「ねぇ、手繋がない?」

「は? 何でだよ」


 何でって、繋ぎたいから以外に理由なんてない。そのまま伝えれば、見るからに嫌そうな表情をされた上で「断る」と却下した。
 それに対して、カカシは「何で?」と疑問符を浮かべたが、何でもなにもあるかとサスケは言いたい。一体、ここをどこだと思っているというのか。


「こんな人に見られるような場所で誰がやるんだよ」


 二人は今、任務を終えた帰り道を歩いているところである。サクラはいの達と約束があるからと先に別れ、ナルトも今日はイルカ先生にラーメンを奢ってもらうんだとと走って行ってしまった。そして残った二人がこうして歩いている。
 帰り道というのは当然里の中であり、擦れ違う人の数は然程多くないとはいえ零ではない。当たり前といえば当たり前だ。


「じゃあ、人が居ない場所ならいいの?」

「そういう問題じゃねぇよ」


 人が居るとか居ないとかではなく、外でそういうことをしようとしているのがまずおかしい。かといって、家の中なら良いのかと聞かれても了承はし難いけれど。
 どっちも駄目ならいつなら良いのかとカカシは尋ねてくるが、そもそもサスケには手を繋ぐつもりがないのだ。ねえ、としつこく聞かれるから仕方なく「オレが良いって言った時だ」と答える。


「それっていつ?」

「さあな」


 ここまでくればカカシもサスケの考えていることが分かったのだろう。それは酷くないかと言えば、別にとぶっきらぼうな声が返ってくる。誰も絶対にしないとは言っていないだろうと。
 確かにそれはそうかもしれないが、サスケが良いと言うことなんてあるのかという話だ。つまり、絶対に手を繋げないということではないか。
 そう文句を付ければ「何でだよ」とサスケは面倒そうに言う。すると「それじゃあ絶対に言ってくれる?」なんて聞いてくるカカシはまるで子供のようだ。サスケは全く気にせずに「どうだろうな」とだけ返した訳だが。


「……お前、絶対言う気ないでしょ」


 減るものでもないのにと言うが、そういうことではないとはサスケの意見。
 サスケの返事は変わらないけれど、カカシも一向に諦める気配がない。お蔭でいつまでも話が平行線になってしまっている。はあ、と溜め息を吐いたサスケは呆れた表情でカカシを見る。


「アンタはオレにどうしろっていうんだよ」

「だから、さっきから言ってるでしょ。手を繋いで欲しいって」

「逆に聞くが、何でそんなに繋ぎたいんだよ」


 そこまでして手を繋ぐ必要がどこにあるのか。サスケにはさっぱり分からない。
 だからこうして質問したのだが、カカシは「んー……」と少し考えた後に「そりゃあ、繋ぎたいからでしょ」と、そのまんまの答えを返してくれた。全然説明になってないだろと言えば、そうだなと再び考えるようにしてカカシは漆黒の瞳を見る。


「あ、ほら。今日は寒いでしょ?」


 何だその明らかに今思いついたような理由は。
 思ったけれど突っ込むのも面倒になり、それとこれとがどう繋がるんだと聞く。そうしたら「だから手を繋げば温かいでしょ」と、先程よりは些かマシだと思われる答えになった。やっぱり子供みたいだと思いながら、本気かと聞けば本気だと言われて本日二度目になる溜め息が零れる。


「サスケもそう思わない?」

「思う訳ねぇだろ」


 えーと言われようが思わないものは思わない。同意を得られなかったから流石にもう諦めてくれないかと考えてみるが、カカシはまだ手を繋ごうよと繰り返す。どれだけ手を繋ぎたいんだ。


「いい加減にしろよ」

「サスケが手を繋いでくれるって言ったらやめるけど?」

「アンタな…………」


 たまに、本当にこんな奴が上忍なのかと思うことがある。だが、これでも本当に他国にまで名の知られている優秀な上忍だ。そして自分達の担当上忍、上司でもある。


「ねえ、サスケ」


 これはもう、一度だけでも手を繋いだ方が早いんじゃないのか。そう思ってしまったサスケは、暫しの間を置いてから「分かったよ」と諦めた。こういう時、折れるのは大抵サスケの方だ。


「え、本当?」

「嫌ならいい」

「嫌な訳ないでしょ」


 そうかよと答えれば、次いで「はい」と言って手を差し伸べられた。
 目の前に出された手に少し躊躇しながらも、サスケはその手を掴んだ。同時に、予想していたよりも低いその温度に思わず「冷てぇ」と零した。


「そういうサスケも冷たいけど?」

「アンタよりマシだろ」


 触れ合った時にサスケの方が冷たいと感じたのだ。サスケ自身の手も決して温かいとは言い難い温度だが、より冷たいのはカカシの手だということになる。大差ないと言われればそれまでだが、任務で外に居たから冷たくなってしまったのだろう。


「早く帰ろうか」

「その前に買い物しないとダメだろ」

「あれ? そうだっけ?」

「アンタ、家に何もなかったぞ」


 どうして家主よりもサスケの方が詳しいのか。それは単純にサスケがカカシの家で料理をすることが多いからである。
 カカシも料理が出来ない訳ではないのだが料理は苦手だ。サスケだって得意ではないのだが、カカシが料理をしたところを一度見たサスケがこれからは自分で作ると言い出すくらいには下手だった。それからは、二人で居る時は自然とサスケが料理をするようになっている。


「んー、じゃあこのまま商店街に寄って行こうか」

「金はアンタが出せよ」


 分かってるよと言いながら今日は茄子の味噌汁がいいなと、さりげなく夕飯をリクエストしてくるのがカカシらしい。分かったからさっさと行くぞと足を進めるサスケにカカシは小さく笑みを浮かべる。
 何ヘラヘラしてるんだよと振り返ったサスケに言われて「何でもないよ」と答えながら商店街へと向かう。きっと商店街まで着いたらこの手は離されてしまうのだろうけれど、繋いだ手からお互いの体温が混ざり合って徐々に手は温かさを取り戻す。


「サスケ」

「何だよ」

「好きだよ」


 言えば、だから場所を考えろと怒られた。けれど、赤くなった頬を見るとそれも微笑ましくなってしまう。しかし、口にしたらまた怒られそうだから思うだけに留めた。
 ふいっと前を向いて、だけどまだ手は離さないでいてくれるサスケがやっぱり好きだなと。カカシは心の中で呟くのだった。










fin




「サスケ狩三大祭り」様に参加させて頂いた作品で、テーマは『手』でした。