「やっぱりこの時間に帰ると外真っ暗だよなー」
放課後になり完全下校の時刻も過ぎた時間。普段ならとっくに帰っているところだが生徒会の仕事があった為、今日はこんな時間まで残っていた。生徒会の仕事は、割と早く片付くこともあればこうして遅い時間まで残ることもある。学園祭の前などは毎日のように遅くまで残ったりもする。
とはいえ、今の季節は冬。今回帰りが遅くなったのは普通に仕事が終わらなかったからである。
「外は暗いし寒いしで帰るのが嫌になるぜ」
「冬だから仕方がないだろ」
冬だから当然と言ってしまえばそれで終わりだ。だが、それでも寒いものは寒い。暗いのは良いとしても、この寒さはどうにかならないものだろうか。そう簡単に気候が変わる筈もなければ、冬なのに暖かいなんてことがあれば異常気象だと騒がれることだろう。
分かっていても暖かくならないかなと思うけれど、それは春まで待つしかないだろう。春夏秋冬の四季があるこの国では、冬は寒いものなのだ。
「でもさ、シルバーだって寒いものは寒いだろ?」
「どうしようもないんだから諦めろ。余計に寒くなるだけだ」
「つったって、寒いんだからしょうがねぇだろ」
だから寒いと言うな、と繰り返す。はいはいとゴールドは頷いたが、どうせまた言うだろうことは目に見えている。思わず溜め息を零せば、幸せが逃げるぜなんて気楽なことを言ってくれる。誰のせいだと思っているんだとは心の中だけに留めた。
「あ、コンビニ寄ろうぜ」
前方にコンビニを見付けるとゴールドはそんな提案をしてきた。
下校中にコンビニに寄るなんて、とこの場にクリスが居たなら咎めたかもしれない。生憎その幼馴染は用事があるからと先に帰ってしまった。生徒会の仕事の途中で抜けてしまったことから、次の時はその分もやると言っていたが大丈夫だと答えたのは数時間前。二人は最後まで残って仕事をしていた組だ。
「行きたければ勝手に行って来い」
「けど外で待ってるのは寒いだろ。それなら一緒に行こうぜ」
別に待ってやる必要もないのだが、一緒に帰っている途中で置いて行くという気は起きない。それでもコンビニで買い物をする数分ぐらい外で待つことはどうってこともないのだが、店内は暖かいだろうからとゴールドは誘う。どうせ一緒に入っても買う物もなくて困るんだがと口にすれば、それこそ数分なんだから大丈夫だろうなんて言われる。
これ以上話を続けたところで平行線のままだろう。それなら早く済ませて帰った方が得策だと判断するとシルバーは分かったと頷いた。それを聞いたゴールドは「じゃあ行こうぜ!」と言ってそのまま近くのコンビニに入った。室内は暖房が効いているようで、暖かな空気が肌に当たる。
「コンビニって暖かいから出たくなくなるよな」
「だからっていつまでも居れる訳じゃないんだからさっさとしろ」
長いなんてしたら店員に迷惑である。どうせ家に帰るにはまたあの寒い中を歩いて行かなければならないのだ。出たくない気持ちが分からなくもないが、長居をすればするほど出るのが辛くなるのも目に見えている。それなら早く用を済ませて家に帰る方が良いだろう。
出来ればまだここに居たいけれど、ゴールドもシルバーの言い分は分かる。それもそうかと納得して目的の物を手に取るとすぐに会計を済ませた。
「あーやっぱ寒いな」
買い物を終えてコンビニを出て第一声。さっきまで暖かい場所に居たから余計にそう感じてしまうのかもしれない。寒いと言うと余計に寒くなるだろうと思いながらも、もうシルバーは突っ込むことをしなかった。
「それなら真っ直ぐ帰れば良かっただろ」
「それとこれとは別だっつーの。コンビニに寄りたかったんだから」
コンビニに寄らずとも家に帰れば、少しでも早く暖かいところで過ごせただろう。たかが数分といえばそれまでだが、寒いと連呼するくらいなら一秒でも早く帰った方が良かったのではないかと思う。それもコンビニに寄りたかったのだから別問題ということらしいが。
