進路とは人それぞれで行き先は皆バラバラ。自分の将来に向けて歩き出していく。卒業式では涙を流す生徒も居たけれど、最後は皆で笑って別れたあの日。
 桜舞う季節も終わり、気温が高くなり暑さが増してくる季節が近付いてくる。新しい学校生活も数ヶ月が経とうとしていた。






 別の学校に通っていてもそれまでの友達との交友関係がなくなる訳ではない。時には連絡をしたり、予定が合えば一緒に遊びに出掛けたりもしている。同じ町に住んでいるのだから偶然ばったり、なんてこともあったりする。


「サスケ!!」


 呼ばれて振り返った先には見慣れた金髪。ついこの間までは同じ学校に通っていた友人だ。


「騒ぐな、ウスラトンカチ」

「なんかそれも久し振りだな。元気にしてたかってばよ?」


 こうして二人が会うのは卒業して以来だ。二人共別の学校に進学し、なかなか会う機会はなかった。ナルトの方は色んな人に連絡をしたり時には遊びに行ったりしているようだが、サスケは元々遊びに行くのが好きでもなければ自然と関わりがなくなっていく。
 今日もナルトの方から連絡をして来て、漸く約束を取り付けることが出来たのだ。ただ単にサスケが人混みは嫌だからと断ったのではなく、忙しくて時間が取れなかった為になかなか会うことが叶わなかった。


「お前ってば連絡しても毎回ダメっていうしさ」

「仕方ないだろ。そういうお前は相変わらずそうだが、大丈夫なのか?」

「平気だってばよ! それくらいオレだってちゃんとやってるぜ!」


 何に対して大丈夫なのかと問うたのかといえば、勉強面についてだ。宿題を見せて欲しいと頼んだり、テスト前には勉強を教えて欲しいと言っていたナルトだ。今はどうなのかと尋ねれば、問題ないということらしい。本人がそう言っているのであれば大丈夫だろうとサスケも考える。
 それより、と言って話を切り出したのはナルト。


「とりあえず、そろそろ行かないかってばよ?」


 ただ突っ立って話していてもしょうがない。サスケもそれに頷くと、二人で並んで足を進める。卒業してからの数ヶ月程度では身長も何も大差なく、今まで通りのペースでどちらともなく同じ歩幅で歩いて行く。
 出掛ける時にどこに行くかというのは大体はナルトが決めている。サスケは自ら出掛けようとしないくらいなのだからどこでも良いという話で「どこに行きたいか」ではなく「どこに行こう」と誘うようになった。勿論、今日これから行く場所も全部ナルトが決めている。


「それにしてもさ、大学ってどんな場所かと思ったけど意外と普通?」

「そんなに変わったりはしないだろ」


 高校も大学も勉強をしに行く場所だ。違いはあれど根本的なところは同じようなものだろう。小学校から中学校へ、中学校から高校へと進学する時の感覚と似たようなものだ。きっと進学したらこうなんだろうなと思い描いているものと、実際になってみたらそこまででもなかったというやつだろう。


「そういやこの間さ、キバ達と遊んだんだけどさ。サスケはどうしてるかなって話になってんだってばよ」


 次に出てきたのは高校時代の友人の話。ほら、お前にも連絡しただろと言われて数週間前に来た電話のことを思い出す。その時はサスケは用があって断ったのだが、他のメンツは集まって遊んでいたらしい。


「どうしてるも何も、別に変わらないな。その時は課題が忙しかったが」

「元気そうだったとは言っておいたけど、本当サスケってば忙しそうだよな」


 実際に忙しいから今日久し振りに会うことが叶った訳だ。忙しいだろうことは入る前から分かっていたことだし、その勉強をする為に選んだのだから充実した日々ではある。ナルトからすれば忙しすぎて少しはゆっくり出来ないのかと思うけれど、サスケには合っているのだから良いのだろう。
 そんなことを話しながら、二人は目的地に着く。今日やって来たのは水族館。なんでも、テレビで見たイルカショーが気になって実際に行ってみたくなったそうだ。

