「それじゃぁね、先生」


 そう言って走って行く小さな子供達。走りながらこの後どうする、などという会話をしている。三人のうち、二人の男の子はどんどん会話をしていているが一人の女の子はあまり話していないようだ。それでもその話を聞いたり、時々話している姿を見ると楽しそうだ。
 そんな供達の後姿を二人――サスケとサクラは見送っていた。






 今日の任務はDランク。それを告げるとDランク続きということに文句をいう子供が一人。だけど、いくら文句をいっても任務を変えることは出来ない。言えば「ちぇー」と文句を言いながらも仕方なく任務を開始する。
 任務内容は草むしり。範囲はそれほど広くなく、手分けをしてやり無事に終えることが出来た。そして先程解散したところである。


「元気いいわね、子供って」


 いつも元気のいい子供達の姿を見て思わず零す。どうしてあんなに元気がいいのだろうか、と疑問に思ってしまうほどに子供というのは元気がいい。何か悩むこともあるのだろうけど、子供にあるイメージはやはり“元気がいい”だろう。桃色の髪を持つ彼女はその子供達の姿を微笑ましく見ていた。


「そうだな」


 彼女と同じように子供達を見ながら黒髪の彼も答える。子供達を見ていると、どうしていつも元気にいられるのだろうと疑問に思ったことは今までにも何度かあった。その度に聞いてみたい気もするのだが、聞いたところでまともな答えが返ってくるとも思わずに聞かないままだ。結局子供はどいつもこんなもんかということで片付けてしまう。


「ねぇ、私達もカカシ先生からすればあんな感じだったのかな?」

「どうだろうな。五月蝿かったのはナルトぐらいだろ」


 彼の言葉を聞いて「それもそうね」と彼女も答える。

 二人は昔、三人一組を組んでいたチームメイト。担当上忍は写輪眼のカカシと呼ばれているはたけカカシ。ほぼ毎日遅刻をし、任務を手伝うことも殆どなかった。それでも実力だけは三人が認めていた。
 チームメイトには意外性ナンバーワンといわれるうずまきナルトが居た。ドベだ馬鹿だと言われていたが、その内に秘められた実力はとても大きかった。そんな彼も今となっては上忍になり、生徒を持つ担当上忍をやっている。

 今此処にいる彼女は春野サクラ。幻術と分析のノウハウは七班の中で一番優れていた。チャクラコントロールにも優れていて、カカシに出された課題を一番に成し遂げたほど。彼女も今は上忍で医療忍者として活躍している。
 そして隣の彼はうちはサスケ。うちはの血を引く唯一の存在だ。忍者学校時代から成績がよくそれだけの実力もあった。七班でやっていくうちに仲間という大切なものを知り、今は上忍になっている。彼もまた、ナルトと同じく生徒を持つ担当上忍になっていた。


「でも、信じられないわよね。あの頃からしたら」


 今、自分達がこんな風にしていること。あの頃の彼等には想像も出来ないだろう。
 ナルトは火影になると夢を見て、サスケは兄へ復讐をするという野望を抱え、サクラはとにかくサスケが好きで未来図を考えていた。最初は喧嘩をしたり仲がいいとはいえなかったが、任務をこなしていくことで仲間という意識が高まった。今となっては他の誰よりも認められる仲間となっている。

 医療忍者や担当上忍。誰もが最初は夢見ていたもの違うものになっている。
 とはいえ、ナルトの火影へなる夢はまだ道の途中。このまま担当上忍を続けるかもしれないがその夢を捨てたわけではない。サクラの言う未来図というのもこうしてサスケと一緒になれて叶ったといえるのかもしれない。サスケの兄への復讐は、カカシの説得などから止めるという形になった。止めたけれど、復讐をしても何も残らないのだからそれで良かったのだろう。


「未来なんて分からないからな」


 未来は決まっているものではない。自らが選び進んでいくもの。誰も自分の未来は分からない。ただ、夢を追いかけ実現させようとすることだけは出来るのではないだろうか。いくら決まっていないとはいえ、それに向けて努力すれば夢が実現するかもしれない。


「私、サスケ君が担当上忍になるなんて思ってなかった」


 サスケは復讐を止めてナルトと互いに強くなりながら中忍、上忍へと昇格していった。いつも任務で実力も近かったりしたナルトと組んで戦っていた。サクラは医療忍者になった為、一緒に組む事はあまりなかたがそんな二人の姿を見るのが好きだった。
 ある日、ナルトが下忍を持つ担当上忍になると言った。同時にサスケもまた担当上忍をすると言って来た。話すことがあまり得意ではなく、子供の相手も得意ではないだろうという彼だったが、それでも下忍の子供達の担当上忍になることを決めた。
 それを聞いたサクラは、最初は驚いたもののすぐに応援すると言った。昔の様子からは考えられなかったことで驚いたのは確かだけど、サクラはサスケがやりたいのならやればいいと思った。何か思うことがあったのではないかと彼女なりに考えながら。


「オレも思ってなかったな」


 担当上忍をすることは、サスケ自身でさえ予想していなかった。それでも、その道を選んだのはナルトがなると言ったからだろうか。それとも自分達――第七班の担当上忍だったカカシを見ていたからだろうか。
 どうしてなのか、はっきりとはサスケ自身も分かっていなかった。けど、やってみたいと思った。話すことがあまり得意ではなく、子供も得意ではなかったけど。そこに何かがあるような気がした。だから、担当上忍になると決めたのだ。


