九尾のチャクラが溢れ出す。里を壊滅に追い込んだ力が今再び解放される。
強力な力、だからこそ誰もが欲しがった力。それでも手に出来なかったのは、その力を制御することが難しかったから。この九尾は、四代目火影が命と引き換えに封印することで一時を収めたほどの力だ。制御するのにはそれ相応の力を必要とした。
ナルトに封印された九尾の力が溢れる。止められないほどの力が、制御の出来ない力が溢れ出る。
どうしようも出来ない力を止めることは不可能。九尾を封印した四代目火影は存在しないのだ。無力の前に立ちはだかる壁。何も出来ずに止めることすら叶わない。
今、此処に。新たな力を解放する。
力の代償
あの時、一緒に居た仲間が己の名前を叫んでいた気がする。瞳には涙が浮かんでいて、泣かせたいなんて思っていないのに力を押さえることが出来なかった自分。その仲間とは、下忍時代から一緒に班を組んでいた春野サクラ。医療忍者になり、その力を更に伸ばしていた彼女が泣いていた。それも、全部己のせいだと分かっていて、止めたいと思っているのに出来なかった己が無力なものだと改めて実感させられた。
止まることのない力。止められない力。
サクラは勿論、同じ任務に就いていたはたけカカシにですら止めることは難しいことだった。流れる時間。増幅する九尾のチャクラ。それには、終わりなどないのかもしれないと思わされてしまった。実際に、止められなければ終わりはない。ナルト自身にもカカシにも難しいそれに終わりという文字はどこかに置いていかれていたようだった。
「なぁ、何でオレのことが分かるんだってばよ?」
ふと投げかけられた質問に、悩むようでもなくすぐに答えを返す。
「チャクラや気配ですぐに分かる」
簡潔に述べられた言葉に納得の声をあげる。本当にそれだけでもこんなにまで分かるのか、という疑問もあるが聞くより前に分かるものは分かるんだろうと自己納得する。そんなことを聞いても仕方がないことは、ナルトが一番よく知っている。大体、どれくらい長い付き合いをしているというのか。長い付き合いになればなるほど、よく分かってくるというものだ。
「けどさ、不便じゃねぇ?」
「別に支障はねぇよ。普段の生活にも、任務にもな」
そうでもなければ、今こうしていられもしないし任務も出来ないというようだ。不便は不便かもしれないが、支障がなければ問題ないということだろう。
本人はそう言っているが、ナルトはなんだか腑に落ちない表情をしている。それもこうなってしまったのが全て自分のせいだと思っているからだろう。いくらそうではないと言われたところで、少なからず関係していることは確かなのだ。
「でも、やっぱ大変だろ? 見えないって」
あまりにも何度も聞かれる言葉には、同じような答えがいつも返ってくる。決まって同じ内容で、他の答えというのはないと示しているようだ。
「何度も言ってるが、お前のせいじゃない」
しっかりと顔を見て言われた言葉。けれど、その瞳に映る色彩はもう色褪せてしまっている。何も映すことが出来なくなってしまっているのだ。いくらナルトのことを見ているといっても、実際に彼にその姿は届いていない。生を失った瞳は、輝くこともなく同じ色を一定に保ちつづける。
もう己の姿は彼に届くことはない。
その事実がどれだけ衝撃的で、どれだけ辛い事実だったのか。それを知った時、文句を言い、自分を責め、謝った。でも、彼は謝罪を必要とせず、自分を責めるなと言う。これも全ては自分が決めたことだからと。
「お前は……サスケはそう言うけど、元はといえばオレが九尾の力を抑えられなかったからだってばよ」
真っ直ぐ顔を見ていられなくなって、視線を逸らしてしまう。小さな行動で彼――サスケの瞳には映っていないはずなのに「違う」とナルトを見ながら話を続ける。見えていないはずなのに、サスケにはナルトの行動が分かっているようなのだ。
それは、光のないはずの瞳に光があるかのように思わせる。
見えていないようで本当は見えているのではないか。そう思ってしまうほど、ナルトの行動によく気付くのだ。チャクラや気配などということの問題ではないほどで、ついそう思ってしまうのだ。唯一、瞳に映らないことを示している瞳の色彩がなければ、本当は見えているのではないかと思ってしまう。
