隣同士に並んで
今日も相変わらず担当上忍は遅刻をし、それからやっと任務に入った。内容はDランクの落とし物探し。簡単だと思われた任務だが、捜索範囲が広い為に気が付けば太陽が西に傾き出している。
「あーもう! どこにあるんだってばよ!!」
森の中に響き渡る声。ゴロンと寝そべったナルトを見ながら、横では溜め息を吐きながらゆっくり腰を上げる。
「いいからさっさと探せ、ウスラトンカチ」
特有の呼称で名前を呼ばれ、ガバッと起き上がる。
「んなこと言ったって、こんなに探してんのに全然見つからないしさ。動物とかが持っていったんじゃねぇの?」
「知るか。だが、見つからないと任務は終わらないだろ」
いくら見つからないとはいえ、ありませんでしたで済む訳がない。任務である以上、見つかるまで探すしかないのだ。とはいえ、朝から探しているというのになかなか見つからない現状。ついそう言いたくなってしまうのも無理はないかもしれない。
「サクラちゃんやカカシ先生の方は見つかったかな……」
「見つかったなら連絡が来るだろ」
「つーかさ、何でいつもオレとお前がペアなんだよ」
「それはカカシに言え」
今回、捜索範囲が広いという理由で二手に別れて探している。ペアを決める際、いつも通りにナルトとサスケ、サクラとカカシと自然な流れで決められた。
何でも、これが一番バランスの良い分け方らしい。最初こそ文句を言っていたが今では諦めている。何を言おうと変わらないのは分かりきっているのだ。
「最近Dランク任務ばっかりだし」
「確かに物足りないが、それとこれは別だ。喋ってる暇があるなら手を動かせ」
「つってもさ、あと探してない所なんてあるのかってばよ?」
依頼主である大名の娘が通ったと思われる場所は二手に別れながら探してきた。ここまでくるとナルトの言うように何かが持っていってしまったか、又は見落としたかの二択だろう。
「この辺りになければ、戻りながら探すしかないな」
言えばナルトは明らかに嫌そうな表情を見せて文句を言い出す。口にはしなくとも正直サスケも同じ気持ちだ。誰が好き好んで帰り道まで探し物をするのだろうか。彼等にはそれが任務であるけれど。
とりあえずこの近辺を捜索するが見つからず、諦めて戻りながら再び捜索にあたる。あちこち探し回り、段々と外は暗くなってくる。
「あー!!」
急に聞こえた声に、反射的にそちらを振り向く。大声を出したナルトの目の前には一匹の猫。
「サスケ! そいつが持ってるのは……!」
「あぁ、依頼の物で間違いなさそうだな」
猫がくわえている髪飾りこそ、今回探して欲しいと依頼された品物だ。大きな声に驚いたのか、猫はいきなら走り出す。動き出したターゲットを捕えるべく二人は視線を交わす。
それからはあっという間。息ピッタリのコンビネーションですぐに猫を捕らえ、髪飾りを入手した。
「よっしゃー! 任務完了だってばよ!」
髪飾りを返してもらうと猫はそっと話してやる。「もう悪さするんじゃねぇぞ」と後姿に声を掛ければ、猫はさっさと行ってしまう。
そんなナルトを横目に見ながら、サスケはインカムを使って連絡を取る。こっちで依頼品が見つかったと簡単に伝え、ナルトに向き直る。
「最初の場所に戻るぞ。カカシ達とはそこで合流する」
「おう」
そう話すと最初の地点へ向かうべく道を戻って行く。暫くして合流地点に辿り着くと、まだサクラ達は来ていないようだった。だが時期に来るだろうということで、二人は適当にサクラ達が来るのを待つ。
待っている間は特にやることもなく、暇になったナルトはサスケに声を掛けた。
「にしてもさ、よく髪飾りなんて落としたよな」
依頼品を手にしてみるが、小さいから落としてしまうのも無理はないといえばそうだ。けれど、髪飾りといえば普通は髪につける物。髪に付けていたならなくならないだろうとナルトは思う。付けていなかったのなら無くしてしまうのも仕方がないが、任務の話を聞いた限りそういう訳ではなさそうだった。
「ちゃんと留まってなかったとかか?」
「途中で外れたという可能性もないとは言い切れないと思うが」
「そういうもんかってばよ?」
「オレに聞くな。そういうことはサクラに聞け」
サスケがそう言えば、ナルトも確かにと納得する。特に髪が長い訳でもない二人が髪飾りを付けたりはしない。第七班でそういう物に縁があるといえばサクラだ。やはり女の子だから、髪のこと等は知っているだろう。
「でもさ、こんなに色々ついてて重くねぇのかな?」
「だからオレに聞くな。何なら、お前が試してみれば良いだろ」
「いや、いくらなんでもそれは無理だと思うってばよ」
じゃらじゃらと端についている飾り物の数々。一つ一つが小さいとはいえ、これだけあればそれなりの重さにはなるのではないだろうか。手で持っている分にはそこまで感じないけれど、これを付けるとなればまた別ではないかという疑問が湧く。それもただ待っている時間に何もやることがないからだろう。
付けてみれば分かるとはいえ、髪留めを付けるほど髪は長くない。だから無理だと話すナルトだが、サスケはその手から髪飾りを取ると器用にそれを付ける。
「意外と似合うものだな」
一言そう感想を述べたサスケに、ナルトは声にならない言葉を発している。徐々に赤く染まっていく顔を見ながら、サスケは口元に弧を描く。
「それで、髪飾りは重いのか?」
「誰もオレに付けろなんて言ってないってばよ!」
「その方が早いだろ」
「そーゆー問題じゃねぇってばよ!!」
先にその話題を振ったのはナルトだ。けれど、わざわざこんなことまでして知りたいなどとは思っていなかった。というより、まさかこんなことをする羽目になるなんて予想外だ。
やたらと騒いでいるナルトを見て、その髪に付けた髪飾りをそっと外す。依頼品を片手に持ちながら、それとナルトを見比べて一言。
「だが、やっぱり何も付けていない方が良いな」
そう言い切るサスケの言葉に、ナルトはまた顔に熱が集まるのを感じる。「あーもう!」と視線を逸らしたのをサスケは小さく笑みを浮かべながら見つめる。
それから暫くするとサクラ達と合流した。カカシに依頼品を渡し依頼主まで届けると、本日の任務は終了となった。もう空には星が光り出している。報告に行くからと瞬身の術で行ってしまったカカシに続くようにサクラも家路に着く。残った二人はどちらともなく足を進める。
「なぁ、サスケ」
「何だ」
一緒に歩いているのはただ方向が同じだからという理由。といっても途中までだけれども。いつもなら他のメンバーも同じ道の時は一緒に帰るのだが今日は時間も時間だ。
「今日もう遅いしさ、一楽でも行かねぇ?」
確かに夕飯はまだ食べていないし、この時間なら丁度良い頃だろう。サスケは兎も角、ナルトはこのまま家に帰った所で即席ラーメンを作って食べるだけだ。それならば寄り道して行かないかという話だ。どうせご飯を食べるなら、一人より二人でと遠回しに言っているのは、きっと伝わっているのだろう。
「またラーメンか」
「ラーメンはいつ食っても美味いってばよ。ほら、行こうぜ!」
「……仕方ないから付き合ってやる」
一歩前を歩き出したナルトに、サスケは溜め息を吐きながらも後を追う。
一楽に向かって二人で歩いて行く。何気ない話をしながら楽しい一時を過ごす。
そんなオレ達の関係。この先もずっと、隣同士に並んで。
fin