「ほら」
袋の中をガサゴソと漁ると、その中から一つを取り出してシルバーの目の前に差し出した。何だと目で訴えれば、良いから受け取れという風にそれを渡された。
ゴールドが渡したそれは先程のコンビニで買ったと思われる肉まん。それを半分にした片方を渡されたのだ。肉まんはまだ温かく、冷たい手に少しずつ熱が伝わっていくのを感じる。
「色々と手伝って貰ったからそのお礼」
「手伝ったといっても分担作業じゃなかったか?」
「手が回らなかった分は手伝って貰ったから。ま、細かいことは気にすんな」
そう言いながらゴールドはもう半分の肉まんを食べる。
確かに今日は分担作業でシルバーはゴールドよりも先に作業を終えた。それからまだ終わっていないゴールドの分も手伝っていたから、そのお礼ということのようだ。分担作業といっても会長が目を通さなければならないものは当然他の役員には出来ない訳で、ゴールドが処理しなければならないものは多かった。自分の手が空いたということもあり、シルバーはそんなゴールドを手伝っただけのことである。
別にそれに対するお礼なんて必要ないが、せっかくくれたのだから今回は素直に受け取ることにする。この寒い中で食べる温かい物は、普段とはまた格別の美味しさがある。
「でも全部終わって良かったぜ。残ってたら明日も放課後潰れたからな」
「どっちみち明日も生徒会だけどな」
それでも仕事が残ってるのと残ってないのとでは違うだろと会長は話す。一応仕事も出来る会長なのだが、デスクワークはあまり好きではないらしい。行事で盛り上げる方が得意であり好きなのだ。勿論、デスクワークも仕事なのだからきちんとこなしている。
新しい生徒会は会長や副会長がしっかりしていることもあり順調に活動をしている。シルバーはといえば、ゴールドに巻き込まれて副会長をやっている。ちなみにクリスも副会長だ。
「明日はすぐ帰れると良いんだけど」
「何か用事でもあるのか」
「いや何も。でも、早く帰れれば寄ってけるだろ」
どこにとは言わなかった。言わなくても通じると知っているから言葉にしなかっただけだ。実際にシルバーに通じているのだから問題はないだろう。誰も寄って帰るとは言っていないと返しておいたけれど、全然気にしていないのだから厄介だ。幼馴染というだけあって、その辺のことは分かっているのだろう。
「たまには良いだろ?」
何を根拠にそう尋ねて来るのだろうか。まぁ、たまになら良いとシルバーも答えるけれど。
昔はそれこそ毎日のように遊んでいたものだ。高校生になった今では、こうして一緒に帰ることはそれなりにあれど昔ほど遊んだりはしなくなった。とはいえ、今でも休みの日に勝手に連れ回してくれる幼馴染は居るが。なんだかんだでその幼馴染に付き合って、今もこうして仲良くやっている。
「それなら生徒会の仕事をさっさと終わらせるんだな」
「じゃあ明日の予定は決まりだな」
明日は今日ほどやることもないだろうし、早く終わらせようと思えばそれなりに早く作業することくらい出来るだろう。それくらいは要領よくやれる自信もある。こう見えて成績は優秀なのだ。
「今更やっぱりナシとか聞かねぇぜ?」
「誰が言うか。その代わり最初から真面目に取り組め」
「分かってるって」
だからその後は、という言葉は飲み込んだ。それはまたその時で良いだろう。
温かさをはんぶんこ
(手繋いで帰れば少しは温かくなったりしねぇかな)
(する訳ないだろう。馬鹿じゃないのか)
(少しは変わると思うんだけど試してみねぇ?)
(やりたければ一人でやれ)
(一人じゃ無理だって。人通りも少ないし、な?)
(…………少しだけだぞ)
肉まんをはんぶんこ。ちょっとは温かくなったけれどまだ足りない。
だから手を繋いでお互いの体温を分け合おう。
そうすればもっと温かくなれるかも?