少しずつ暖かくなってくる気候。少し前まではあんなに寒いと口にしていたというのに、季節の移り変わりとは気が付くとやってきているものだ。
 辺りを見回せば、緑色が増えたように思う。緩やかに吹いた風が心地よい。太陽の元に広がるのは、段々と近づいてくる春の季節。






 今日もいつもと同じような一日から始まった。朝起きて支度をして、集合場所へ行く。けれど相変わらず担当上忍は数時間もの遅刻をしてくれた。それからDランク任務を言い渡され、文句を言いながらも終わらせる。そんな、いつも通りな一日。
 任務が終わり解散を言い渡されると、カカシは任務の報告があるからと早々に居なくなった。続くようにして、サクラも今日は予定があるからと帰って行った。そして、残されたのは二人。


「じゃぁな」


 ここに残って居てもやることなどない。サスケは一言だけ言うと、ナルトに背を向けて立ち去る。けれど、それを阻止するようにナルトは声を上げた。


「サスケ!」

「…………何だ」


 名前を呼べば、立ち止まって振り返ってくれる。下忍になった当初では、あまり考え難い光景かもしれない。けれど月日が経つにつれて同じチームメイト、仲間として二人の関係は変わっていったのだ。


「これから暇かってばよ?」


 ナルトの質問に、サスケはどう答えるか悩む。何か予定があるかと聞かれれば、特に予定はない。だけど、任務が終わってから修行をすることは日課のようなものである。修行は自主鍛錬とはいえ、やった方がより実力を伸ばすことが出来る。
 それよりもナルトが何の用で聞いているのかが一番の問題である。その内容によっても答えは変わってくるのだから。


「一応時間はあるが、何の用だ」


 とりあえずそう答えると、ナルトの表情は一気に明るくなった。そんなに大事な用事なのだろうか。そんな疑問をサスケが抱いているとも知らず、ナルトは話を続ける。


「あのさ、ちょっと付き合って欲しい所があるんだってばよ!」


 一体何に付き合えというのだろうか。それが重要な部分なのだが見事に抜けている。でも、先程のナルトの表情を見たら断るにも断りづらい。修行はまた後でも出来るかと納得すると了承の返事をした。すると、またナルトは嬉しそうに笑った。
 それから「こっちだってばよ!」と言いながらサスケの前を歩き出す。そんなナルトの後に着いていくと、どうやらこの辺りには沢山の人が集まっているようだった。


「一応聞くが、お前……」


 そこまで言うと、ナルトは急いで振り返って「なぁ、頼む!」と両手を顔の前で合わせた。
 顔を上げれば、そこには『甘味処』の文字。どうりで目的地を言わない訳だ。ナルトはサスケが甘い物を嫌いだということを知っているのだから。もし最初に言っていたのなら付き合わなかったかもしれない。
 いつもより人が多い所を見ると何かサービスでもしているのだろう。そして、おそらくナルトの目的も同じだ。サスケは一つ溜め息を吐くとナルトを見た。


「今日は、二人で来ると半額サービスなんだってばよ」

「サクラは用事があって、カカシもさっさと帰ったからな。それでオレというわけか」

「一緒に来てくれるだけで良いからさ? なぁ!」


 予想通り、ナルトもこのサービスの為に来たらしい。それで何を買うつもりで来たのかは知らないが、もっと他の奴を誘えなかったのだろうか。頭の片隅でサスケはそう思う。けれど他の班の任務を知るはずもなく、同じ班であるサスケに回ってきたことも容易く分かった。
 目の前でナルトが必死に頼む様子に、つい二回目の溜め息が出た。


「……今日だけだからな」


 言えば「サンキュ!」とお礼を言われる。同時に雰囲気が明るくなったのは一目瞭然だ。
 もう既にここまで来てしまったのだ。今から引き返すのも少しだけ付き合って帰るのも大して変わらない。そう判断して、一緒に店内へと入っていった。
 外から見ても分かってはいたが、店内には結構な人が居た。サスケには見たい物もなく、本当にただナルトの半額サービスの為の付き添いとして傍に居た。意外と時間の掛かった会計もこの混み具合ならば仕方がない。

 店に入る時には既に西に傾いていた太陽は、今は辺りをオレンジ色に染めていた。


「お前、そんなに買ってどうするんだ……」


 ナルトの手に持っている袋を見ながらサスケは呆れた。別に、ナルトだってそこまで沢山買った訳ではない。数は決まっていて、お一人様二つまで。二人で来ていたからこの際だと四つほど買っただけだ。それでも甘い物が苦手なサスケからすれば多いと思うわけだが。
 どうするのかと言われた答えに「そりゃぁ、食べるってばよ」と答えながら歩き出す。買ったのだから食べるのは当たり前だ。サスケだってそれくらい分かっている。


「一日では食べられないだろ」

「まぁ、今日と明日くらいには分けるってばよ」


 そうなると一日に二つという計算になる。一度に食べる訳でなければ、好きな人ならば普通に食べられる範囲だろう。サスケは、自分には無理な話だなと心の中で思う。
 途中までは帰る方向が同じである二人は自然と一緒に並んで帰る。色々な話をしながら。任務の話をしていたかと思えば、時々少し喧嘩口調になったりもして。気が付けば、あっという間に時間は流れていく。


「今日はありがとな、サスケ!」


 別れる場所までくるともう一度お礼を述べた。それに「別に」とだけ返すのは相変わらずのやり取りだ。時は夕方になり、時期に暗くなってくることだろう。


「じゃぁ、また明日な」

「おい、ナルト」


 挨拶をして帰ろうとした所で呼び止められた。「何だってばよ?」と立ち止まってナルトは振り返る。サスケは西の空を見ながら、大体の時間を計っているようだった。暫くしてナルトに向き直ると、漸く口を開いた。


「オレは、お前に付き合ってやったんだ。これから修行に付き合え」


 言われた言葉の意味を理解するのに、そう時間は要さなかった。ナルトもサスケと同じように、夕焼けに染まりだした空の方を見てからくるりとサスケに向き直った。それからニカッと笑う。


「おう! 望むところだってばよ」


 その答えにサスケも口角を上げた。とりあえず手荷物を置かなければどうしようもないからと、一先ずはナルトの家へと向かうことにする。それから演習場に行って修行だ。この時間ならまだそれなりに修行は出来るだろう。別に一人で出来ない訳でもないが、どうせなら二人でやった方が良いことだってある。
 そこから広がる会話は、この後の修行の話ばかり。「ドベでも居ないよりマシだろ」とサスケがわざとらしく言えば「何だと!」とナルトは闘争心を隣で燃やす。ナルトの家まで着くと、すぐに荷物を置いて演習場へ。


「よっしゃぁ、行くってばよ!」

「さっさとしろ、ウスラトンカチ」


 そう言ってまた言い争い。昔ほどではなくなったとはいえ、今でも喧嘩はする。ただし、一つ一つの小さなことに文句を言うような、昔のような喧嘩ではない。二人共、成長しているのだから当然だ。同じ班で任務をこなしていけば自然と変化が訪れる。
 ライバルとは、互いに競い合い高め合うもの。
 気が付けば隣には良きライバルが。仲間が。今となってはかけがえのない友の存在が在る。

 そんな二人の声が演習場に響くのは、もう少し後のこと。










fin