 パンフレットを片手に色んな水槽を見ながら、ショーを見たりしている内に気が付けば空はオレンジ色に染まっている。


「久々にサスケと遊べて楽しかったってばよ!」


 帰り道。ナルトは笑いながらそう話す。ナルトが見たいという場所を順にあっちこっちへと見て歩いた。久し振りに二人で過ごす時間はとても楽しくて、あっという間だった。楽しい時間ほど時が早く感じるとは正にこういうことなのだろう。朝早くから集まったというのに、もう夕方になっている。


「なぁ、今度はいつ空いてる?」

「事前に分かるものでもないだろ。またどこかに行くならその時に連絡をしろ」


 言えば「えー!」と不満そうな声が返ってくる。そうやって何度も断られているとナルトは主張する。確かにそれはそうなのだが、先の予定は分かるものではない。ある程度なら分からなくもないが、いつと聞かれて答えられる程ではない。その都度連絡をして貰って答える方がやりやすいのだ。
 けれど、それではまた断られる可能性が高いということはナルトも分かっている。そんなことを言っても仕方がないのだが、思ってしまうものは思ってしまうのだ。


「だって、それじゃぁまた無理とか言うだろ? オレはサスケとも遊びたいってばよ」

「他の奴等も居るんだから問題ないだろ」

「そりゃぁそうだけど、やっぱりサスケと一緒が良いんだってばよ」


 遊びに行こうという話になるとすれば、その時は高校の友人達と一緒にということが多い。今回はナルトが電話をしていつなら空いているんだと尋ねた時、次の休みは空いていると言われて急な予定だった為に二人だけで出掛けたのだ。
 だが、ナルトとしてはサスケともっと一緒に過ごしたいと思うのだ。勿論、他の友達を含めて皆で遊ぶのは楽しい。けれど、それ以上に二人で過ごしたいと思っている。


「大学も楽しいんだけど、サスケが居ないから寂しいんだよな」

「それはどうしようもないだろ」

「でもさ、もうちょっと勉強頑張れば同じ学校に行けたかなって思うとさ」

「お前はお前のやりたいことが出来るんだから、これで良かったんじゃないか」


 サスケの言うことは尤もなのだが、同じ大学であったならもっと頻繁に顔を合わすことが可能だったかもしれない。進路を決める時、同じ学校に行けないかと勉強に付き合って貰ったりもしたのだが、最終的に二人は別の進路に進んだ。レベルを下げる分には学力的に問題ないとはいえ、上げる分にはそれを続けるのが大変だから。やりたいことが出来るのならそれで良いだろということになり、別の大学に通っている。
 今になって思えば、あそこで諦めずに努力した方が良かったとナルトは考えている。今更そんなことを思ってもどうにもならないが、なかなか会えないからつい考えてしまうのだ。


「サスケに会えないのがこんなに辛いとは思わなかったってばよ」


 そう、ナルトが誰よりサスケと一緒に過ごしたいと思っているのはこういうことだ。ナルトにとって、サスケは大切な友であると同時に大事な恋人でもある。大学に入れば忙しくなり会えないこともあるとは分かっていたけれど、まさかこんなに会えないとは思っていなかったのだ。久し振りに会えるのなら二人で過ごしたいと、他の友人には連絡を入れずに今日一日を共に過ごすことにしたのはここだけの秘密だ。


「なぁ、サスケはオレに会えなくて寂しいとか思わないのかってばよ?」

「お前が頻繁に電話を掛けてくるからな」


 会うことは出来なくても連絡を取るくらいなら簡単に出来る。だから、ナルトはサスケとよく連絡を取り合っている。メールをすることもあるが電話の方が多い。それは声を聞きたいからという理由から。どうせ連絡をするのなら、せめて声だけでもと電話を選択するのだ。


