今日の分の仕事を終えて電車に乗り家へと帰る。街中から少し離れた場所にある自宅の周りは静かで暗い。街頭も少ない所なので逆に騒がしくもなくて過ごしやすくもある。
人も殆ど通らない道を歩いて家へと向かう。誰も居ない家に電気をつけ、荷物を片付けると適当な所に座る。
時刻を渡った贈り物
仕事から帰ったサスケはリビングで過ごしていた。テレビをつける気にもならず、椅子に腰をかけて休憩をする。どうせ休むなら布団に入ってしまったほうがいいのではないかとも思うけれど、そうしようとも思わなかった。
それから、どれくらいの時間が経ったのか。外は相変わらずの静かさを保っていた。明かりも月の光と空に光る星たちのものくらい。変わらない空間の中で玄関の方からガラッとドアを開ける音が聞こえた。
それが誰なのかは見なくても分かっている。なぜなら、今この家に住んでいるのは二人だけなのだから。
「早かったな」
リビングに入ってくるとほぼ同時に声をかける。別に驚く風でもなく、仕事帰りに持っていた荷物や着ていた上着を片付けながら返事をする。
「今日は仕事がいつもより少なくてな。その分早く終わったんだ」
荷物を全て片付け終えるとイタチはサスケとは向かいの席に座る。自然とやっている行動であるが、よく考えてみるとこんな風に座るのは久し振りかもしれない。
ここ最近、イタチはずっと仕事の都合で夜が遅かったり朝が早かったりとなかなか一緒になる機会がなかった。顔を合わせてもこんな風に座ったりはしなかった。そう考えれば、自然のこととはいえ久し振りのことでもあった。
「珍しいな。兄貴の所は増えることはよくあるけど」
「オレとしては、たまにはこういう日があってもいいと思うんだけどな」
確かに毎日仕事が多いのもそれはそれで大変だ。仕事が入ってくるのは仕方ないにしても、たまには遅くなったりもしない日が欲しいと思ってしまうのも無理はない。
イタチの通っている会社は、大規模で仕事の量も半端ではない。一方、サスケの方も少ないわけではなく他よりは多いにしてもイタチの所ほどではないといったくらいだ。
「毎日遅くまでも大変なものだ」
「だろうな」
自分が体験していなくてもその仕事の量は想像出来る。それを思うともう少しなんとかならないのかとも思うが、仕事が減って困るのも事実。この業界でもトップクラスというだけあるが、人員はサスケの通っている会社の方が多いのではないだろうか。あと何十人でも増やせば楽になるのではと思わなくはないが、それも都合があるのだろう。
「今日はいつもより早いとはいえ、早いとは言いがたい時間だな」
ふと、時計の方を見る。その視線につられるようにしてサスケも時計を見た。あと数分で深夜零時になりそうなところだった。
時計で時間を確認すると同時に、サスケは近くにあったカレンダーに気付く。普段はあまり見ることもないけれど、偶然目に入ったのはその日付のせいだったのだろうか。カレンダーを見た後、もう一度時計を見てから視線を戻した。
「早いだけマシなんだろ? なら、少しでも体を休めろよ」
「それもそうだな」
会話を続けながらも時々時間を確認する。気にされないような程度に間を考えながらも一秒ずつの秒針に一分ずつを刻む長針の動きを数えていた。
秒針と、長針、短針。
全ての針が揃った時。それは、日付が変わることを示していた。
「兄貴」
その瞬間。ピッタリと合わさった時に言葉を発した。
針が揃うのを、日付が変わるのを待っていた。今この時、伝えるべき言葉を告げる。
「誕生日おめでとう」
変わったばかりの日は、今日が六月九日になったことを教えてくれる。それがイタチの誕生日であることはサスケだけではなくイタチ本人にも分かっただろう。
なったばかりのその瞬間に、祝いの言葉を贈ったサスケにイタチは優しく微笑む。
「ありがとう」
お礼の言葉を聞き終えると、椅子から立ち上がりそのままサスケはイタチに軽くキスをした。その突然の行動にイタチは驚く。サスケは頬を少し赤く染めながらも視線を逸らしながら口を開いた。
「何も用意してなかったから、その代わりのプレゼントだ」
恥ずかしながらに言い終わった時には、さっきよりも頬が赤く染まっていたようだった。その言葉で、サスケのした行動の意味を知ったイタチは嬉しそうな表情をしながらもう一度「ありがとう」と告げる。
時が変わるその瞬間。三つの針が重なったその時。
日付が渡り、次の日になる。
六月九日。大切な兄の誕生日。弟が贈り物に選んだのは、お祝いの言葉と甘い口付け。物として形には残らないけれど、兄にとっては大切な弟が用意してくれた素敵な贈り物をとても嬉しく思う。
HAPPY BIRTHDAY