同じ東都に住んでいるんだ。偶然、どこかで擦れ違うことがあっても不思議ではない。
 けど、怪盗家業は既に引退済み。向こうはこっちの顔を知っているわけじゃない。街中でばったり出くわしたところでやり過ごせるだろう、という考えはあの名探偵相手に楽観的すぎた――いや、幼馴染みの性格を失念していたオレのミスか、と快斗は胸の内で零した。


「おい」


 これまで何度も聞いていた声より低くなったテノールが呼ぶ。ちら、と視線を流すと見覚えのあるブルーサファイアにぶつかった。


「こんなとこで何してたんだよ」

「……さっき青子と蘭ちゃんが話してるの聞いてなかった?」

「それ、素顔なんだよな」


 人の話を聞く気があるのか、なんて聞くだけ野暮だろう。幼馴染みたちが二人で盛り上がりはじめたのをいいことに、彼は完全にこちらに照準を合わせたようだ。
 探偵はみんなこうなのかと呆れたくなるが、彼の場合は白馬と違って根拠という根拠は持っていないはずだ。だが、見るからに確信を抱いていそうな東の高校生探偵に快斗は溜め息を吐いた。


「何のことだかさっぱり分かんねーけど」

「オメー、オレから逃げられると思ってんのか?」


 鋭い瞳が快斗を射ぬく。自信たっぷりな表情は小さかった頃と変わらない。いや、まだ小さい時の方が可愛いげがあっただろうか。
 さて、どう答えるべきか。思考を巡らせたのは、僅か数秒。


「お望みとあれば?」


 そっちこそ、逃げ切れないと思っているのか。
 探偵のまとう空気に当てられた快斗の口元には自然と弧が浮かぶ。正に売り言葉に買い言葉。だが、彼なら当然乗ってくるだろう。何せ快斗自身もそうだから。


「上等じゃねーか」


 案の定乗ってきた名探偵はやる気に満ちた目を快斗に向ける。瞬間、胸の底から沸き上がる久しい感覚。
 ――やっぱり名探偵はこうだよな。
 それが、白き衣装に身を包んだ快斗がかつて対峙した少年だ。懐かしい感覚が胸を占めるのを感じながら快斗はふっと、空気を和らげた。そのことに敏感に反応した工藤が怪訝そうな顔をするのを見た快斗は思わず笑う。


「誰と勘違いしてんのか知らねえけど、これも何かの縁だろ。よろしくな、工藤」

「……ああ。よろしくな、黒羽」


 そう話していたところで「快斗!」と幼馴染みに呼ばれる。どうやら気の合った彼女たちはこのまま一緒にお茶に行かないかという話になったらしい。
 軽くお互いを見た俺たちはどちらともなく頷いて四人で歩き出した。楽しげな彼女たちとは対照的な工藤の雰囲気に笑いをこらえながら、どうするかなと考える快斗は胸が踊った。

 これは、ただの高校生の黒羽快斗が同じ高校生の工藤新一と出会った時の話。







これが本当の俺たちの出会い