「それはそうだけど、電話だけじゃなくて会いたいとか思わねぇの?」


 電話で話は出来るけれど、実際に会うのと声だけなのとでは違うだろう。ナルトからすれば、本当は電話だけじゃなくてもっと会いたいのだ。会って近くで触れ合って、機械越しではないちゃんとした声を聞きたい。常にそんな風に思っている。
 考えてみれば、サスケから電話をしてくることはない。それは忙しいからでもあり、ナルトか電話を掛けるからでもある。もしかしてサスケは同じように思っていないのかと、つい悪い方に思考が傾く。
 急に黙ったナルトに、また何か変なことを考えているなとサスケは悟る。普段は前向き過ぎるくらいだというのに、どうしてこういう時はと思いつつ、ゆっくり口を開いた。


「会いたいと思っていなければ、時間を作らないだろ」


 発された言葉に碧い瞳が大きく開かれた。丁度今の時期はテストがあったり課題があったりと、比較的学生は忙しい時期だ。大学に入ってから忙しくて会えなかったサスケとそんな時期に約束が出来たのは、なんとか時間を作ろうして作ったからに他ならない。
 つまり、ナルトの為に今日一日時間を作ってくれたのだ。それを理解すると、ナルトは思いっきりサスケに飛びついた。あまりの勢いに倒れそうになるのをなんとか堪えると、慌てて離そうとする。人通りの少ない場所とはいえ、ここは公共の場である。


「このウスラトンカチ! ここがどこだか分かってるのか!?」

「だって、サスケがオレのことをそんなに考えてたなんて凄く嬉しいってばよ!」

「分かったから、とりあえず離れろ!」


 なんとかナルトを引き離すと、サスケはふいと横を向いてしまった。少し早足で歩いて行くのを慌てて追い掛けて、機嫌を損ねてしまったとナルトは謝罪の言葉を掛ける。ごめんと何度か繰り返すものの返事はなにもない。
 さっきのはやりすぎてしまっただろうかと考えながら、ナルトはあることに気が付いた。そして微笑みを浮かべると、周りには見えないようにそっと頬にキスを落とした。


「お前な……!」

「分かってるってばよ。たださ、今日寄って行っても良い?」


 尋ねると少しの間を置いてから「好きにしろ」と返ってきた。それが了承の返事であると分かっているナルトは、嬉しそうサスケの手を引いて歩く。人通りの少ない場所まで来ているし、あとちょっとの家路くらいならとその手を握り返して二人で家までの道を歩く。
 赤く染まっていた耳は、先程の口付けで更に赤みを増して頬にも朱が浮かんでいた。機嫌が悪かったのではなくただ恥ずかしかったのだとナルトは気付いたのだ。


「久し振りにサスケの料理が食いたいってばよ」

「野菜もちゃんと食えよ」


 その単語を聞いた途端に苦い表情を見せたナルトだったが「分かったってばよ」と力なく答えた。そんな様子に小さく笑みを浮かべながら、サスケは何を作ろうかと冷蔵庫の中身を思い出しながら考える。
 漸く重なった休みに約束をした二人。朝早くから一緒に出掛けて、夜遅くまで共に過ごす。この時間を大切に、出来る限り一緒に居よう。今日一日は二人の世界。幸せの時間。


 ――今度はいつ会えるんだってばよ?
 ――さぁな。いつが良いんだ?
 ――んー……明日?
 ――ったく、そんな急に言われたってこっちにも都合があるんだが。


 そんな風に言いながらも時間を作ってしまう。それは、やっぱり大好きな君に会いたいと思っているから。そう都合よく毎回すぐに会えるという訳ではないけれど、出来る限り会えるように時間を作ろう。

 君に会いたい想い。
 溢れる想いを抱えて、会った時にはそれまでの分も目一杯過ごそう。










fin