「それって、やっぱりカカシ先生が関係してるのかな?」


 サクラの言葉に「さぁな」とだけ答える。いつも一番近くにいた先生。そして、ナルトやサスケからすれば一番近くに居た大人だったのかもしれない。いつも遅刻ばっかりで困った先生でも実力は誰もが認めている、そんな先生。その存在は少なからずとも影響を与えたのではないだろうか。サスケにも、ナルトにも。
 サスケはそんな風に言うけれど、サクラはそうじゃないかと思っている。困った所もあったけど、やっぱり良い先生だった。七班で過ごした時間は大きい。自分が七班で良かったと何度も思った。それは多分、サクラだけではないだろう。あんなに最初はチームワークもなかったメンバーだったはずなのに、今となっては最高のメンバー。出来ることならまた七班で任務をやりたいと思うほどだ。


「七班で過ごして色んなことを知ったり学んだり出来たと思うの。カカシ先生からだって、意外と教わったことがあるでしょ?」

「確かにな。あんな奴でも上忍だったからな」


 何気なく過ごしていた毎日だったかもしれないけど、カカシからは色々と教わっていた。チームワークの大切さ、仲間というものの大切さ、お互いの存在、自分の力。他にも沢山のことを教えてもらった。
 最初のサバイバル演習でチームワークについて教えてもらってから少しずつチームワークが出来てきた。木登り修行でチャクラの使い方を習い、チャクラコントロールを覚えた。それぞれに必要なこと、自分の力を極めること。遊びにみえたり簡単にみえるものが難しかったり大切なことだったりもした。担当上忍としてとても良い先生だったのではないだろうか。


「ところで、生徒達はどう?」

「見れば分かるだろ」

「私から、ならね。サスケ君からはどんな感じなの?」


 いつも元気な生徒達。サクラもその生徒がどんな子供達なのかを知っている。毎日ではないがよく会うから。それもサクラがサスケと結婚した今では妻という立場だからだろうか。任務はしなくても演習をしている時はその様子を眺めていることもある。
 そんなサクラから見ていると、サスケは生徒達にとって良い先生なんだろうと思う。演習では術を教え、分からないとなればコツを教える。サバイバル演習でやったような鈴取り合戦をすれば、生徒達はとても楽しそうにする。そんな様子を見て、生徒とサスケの関係はいいものだと分かる。自分達の先生が良い先生だったように、サスケも良い先生になっている。


「いつも元気で、Dランク任務ばっかりだと文句をいう奴もいる。けど、任務はしっかり取り組んでいる、という感じか」


 かつての自分達もそうだった。Dランク続きでナルトが文句を言いつつもその任務を行った。それを仕方がないと言ったのはサクラ。口には出さないもののナルトと同意見だったのはサスケ。けど、誰がどう言っても任務はどうこう出来るわけではない。どんな任務でも文句を言ったりしつつしっかりと取り組み、無事に終わらせていた。
 そんな自分達と同じように、Dランク続きでは文句をいう生徒もいる。自分もそうだったからかその気持ちが分からないわけではないが仕方ないと言い聞かせる。他の生徒も下忍なんだから仕方ないと言ったりする。誰でも雑用のような任務ばかりであればもう少しランクが高い任務をやりたいというものだろうか。


「そうなんだ。大変そうね」

「大変といえばそうだな」


 文句を言ったり騒いだり、喧嘩になることもたまにある。その度に大変だったりするのは確かだ。大変ではあるけどただそれだけではなかった。


「けど、アイツ等と居る時間が大切だと思う。カカシが暗部をやめてから、初めて試験に合格したオレ達の担当上忍を続けていたのも分かる気がする」


 どんな風に言ってもサスケだってカカシを認めている。カカシと中忍になってから任務を組んだことは何度かある。その時に聞いたことがあった。
 自分達が始めて試験に合格した生徒だということ。本当は今回も合格しないだろうと思っていたこと。合格したからはどう成長していくか楽しみになり任務をこなしていく上で大切な部下へとなっていったこと。暗部だった頃の自分からすればまさか自分が担当上忍をして、しかもそれを楽しんでいたり部下を大切にしていたりするなんて信じられないだろうと言っていた。


「やっぱり、カカシ先生って私達に色々教えてくれてたのね」

「そうかもしれないな」


 先程とは違い、疑問でも他でもなく認めている言葉。自分達に忍としてのことを教えてくれたのは紛れもなくカカシだ。忍者学校でイルカに教わっていたこともあった。けど、それ以上に下忍となって実際に任務を行いながら教わった事の方が大きい。実際に任務をしてからこそ教われるものもあるのだ。


「私達にとってカカシ先生が良い先生だったように、サスケ君もあの子達にとって良い先生になると思うわよ」


 なると思う。そう言ったけれど、本当はきっとそうなるのはずだと思っている。今だって良い先生と呼べるような先生なのだ。これからもっと任務をこなして生徒達と関わっていけば良い先生になるのは間違いない。サクラはそう信じながら、そうなるようにと願っている。いつだってサスケのことを一番に考えている辺り、彼が好きなのだとまた自覚する。


「お前はそう思うのか?」

「勿論よ! だから応援してるわよ、サスケ先生」


 いつも応援している。彼を実力や性格、優しさなどを知っている。彼の生徒である子供達もきっと分かっているだろう。
 彼を信じているから。彼のことを分かっているから。
 自分達にとっての先生のように。彼の生徒にとって、どんな他の先生よりも認めて信頼できる良い先生になるはず。










fin