって過ごすことになるのだろう。
 ナルトの言うように、久し振りの休みなのだからたまにはゆっくり出掛けるというのも有りかもしれない。修行などをしない分、二人にとってはその方が休息にもなるだろう。修行も好きでやっているだけだけれども。


「……はぁ、甘味処には付き合わないからな」

「分かってるって。よっしゃあ、早速出掛けるってばよ!」


 本当に朝から元気が良い奴だ。だがその前に朝食の片付けをしろとサスケが文句を言えば、適当な返事をしながらもナルトは食器を片付け始めた。洗い物を終えれば久し振りの休日の始まりだ。

 さて、どんな休暇を過ごそうか?







(出掛けるのも悪くないだろ?)
(たまにはな。だが、どうせ夕方には修行をしようと言い出すんだろ)
(そ、それはそれだってばよ! 今は出掛けようぜ!)
(全く…………)