太陽が昇ると窓から光が差し込んでくる。窓を開けてみればそこには青い空が広がっている。
 今日も新しい一日が始まった。








「おーい、ブルー。アレってどこにあったっけ?」


 リビングにやってきたレッドが開口一番にそう話す。その姿を見て、呼ばれたブルーは溜め息を一つ。


「アンタね、アレで分かる訳ないじゃない」

「えっと、ほら。あの……」


 アレという抽象的な表現では何一つ意味は通じない。それだけで意思疎通がしっかり出来る人なんて居るのだろうか。どれ程の仲が良くても難しいことだろう。
 しかし、レッドからは次の言葉が出てこない。出てくるのは同じような言葉の羅列。その名前を言おうとしているのは分かるのだが、なかなか出てこないらしい。


「もしかして、コレのことですか?」


 そんなレッドの様子に気付いたイエローが、二人の元までやってきて口を開いた。手に持っている物へと視線を向ければ、レッドの表情は一気に明るくなる。


「あ! そうそう! ありがとな、イエロー!」


 イエローから物を受け取ると、レッドはお礼を言いながら歩いていく。それに「いえ」と笑みを浮かべて返した。
 そんな二人のやり取りを見終えて、ブルーは「良く分かったわね」と声を漏らした。先程の会話では、レッドの探している物を理解するのは難しい。それなのに、イエローはいとも簡単に何を探しているのかが分かったのだ。「イエローはレッドのことを分かってるのね」と言えば、イエローは「そんなんじゃないですよ」と言う。


「なくなっていたから、さっき買ってきた所だったんです」


 それを聞いて、ブルーは成程と思う。イエローは細かいことにもよく気付いてくれるのだ。それで今回もなくなっていたのに気付いて買ってきた所、レッドが何かを探していたからもしかしたらと繋がったらしい。


「イエロー、ちょっと手伝ってくれないか」

「はい、分かりました」


 別の部屋からやってきたグリーンがそう言えば、イエローは返事をしてすぐにそっちに向かう。気の利く良い子よね、とブルーは心の中で思う。
 一方、別の場所ではゴールドが「兄さん!」と呼びながらレッドの元へと駆け寄る。「何だ?」と短く尋ねれば、ゴールドはすぐに口を開く。


「兄さん、バトルしようよ!」

「そうだな。じゃぁ、これが終わったらやるか!」


 ゴールドの提案にレッドもすぐに了承の返事を出す。けれど今は別のことをやっているから、それが終わってから。それにゴールドも納得して「分かった」と答える。
 先に行っていようかとゴールドがボールを手にすると、後ろから名前を呼ばれる。聞き慣れている声の主は、髪を二つ縛りにしている兄弟。


「ちょっとゴールド! こっちを終わらせてからにしなさいよ!」


 案の定というべきか、発された言葉は大方予想していたもの。明らかに怒っているのだから、予想が当たるのも当然と言えばそうだけれども。


「別に後でやるから良いじゃん」


 今すぐにやる必要のあることではない。それはいつでも出来ることであって、後でやっても変わらない。それならば後で良いだろうとゴールドは思うのだ。
 けれど、クリスにすかさず「ダメよ!」と否定される。クリスからしてみればいつやっても同じことなら早くやるべきだと思う。わざわざ後回しにする必要性こそないのだから、やれることは早くに終わらせる方が良いのだ。


「大体、兄さんだってすぐにはバトル出来ないんでしょ。それまでに出来るじゃない」

「分かったよ。やりゃぁ良いんだろ」


 引く様子のないクリスに、ゴールドは仕方なしに頷いた。このまま話していても埒が明かないということは、長年一緒に居れば分かるというもの。それならばさっさと終わらせてバトルをする方が良いに決まっている。
 こんな会話を二人がするのはいつものこと。日常茶飯事のことなのだ。ゴールドとシルバーの喧嘩も良くあることで、一番下の兄弟達はいつもこんな感じなのだ。それでも結局は仲が良いと分かっているのだから、他の兄弟も何も言わずに三人を見ているのだ。


「そういえば姉さん、この間話したやつは」


 そんな二人を余所に、シルバーはブルーに尋ねる。何を指しているのかはすぐに伝わったようで、「それなら心配いらないわよ。ちゃんと進めてるから」と笑顔で答える。
 ガチャという音がしたかと思えば、再びリビングに戻ってきたグリーンが怪訝そうな目でブルーのことを見る。


「全く、今度は何をしようとしているんだ」

「あら。変なことなんてしようとしてないわよ。シルバーの頼みなんだし」


 それは普段は変なことをしている自覚でもあるのだろうか。言ったところで否定されるのは目に見えているが、何をしているのか分からないのも事実だ。本人に言ったら、失礼だとか言われそうだけれども。だが、シルバーが頼んだものなら心配も要らないだろうと思ってしまったのは嘘ではない。
 その後ろからやってきたイエローが苦笑いをしながら、「ブルー姉さん」と声を掛ければ視線はそちらに向く。ブルーが「どうしたの?」と尋ねれば、イエローは用件を伝えるべく話す。


「そろそろお昼の支度をしようと思うんですけれど、何にしましょうか?」

「そうね、カレーで良いんじゃないかしら。材料も結構沢山残ってた思うし」

「そうですね。じゃぁ、これから用意しますね」


 イエローはそう言って、今度は台所へと向かう。それを見たクリスが「私も手伝います」とイエローを追い掛けた。それから二人で昼食の支度を始める。
 「お前は良いのか」とグリーンがブルーを見れば、「あの二人が行ってるからね」と台所を見る。あまり大人数で台所に居ても邪魔になってしまうだけである。そこまで狭い訳ではないが、二人で準備をするなら十分でもあるだろう。


「ゴールド、こっちは終わったけどそっちはどうだ?」

「あ、兄さん! オレの方ももう大丈夫だぜ」

「よし、なら外行ってバトルするか!」


 そんな会話が聞こえてきたかと思えば、バタバタと掛けていく音が聞こえ出す。イエロー達がご飯の支度を始めているが、すぐに出来る訳ではないから大丈夫だろう。一応「あまりやり過ぎないようにしなさいよ」と言っておく。「分かってるよ」と返ってきたが、きっとバトルを始めたら熱中してしまうのだろう。

 料理を作ったり、バトルをしたり。皆それぞれで過ごしている兄弟達。
 さて、午後はどんな日になるだろうか。










fin




サイト5周年&ゴールド誕生日企画のリクエスト小説で家族パロです。
リクエストは「図鑑所有者で家族パロ」とのことだったので、カントーとジョウト所有者で家族パロでした。