「お前が悪いわけじゃない。九尾をコントロール出来るのは、うちはの持つ写輪眼だった。たったそれだけのことだ」
九尾をコントロールする。それが可能なのは、うちは一族の写輪眼という血維限界だ。
万華鏡写輪眼。九尾をコントロールことが出来る唯一のもの。その代償に失明していく瞳。
あの時、どうしようもなかった九尾の力。それをどうやって止めたのか。終わりの見えない未来に、どうやって終止符を打つことが出来たのか。
それも全ては“九尾”と“うちは”という関係。うちはの血維限界である写輪眼を持つ正統血統者。カカシの写輪眼では、友からの贈り物で正統なものではない為にどうすることもできなかった。けれど、サスケはうちは一族の生き残り。九尾をコントロール出来る力を手にしていた。その力を持って、ナルトの九尾を抑えたのだ。
突然現れたかつての仲間という存在に驚き、その新たな力に驚く。九尾の力が抑えられ、傷だらけのナルトを治療する為にサクラは医療忍術を使う。一方で、写輪眼の力を使い膝を突いたサスケの元にカカシが向かった。カカシとは違い、サスケは写輪眼を使って体力を急激に消費することはない。それなのに、その力を使って膝を突いた様子にカカシは疑問を浮かべた。
明らかに様子がおかしかったサスケが失明したと分かるまでに、あまり時間はかからなかった。
「その九尾がオレの中に居るんだから、絶対にオレのせいじゃないなんてことはないってばよ」
「ナルト」
自分のせいだと言いつづけるナルトにサスケはその名を呼ぶ。静かに呼ばれた聞き慣れた声に、ナルトは自然と視線を戻す。
「お前がそんなことを考える必要はない。写輪眼がなければ、九尾をコントロールすることは出来ないんだ。たとえオレが失明しても、それは九尾をコントロールする為の代償。これは宿命でもあれば、必要なことでもあるんだ」
冷静に話される一つ一つの言葉が、体中に響き渡るような感覚がする。サスケの言う通り、九尾をコントロールするには写輪眼を必要とする。その代償が失明というのも、大きな力を手にするのだから仕方がないこと。これが宿命であるのは確か。そして、また九尾を抑えられなくなった時には絶対に必要となる力なのだ。
いくらナルトが自分を責めても今更どうにかなる問題でもなければ、こうでなければいけないことなのだ。それを本人からしっかりと聞かされて、納得せざる終えない。ナルト自身、これを認めてまた前を見ていかなければいけないと思い直す。
そう考えて「分かったってばよ」と言えば、サスケも「そうか」と言う。やっと納得したのかと思えば「だったら」と言葉を続ける。
「だったら、オレがお前の目になるってばよ」
突然の物言いにサスケは驚く。支障はないのだから大丈夫だと言えば、そういう問題ではないと話す。
「そりゃ、お前なら殆ど支障もないと思うってばよ。だけどさ、やっぱ大変なこともあるだろ? だから、オレがお前の目になるんだってばよ」
文句ないだろ、というように言えばそれに続けるようにしてサスケも話す。
「元々この眼は九尾をコントロールするものだしな……。オレは、お前と一緒に戦ってやる。この眼を持って、お前を守ってやる」
言い終わると笑みを浮かべた。それにつられるように、ナルトも笑みを浮かべる。
昔から、言葉なんて必要なかった。言葉にするより前に分かっていたのだ。二人が互いに相手のために動くことを選ぶ。下忍になった頃から、いや、忍者学校に入った頃から。互いの存在を知った頃から、知らず知らずのうちに意識していた。気付かないうちに、相手のことばかり気にするようになっていた。
今はとなっては、互いに相手のことが必要な存在となっている。九尾やうちはのことはなしとしても、二人は互いを必要としている。いつのまにか、誰よりも大切な存在となっていたのだ。
これから、二人で一緒に歩んでいく。
どんなに困難な道でも、ナルトとサスケなら乗り越えていけるだろう。二人の力を一つに合わせ、大きな力となり歩んでいく。それが、ライバルであり親友であり、誰よりも大切な相手であるからこそ出来ること。
この先にあるはずの未来を、二人で切り開いていく。
fin
385話の突発小説でサスケが失明する話でした。